落ちこぼれクラス全員でパーティーを組んだら何とかなるかも知れない

たて あきお

第1話 うちの担任がドジっ子すぎる!①



 Д 月 АД 日 はれ 日直 カッツウェル



 やぁ、俺の名はカッツウェル。このクラスの学級委員長をしている。こう見えて実は劣等生だ。えっ? 劣等生なのにどうして学級委員長をやっているのかって? 話せば長くなるが……

 まぁ、その、なんだ…… ハハッ、そういうことにしといてくれよ。


 学級委員長は出席をとるもの。この学校の決まりさ。ついでに今日は日直も回って来たので、まとめて学級日誌も書いているところさ。

 ДドゥーАДアドゥー日、快晴。本日も実習日和、まる!っと。



「やぁカッツウェル、おはよ」

「おはよ」


 コイツはホワイトエルフのグリム。劣等生だ。


「おはよっ! カッツウェル♪ 点呼お疲れ様」

「おう」


 この栗毛のストレートの女の子は、ヒューマンのミュエ。劣等生だ。


「うっす!」

「おッス!」


 コイツはドワーフのボルダー。むさ苦しい劣等生だ。



「おはよう、今日も実習日和だね」

「実習があればな」


 このバトルドレスに身を包んだ、凛としてるヒューマンは、ヴァルキリーのハルーシア。劣等生だ。


「ハァハァ…… ハルたん、今日も魅力的なパイオ〜 ワシャワシャしたい…… グハッ!?」

「キモイわよ、虫野郎!」


 屋外なら大槍で串刺しにできるのにッ! と悔しがるヴァルキリーさん。

 このハルーシアに回し蹴りを入れられた、太い眉毛に切れ長の目、ぐるぐるほっぺにタラコ唇の、この変た…… 個性の強い男は、オオダンゴムシのゴローマル。勿論、劣等生だ。



 はぁ…… この名簿に載っているカミル・アリシア・トンスラ・たま・ガイドリッチ・ミラージュ・十兵衛・ララ・振り逃げ部長・ツゥアトストラ・あああ・エミリー

 ……みんな劣等生だ。そう、このクラス自体が劣等生の集まりなのだ。


 なぜかって? すぐにわかるよ……


 出席を取り終えたところで、姿の見えない担任の代わりに校長先生が登壇した。何とも気乗りのしない表情でモゴモゴしている。ああやって爺さん校長先生が入れ歯の位置を念入りに計っている時は、余り嬉しくない話を覚悟しなければならない。


「え〜、 今日の卒業試験の件ですが……

 ミザリー先生は スライムに蹴られた右足が痛いそうで、お休みだそうです」




「「「「「「「またかよ〜(ですか)」」」」」」」



 みんな揃って頭を抱えた。

 この冒険者学校は御多分に洩れず卒業試験というものがある。

 俺達〖ミザリー組〗は今、六度目の”試験中止”を宣告されたところである。



「だからテイム飼慣魔法はよせって言ったんだよ」


 この白木の棺桶の中からガタガタと抗議しているのは、バンパイアのガイドリッチ。動く棺桶…… 傍から見ればホラーだな。どうして東洋風の棺桶なのか? 洋風の棺桶が高くて買えないと言っていた。この辺も劣等生らしい。


「誰だァ? スライムは大人しいモンスだから、ミザリーでも安心だって言った奴は!」


 コイツはリザードマンの振り逃げ部長。変わった名前だが、長くなるので割愛。


「それ…… たま……」

「あー!? ツゥアトストラ酷いにゃん! たまは悪くないにゃん! スライムを怯えさせたミザリーちゃんが残念なだけにゃん!」


「「「「「「確かに……」」」」」」


 因みに、この白兎のジト娘っ子はツゥアトストラ。着物の猫娘はたまちゃんだ。いつも一緒に居ることが多い。



 さて、今年もめでたく留年が決まったところで……

 この学校の卒業試験は変わっている。毎回、試験内容は当日まで明かされていないが、たったひとつだけ変わらず求められる条件があった。それが…… 『試験担当官は必ず担任教師が行うこと。なお交替は認められない』


 この不文律は学校創立以来からの決まり事で、担任教師が試験を行えない場合は試験は行われない。すなわち生徒は無条件で留年してしまうのだ。


「ホントに他の先公じゃ駄目なのか、のだ!」


 このガラの悪い”ダークえるふ”はカミル。劣等生だ。長身・美形でハイスペックなのだが、色々残念なエルフなので”えるふ”で十分だ。


「はぁ〜 何度言わせるんだよ馬鹿”えるふ”。ミザリーがいないと俺達はだろうが」

「トンスラ、確かにオレたちはお前の頭と同様無力なのだ。何とかならねぇのかよ、この封印はなのだ。あと、馬鹿言うななのだ!」

「お前こそ、ハゲ言うな!」

「二人とも喧嘩はやめてください。ミザリー先生だって頑張っていたじゃないですか。そうですよね、エミリー様」

「だから”様”は止めろと言っとるじゃろ、アリシア! ……まぁそうじゃな、確かにミザリーは飼慣魔法しかんまほうの習得はまだまだじゃが、ガッツはあった。ガッツはな……


 魔女っ子のエミリーが遠い目をしている。それに倣って謎のご令嬢(自称)アリシアまでもが遠い目を……



「それに約束したじゃないですか。私達は一蓮托生だって!」


 アリシアの言う通りだ。俺達はミザリーと共に研鑽を積み、結果を出さなくてはならない。何故なら俺達は、この事を重々承知の上でこのクラスへと来たのだから。


 それがこの学校が他に類を見ないシステム、〖一蓮托生システム〗なのである。

 なぜ一蓮托生なのか? それはクラスに入ったその瞬間から、担任教師がリーダーとなって、クラスの生徒全員が参加する冒険パーティに組まれるからだ。



 そして今回の卒業試験の内容は何だったのかと言えば……


【野蛮な豚共、放逐されたければヌメラの洞窟に寄生しているキマイラを連れてきなさぁい。スヤァさせたり、ピチョンしてはダメよォ。ちゃんと首輪を付けて連れて来るの。あ、怖いからちゃんと飼い慣らしてきなさいよね!たぁくさんモンスが彷徨いてると思うけど、野蛮な豚共にはお似合いよねぇ。せいぜいブヒブヒ鳴いてきなさい!】


 これである。随分とアクの強い案内文だが、毎度の事なので誰も触れたりはしない。スルーも立派な処世術だからな。


「何ひとりでブツブツ呟いてるの、カッツウェル?」

「何でもないよ」


 隣の席のミュエが不思議そうにしている。二言三言やり取りをしていたら、オホン!と咳払いが聞こえたので、俺は教壇の方に意識をむけた。


「あー 言い忘れておったがのぅ、ミザリー先生は明日から復帰されるから、次の試験に向けて頑張りなさい」


 そう言い残すと好々爺の笑みを浮かべ、校長先生は教室を後にした。


 明日は恒例の〖反省会〗だな、こりゃ。


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