コトリ社長の呪縛
ツバルのかさ上げ工事ですが、既に一~二階部分の貯水槽及び上下水道は完成し、建物の官公庁から住宅部分の一部が完成しています。まあ官公庁と言ってもビル一つですけど。それでも長年の問題であった水不足解消の切り札として感謝されています。
そこで官公庁ビルの完成の祝賀会が開かれるそうでコトリ社長も招待されています。コトリ社長は忙しいうえに例の強度の時差ボケがあって、海外出張は出来るだけ避けられるのですが、
「今回は行ってくるで」
エビ料理が目当てかも。ただ行くのも大変です。プライベート・ジェットを使いますが、さすがに一飛びとはいきません。往路はグアムとフィジーでの給油が必要になります。
「ツバルでの給油はムチャクチャ高いからな」
ですから復路はグアムだけの給油で帰って来れます。神戸空港までシノブ専務と見送りに行ったのですが、
「クシャン」
コトリ社長は風邪気味の様です。
「たいしたことないやろ」
笑って飛び立って行かれました。夜はシノブ専務と飲みに行ったのですが、
「ミサキちゃん、気にならない?」
「風邪ならクスリ持って行ってましたし、ツバルにも病院はありますよ」
「そうだけどコトリ社長は五十歳なのよ」
コトリ社長は次座の女神として優れた能力がある一方で呪縛も存在します。
・宿主の寿命は五十歳前後
・子どもが産めない(そもそも妊娠しない)
・愛する人と結婚できず、無理やり結婚すれば相手を不幸にする
このうち前の二つはアラッタの主女神に課せられたものであり、最後の一つは古代エレギオン王国滅亡時に国民の保護のために自らかけたものです。
「幸せな結婚の呪縛は当時のユッキーさんが解いたけど、残りの二つはどうなっているのかわからないじゃない」
コトリ社長やユッキー副社長の見方では主女神がシオリさんとして目覚めた時に解けたのではないかとしています。もっともコトリ社長も五十歳ですから妊娠については不明ですし、ユッキー副社長も、
『試したいけど相手がね。とくにコトリは初妊娠・初出産だから行きずりの相手じゃ嫌でしょ。その辺はわたしも同じだけど』
ミサキだって行きずりの男相手に妊娠どころか、やるのもゴメンです。寿命についてはそれこそ生きてみないとわかりません。この先、七十歳、八十歳と生きてやっと証明できるところです。コトリ社長も、
『月夜野うさぎはテストやな。長生き出来たら次の時に結婚して子ども作るで』
この辺の時間感覚がミサキにはまだまだですが、シオリさんが目覚めたる主女神として復活している確信し、それにより主女神の呪縛が解けたと考えたのがまだコトリ社長が三十歳の時だったはずです。
少なくとも幸せな結婚の呪縛は解けていたのですから、結婚ぐらいしても良かったようなものですが、
『どうせやったら一遍に経験したいやんか。五千年もお預けされてるんやし』
男運の悪さもありそうで、小島知江時代の山本先生の時は不幸な結婚の呪縛があったから仕方がないにしろ、立花小鳥時代の柴川君の時はもったいない気もしています。叙事詩がらみはありましたけど、振らなきゃ結婚できていたはずです。
『あの頃はまだまだ古代エレギオンのトラウマが強かったからな。ユウタの赤い糸はコトリやなくて相本先生につながっとったんや』
月夜野うさぎになってからもそうで、あの時はユッキー副社長はジュシュル、コトリ社長はアダブ、ミサキはディスカルを恋人にしましたが、この三人の内で地球に帰って来れたのはディスカルだけで、さらに間違いなく死亡しているのはアダブだけです。ジュシュルも相当怪しいですがユッキー副社長は生きていると信じてますけどね。
「なんかあの風邪をこじらしてなんて思うのよ」
「それは無いのじゃありませんか」
ミサキも宿主代わりは一度経験しただけですが宿主の死期はなんとなくわかりました。コトリ社長ならもっとのはずで、ミサキが知っている二回なら年単位でわかるとして良さそうで予め準備もされています。
ツバルなんかで宿主代わりになればツバル人を宿主に選ぶしかありません。ツバル人だって悪いとは言いませんが、ツバルなんかで宿主代わりをすれば日本に帰って来るのも大変になります。なによりコトリ社長はジャンプできません。
この辺はユッキー副社長の助けがあれば抱えた上でジャンプできますが、ユッキー副社長はシチリアから兵庫津までコトリ社長を抱えた時のトラウマがあり、
『コトリをもう一度抱えるのはヤダ』
そう言いながら怪鳥騒動の時には抱える作戦を立てましたが、
『ホント、抱えずに済んでラッキーと思ったもの』
コトリ社長も自力で宿主代わりをしたいはずです。
「死期を感じていないからツバルに行かれたはずです」
「そのはずなんだけ、時々チョンボもされるから」
それはあります。稀代の策士とはコトリ社長の異名ですが、とにかく思考過程が常識を飛び越えます。いや、そんなレベルじゃなく銀河系まで飛んでいきます。飛躍しきった発想からグルグル回ってなぜか着地点が正解みたいな不思議な人です。これだってユッキー副社長に言わせれば、
『最近は大ハズレはないけど、かつては結構あったのよ。コトリは大きなことでは間違わないけど、小さなことではエエ加減な時があるもの。エエ加減というより、あれはトラブルのを楽しんでいる気さえしてる』
それはミサキにもわかる気がします。わざと事を大きくして楽しんでいるとしか思えない時が多々あるのです。コトリ社長に言ったこともあるのですが、
『固いこと言わんでも、損出してないし。どうせやったら、これぐらい楽しませてもらわんとツマランやん』
もっともユッキー副社長も他人の事は言えない面があり、コトリ社長の尻馬に乗って火に油を注ごうとする時もないとは言えません。
『あら、そう。わたしは真面目にやってるけど』
ええ真面目ですとも。あんな怖い顔をしてやらかすものですから、かえってタチが悪いところもあります。とにかく阿吽なんてレベルの呼吸の合わせ方じゃありませんから、ミサキやシノブ専務さえ振り回されて、どれだけ大変だったことか。
『そんなに呼吸は合ってないわよ。コトリとは相性悪いんだから』
これも耳タコぐらいに聞かされてますが、ネジとネジ穴ぐらいに相性はバッチリです。
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