一人きりの美彩
tk(たけ)
第1話 ひとりで生きてる女
私は砂川美彩(さがわみさ)。
三十路を迎えて最近では今まで以上に自由気ままに生きている。私には今まで生きてきてよく分かった事がある。私には独りが性にあっているという事だ。
そして今日も化石燃料を使ってしまっている。地球には害だけど、私にはきっと益だ。使うことで満たされる私の今ある唯一の息抜き。私の心がリフレッシュするのだから多少燃やすのは認めて欲しい。
今日は取り敢えず北に向かって一時間ほど走って来た。すでに終電も終わり、普通の人は眠っている時間。
私は鮮やかなライムグリーンパール色を纏った愛車を走らせている。向こうに見えたコンビニで休憩して、そこから折り返して自宅へ戻ろう。
コンビニの駐車場に止めるとみんなから注目されるのが分かる。夜でも目立つ明るいグリーンの車体。
決して見せびらかしたい訳ではないし、高級車では無いが稀少車だとは思う。この車は今の私の生き様のように最小限しか無い。
車の大きさは小さく、さらに座席が二人分しか無い。そんな使い勝手の悪い車を買う人は少ない。私も三十を迎えるまでは皆と一緒で普通だと思っていた。
でも色々とマイノリティーなんだと認めざるを得ない出来事がいくつかあって、ちょっと周りとは違う自分を認めることにした。
そして無趣味を解消するために貯まっていたお金を使って、このコンパクト2シーターカーを買った。それがこの愛車だ。この車がもたらしてくれた物は二つある。
安息の時間と、同じ車に乗る愛好会への参加資格だ。愛好会に参加すると正確で有益な情報が得られる。車の手入れ、楽な洗車の方法、汚さない保管方法、そして大事に乗る方法などについてだ。自覚は無いが、私からもきっと何かを返しているのだろうと思う。
私と彼らとの関係は様々だが、何かしらのギブアンドテイク関係、もしくはかわいい生徒役といった所だろうか、上手く程々の距離で付き合いが出来ている。
次は来週末に定例ミーティングがあるので私も参加を予定している。コンビニでの休憩を済ませると、自宅のガレージに向けて車を走らせる。そして近所まで戻るといつものコンビニに寄った。
翌日の朝食を持ってレジへ進むと知らない店員だった。
女性で夜勤か……
ちらっとネームプレートを見るとシライシと書いてあった。目線を戻すと不愉快そうな顔を店員がしていた。
何コイツ!、ちょっとムカッとしたが、無言で電子マネーで払い、とっとと出て来た。お店を出ると思わず大きな溜め息が出てしまったが、車に乗ると気持ちを切り替えて運転を楽しんだ。
それ以降、毎週のドライブの帰りにコンビニに寄ると、いつも彼女が一人で夜勤をしていた。態度は気に食わなかったが、顔も容姿も平均レベル以上だ。年齢はおそらく二十代半ばだろうか。
コンビニ夜勤でワンオペなんて、多少の危険は承知で働いてるのかなどと同情しかけたが、最初の不満げな顔が浮かび、すぐに同情心は消えた。
いつもどおり翌朝の食事を買い、駐車場へ戻ると子供の声がした。
「あっ、こらっ、駄目よ触っちゃ。めってされちゃうよ」
いくぶん年配の女性の声もする。どうやら私の車の向こう側に居るようだ。車に乗ろうとそちら側に回ると男の子とおばさんがいた。そして男の子は私の車に触っていた。
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