第一王女

 そこに居たのは、第一王女、また皇太女こうたいじょのテレーゼ様だった。


「テレーゼ、様」


 フレア様の目が見開き、言葉が漏れ、驚きで制止する。私も、姫様も。その圧に、鋭さに。


「何をしているのかを聞いているのよ」


 テレーゼ様の視線が私たちを貫く。


「何もしていません、姉様」


 フレア様はふいと、顔を逸らし、面倒くさそうな表情を浮かべながら答える。


「行くわよニナ」

「そ、うですね。もう少しでローガン様もいらっしゃいますし……」


 ニナは横目で私と姫様を見て、申し訳なさそうにぺこりとした。そして、早足でカツカツと音を鳴らすフレア様と共に歩き出す。

 すると、フレア様がテレーゼ様とすれ違いざまに何か言ったらしい。


「フレア」


 静かにテレーゼ様が顔を顰める。

 ふふっとフレア様は不敵な笑みを浮かべてそのまま去っていった。




 嵐が去り、シャルロッテ様の怒涛の感情も落ち着き、自分を取り戻したようだ。


「行ってしまわれた、わね」

「……ええ」


 気が抜け、去っていった方向を見つめていると、


「大丈夫かしら? 」


 柔らかい茶髪の、新緑を思わせる瞳が歩み寄って来る。コツコツと靴音が鳴り、歩き方にさえ、上品さを感じる。


「大丈夫、です」


 シャルロッテ様も面と向かって話すのは初めてなのだろうか、緊張した声色で答える。


「あなたもよ、ルルー」


 唐突な私への声掛けに驚き、大丈夫です、と伝える。そうだった、このお方は、……。いや、ここまででは無かったな。

 静かに私の心を落ち着かせる。


「フレアが、ごめんなさいね。あんなことをしないよう私からも注意しておくわ」


 ふう、と溜息をつきながらテレーゼ様は言う。その姿は模範的な姉そのものであった。


「いえ、私の不注意が原因ですし、平気です」

「いいえ、それだとしても、あの態度には問題があります」


 きっぱりと言い切り、じっと私と姫様を見つめるテレーゼ様。視線に気が付き、シャルロッテ様が言う。


「……テレーゼ様? どうかなさったのですか? 」


 シャルロッテ様が首を傾げる。はっとした様子でテレーゼ様は答える


「申し訳ないわ。あまりにもシャルロッテとルルーが、似ていて……」


 それは、そうだろうな、と思ったが、テレーゼ様の表情には、なんとも言えない、あの時の国王を彷彿とさせる、申し訳なさが含まれていた。

 どうして、国王も、テレーゼ様もそんな顔をするの?

 そうですか、と姫様の声が遠くから聞こえたが、私には謎が深まるばかりだった。

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