第4話 ― せんせえは女の子
「……う〜ん……」
どうやら俺は無事に転生したらしい。そして今まさに目覚めかけだ。
確かに神の言った通り、前世の記憶である仕事の内容や生まれ故郷のこと、親の顔とかは記憶にある。大好物のあの料理のこともバッチリだ。ただやはりと言うべきか、自分の名前が出てこない。
ゆっくりと目を開けると、無垢材の天井が目に入る。この状況からして、俺はベッドに寝かされているのだろうと確認すると、やはりベッドの中。
そのままゆっくりとベッドから上半身を起こし周りを見てみると、どうやらここは部屋の中のようで、机やタンスなんかが当たり前のようにあり、生活感がある。広さは六畳といったところか。
ここにいる俺は、一体どういう状況なのか? まずは部屋の中を調べることにしたのだが――
「おはよ〜、せんせえ〜!」
ん? なにやら下の方から子供らしき声が誰かに呼びかけている。先生ってなんだ? 俺のことか? 部屋のドアを開けるとどうやらここは建物の二階のようで、部屋を出るとすぐに階段がある。
そろりそろりと某爬虫類のコードネームのアレが如く下へ降りてみると。
「あれ〜? せんせえまだねてたのぉ? くるの早すぎたかなぁ?」
金髪をおさげに結んだ女の子がこちらを見上げてそう言った。
年の頃はおそらく8〜10歳あたり。見た目はなんと可愛いことか。というかこの口ぶりからして、確実に俺を知ってるようだ。神が言っていた、『その世界の住人として転生は可能』というのは本当だったと認めざるを得ない。
「えっと……、君は?」
「せんせえってばまだねぼけてるの? 今日はおべんきょうの日だよ〜? わすれちゃったの?」
女の子の言うことが本当なら、この世界では俺は先生らしいぞ。だがしかし、俺は転生したばかり。自分の素性なんかもさっぱりで、しかも転生前に捨てたせいなのだろう、肝心の自分の名前すらもわからない。
というか
さてどうしたらいいのか……よし。
「っ、じゃ、じゃあ、復習してみようか。俺の名前を書けるかな?」
一体自分が何の先生なのかわからないが、とりあえず先生というからには何かを教えているのだろうと推測できる。なのでこの質問は妥当と考えた。半ば賭けでもあるのだが。そして俺の問いかけに女の子は頭上に大きなはてなマークを出している。
「? おれ? ……うん、いいよ。ちょっとまってね」
そういうと女の子は鞄から紙と鉛筆を取り出して……というか鉛筆があるのかこの世界は。と、今はどうでもいいことを考えていると、女の子はスラスラと俺の名前を書き始めた。
「はい! これで合ってる?」
そう言って差し出してきた紙をみると、
エイミー せんせえ
と書かれていた。そうか、俺はエイミーという名前なのか。これだけでも充分な成果だ。というかエイミーって女性っぽい名前だけど……まぁ今はいいか。名前が分かっただけでも儲けものだ。
「はい、よくできました! じゃあ次は君の名前も書いてみようか」
「オッケ〜!」
なんとも可愛らしい鈴のような声で、女の子は先ほどの紙に今度は自分の名前を書き始める。
みーム
ふむふむなるほど、この子はミームというのか。見た目だけじゃなく名前も可愛いな。しかもちゃんと書けてないところも年相応でますます可愛いぞ、ミーム!
「はい! 上手に書けました!」
差し障りのない返事をしてミームの頭を撫でると、これ以上ないくらいの笑顔で喜んでいるのだが、これ以上に深く色々探ると変に思われそうだ。このあたりで止めておこう。
「今日はおべんきょうしない?」
「っ、あ、あぁそうだね、実は急用ができちゃって……明後日にしようか?」
丸二日
「うん、わかった! じゃあ他のみんなにもそう言っておくね!」
「ありがとうミーム。では明後日のこの時間に」
「は〜い、せんせえ、またね〜」
そう言ってミームは帰って行った。そして最初のクエストも無事にクリアした……のかどうかはわからないが、まぁどうにかなったと思う。
―――――――――――――――
(うーん、どうやって色々調べればいいものか……)
ふと机に目をやると、ほどよく年季の入った手鏡が目に入った。そういえば俺の容姿は持ち越せているんだろうか? 容姿なんかどうでもよかったから敢えて神には何も言わなかった、というか考えがそこまで及ばなかった、と言った方が正しいか。どうせならイケメンで、とか言っておけばよかった。
手に取った鏡を真正面に持ってきて、確かめるように自身の顔を見る。
(……!)
え? 俺、女になってるじゃん!?
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