28日目

水を汲もうと湖畔に出向いた生き物の黒々とした目に飛び込んできたのは、小さなドラゴンだった。

生憎今手元にあるのは桶ぐらいだ。

襲われたらひとたまりもないな、と内心冷や汗をかきながら、生き物はゆっくりと湖畔に近付く。

生き物が湖畔の水を汲もうとかがむと「ギャァ」と木々を揺らすような大きな奇声が響いた。

長い耳を折り畳んで音をやり過ごすと生き物は綺麗の主である子ドラゴンを睨みつけた。

バタバタと翼を動かしているが一向に飛ぶ気配がない。

不審に思って子ドラゴンをよくよく観察すると翼を怪我をしているではないか。


生き物は両の手で顔を覆った。


面倒ごとを引き受けるのは得意ではない。

しかし、この状況を見捨てられるほど薄情な性格もしていない。


仕方なく、水を汲むと「おいで」と腕を振って歩き出した。

てちてちと歩く生き物の後ろを四足歩行の子ドラゴンがドスンドスンと歩く。

その姿は、小さな鼓笛隊のようだった。

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