王女たちと将軍

「……そうなの? 」

「ええ。私が王女の時も言葉遣いが荒く、何度か注意したのですが、一向に直らず、それどころか私に逆ギレさえしていました。それ以来フレア様とは口を聞いていませんね」

「……ルルーと仲悪かったんなら、私とでも仲良くはなれないかもな」


「テレーゼ様とはお話になりましたか? 」

「うん。素敵な人だね。なんだろ、上品な雰囲気を持ってた」

「ええ。シャルロッテ様のゴールはテレーゼ様でもありますから、見習っていきましょう」

「うん」


「……言葉遣いはどうでした? 」

「たぶん、だいじょぶだよ、うん。あんまり話さなかったし、うん……」

「これは……後で一から教えて差し上げますね」


 渋い顔をする姫様。


「王族たるもの! です。テレーゼ様のようになるには必要なことです」

「……王族って大変だね」

「……そうですね」


 二人は道のりの距離を思い知らされたような気がした。




「ここにカイルさんがいるの? 」

「はい」


 緊張したであろう顔合わせも終わり、昼食後の運動も兼ねて、姫様がアランディス卿の元を訪れたいと仰ったので鍛錬場へとやってきた。

 国お抱えの騎士団は基本的に王城に併設されている練習場にいることが多い。ここで個々の実力を常日頃磨き続けているのだ。実力が認められると、王族の専属の騎士、つまり護衛騎士となることが出来る。

 そういった場合になると、主人から王家の紋章である白百合のペンダントを受け取り正式な護衛騎士となる。謁見の時に国王が認めてくれたあれが認証である。

 私が王女の時は狭い思いをしていただろうから、認められて本当に良かったと心から思う。

 

 遠くから練習場を眺めると、どうやら、多くの騎士が鍛錬をしている。その中にアランディス卿もいた。


「あ、あそこにいらっしゃいますね」

「え? どこどこ? あ、いた」


 目を凝らし、姫様はアランディス卿の黒髪を見つけたらしい。


「しかし今は鍛錬中のようですし、また時間が空いたら行きますか? 姫様がどうしても、というなら」

「おや? これは珍しい客人ですなぁ」


 右を見ると、そこには騎士団をまとめあげ、現将軍を務める、ゲイル・デオン将軍がいた。雄々しい顔立ちで、強者の風格が出ていた。


「デオン将軍様。こんにちは」


 とりあえず私は挨拶をする。この場合、姫様は将軍と会ったことがないから私が切り抜けるしかない。


「こんにちは、噂はかねがね聞いていますぞ、元王女の専属メイドと本当の王女様が現れた、とね」


 にやりと口角を上げ、将軍は言う。なんとも嫌味ったらしく言う人物だ。


「そうでございましたか。噂の通り、私は今は第三王女シャルロッテ様の専属メイドでございますが、何か? 」


 少し苛ついたので、微笑んでみせる。


「いいや、なんでもありませんよ」


 ふっと将軍は目を伏せた。


「ところで、こんな所にどんなようです? ご覧のようにここにはむさ苦しい男どもしかおりませんが」

「姫様の護衛騎士であるアランディス卿に逢いに来たのですが」

「ああ、カイルなら自主鍛錬をしているだけだと思いますよ。呼びましょうか? ルルーさん? 」


 この人に頼むのはなんとなく癪に障るが、致し方ないだろう。お願いします、と頼んだ。


「では少しお待ちを」


 将軍は上機嫌でアランディス卿を呼びに鍛錬場へと足を運んで行った。


「なんか気に入らない」


 ぼそっと姫様は呟く。


「ルルーを特に貶してるし」


 将軍が向かっていった道を姫様は睨みつける。


「皆ああなのです。気にしていたらきりがありませんかし、……大人しくアランディス卿を待ちましょう」


 姫様は優しいお方だ。その気持ちだけで、私は救われていますよ。

 数分後、アランディス卿が現れた。

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