クズには孤独がよく似合う

満梛 陽焚

消えた月

 それは全く以って未知的な事変でした。

 其の日、秋始まりて肌寒し。

 奇天烈な思いやりに溢れる、案内業務に向かうため、彼は薄明るい雑踏の中、電車に乗り込んで行く。

 

 「突然ですが、緊急事態です、月が先ほど姿を消しました」


 何処どこからともなく聞こえる緊急放送に、狼狽うろたえる者、逃げ惑う者、諦める者、様々な情報が錯綜し平穏な世界は終わりを告げた。


 「困ったなぁ、仕事は無い、お金は無い、食べ物も無い、地球もどうなるのか分からない、ずうっと普通でよかったのになぁ」

 

 彼の名は『ソヨカゼ』という。


 ソヨカゼは「普通」というモデルに憧れていた。


 数週間後、月が消えた日本では、有事に備え若者が軍事組織に徴兵された、それが普通だった。

 そして、ソヨカゼも例に漏れずそうなったのである。


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