40日目

その日、生き物は布団から起き上がれなかった。

体の中に熱せられた鉄が流し込まれたように熱く、ずっしりと重く、自由が利かない。

視野がぼんやりとしている。滲んだ視界で捉えられるのは、見慣れたベッド周りだけだ。


ああ、寂しいなと生き物は思った。


ずるずると緩んだ鼻から、水分を含んだ水音が響く。

頭が回らない。何か栄養のあるモノを食べなければと思うが、指一本動かすのが億劫だ。

身動きした時の布の擦れる音すら不快だ。

生き物は長い耳を折り畳んで小さく小さく体を丸めた。

嵐が過ぎるのを待つ野生の小動物のように、巣穴である藁布団の上に縮こまった。


カタンと小さな音がして小屋のドアが開き、何かが四つ足で近づいてくる。

「にゃあ」

聞きなれた猫の泣き声に生き物の目は知らず知らずの間に潤んだ。

「ギャア」

外では心配そうに子ドラゴンが小屋の入り口に顔を突っ込もうと藻掻いている。

その様子が可笑しくて、可笑しくて生き物は小さく笑った。


何故だろう。今日は寂しくない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る