94日目

今日は何やら朝から不穏な空気が漂っている気がした。

谷の底に嫌な風が吹いている。

生き物は珍しく威嚇するように喉を鳴らしていた。

高い高い谷の上から、何やら光る物が飛んでくる。

生き物は半歩後ろに飛び避けると、今まで立っていた場所に金色の矢が刺さった。


「見つけましたよ!先輩!」


天使の部下と思わしき若い二枚の羽根の天使が大声で天使に呼び掛けた。


「天界に帰りましょう!」


二枚の羽根の天使の要求をやんわりと首を振ることで否定した天使は、自身の右肩に手を添えて、羽を掴んだ。

バリッと音を立てて羽が千切られる。

その様を見た二枚の羽根の天使は大きな悲鳴の声を上げた。

生き物は長い耳を思わず畳んでその爆音をやり過ごす。

綺麗に片側二枚の羽根を引き裂いた天使は「これを持って帰って、私は死んだと言ってくれ」と、二枚の羽根の天使に託した。

四枚の羽根から、片側二枚の羽根になった天使は「大丈夫だよ」と生き物の頭を撫でる。


「私が、ここにいる我儘を許してくれ」


天使の懇願する声は谷の底の風に吹かれて消えた。

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