第309話 刹那のうちの出来事と、一瞬のうちの理解

 マルガリータは冴島渉の手によって進化し、【魔黄金龍マルガリータ・ラードン】となった。

 劇的な進化ではあったが、それをしっかりと観測できたものはどこにも居なかった。


 何故なら、それは冴島渉が考えているよりも、遥かに短い時間であったからだ。


 マルガリータの中に行くために、【化身召喚】によって神の力を得た冴島渉。

 そして、マルガリータの中でスキルを調整して色々としていた冴島渉であり、彼の体感時間的には1時間から2時間くらいの出来事であった。

 だがしかし、実際の時間は、もっと短い。


 ----1/75秒。

 まさしく、刹那せつなの、ほんの一瞬の出来事であったからだ。


 神ですら注視しなければ過ぎ去ってしまうほどの、文字通りの短い時間。


 

 マルガリータの進化を調整した冴島渉であったが、戻ると共に【化身召喚】の時間切れとなってしまう。

 『神様』から『人間』へと戻った----この場合は位階ランクが下がったとでもいうべきだろうか----それによって、冴島渉の身体は違和感を直すべく対応が起こる。


 今の今まで75倍の時間間隔で、75倍の肉体速度で動いていたのだ。

 その違和感を元に戻すため、彼の身体は強制的に眠りについていた。

 眠りにつくというよりも、強制的に意識が停止シャットダウンされてしまったというのが近い。


 そして今、マルガリータとヘミングウェイは何事も、そんな裏話があったとも知らず、戦いを続けるのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「(ん……? なんか可愛いボクの身体が変わった?)」


 マルガリータは、自分の身体に違和感を覚えた。

 ----が、召喚獣じぶんたちは人間と違って進化する生き物であるという事を理解し、すぐさま自分の身体の違和感を失くした。


 一瞬のうちに、自分がどういう能力スキルを得たか把握し、身体の長さの違和感を調整。

 そして、新しく得た能力スキルでならば、この暴走状態にあるヘミングウェイを治す事が出来るという確信を得た。


「良いね。可愛いボクが、さらに強くて可愛いボクになったみたいだよ」


 そう言って、マルガリータは新しく得たスキル【黄金の林檎・改】を使い、身体を調整する。




 髪はボリューム感たっぷりの、ふわふわの髪に。

 身体は適度に幼さ、つまりは可愛さを残すために長すぎず。

 ドラゴンの身体であるため筋肉を入れ込んでも見た目には出ないという項目に着目し、筋肉を原子レベルにまで圧縮して詰め込んだ。


「さぁ、ヘミングウェイ」


 ----ずしりっ。


 限界以上に圧縮された筋肉が、彼女が何気なく動くだけで世界を破壊していく。


「---可愛いボクの愛らしさに、ノックアウトしちゃってくださいな♡」


 そう言って、ヘミングウェイの頭を殴りつけ、ヘミングウェイを地面に沈みこませるのであった。


「グギャっ?!」

「まず、お客様は席にお座りくださいませ」


 ニコッと笑うマルガリータは、まるでアイドルのようにそう言うのであった。




(※)理想の身体

 魔黄金龍マルガリータ・ラードンが、スキル【黄金の林檎・改】を用いて作り出した理想的なボディライン。ドラゴンである彼女の身体は人間よりも遥かに強靭であるため、疲れを見せないようにする事と、見ている相手を魅了するくらいの愛らしい身体になることを意識した

 ボリューム感たっぷりのふわふわ髪は以前みた女神の姿を意識し、美人系ではなく可愛い系を目指しているために手足の長さにもこだわった。また、彼女の理想のアイドル像は『どんな時だろうとも最高のパフォーマンスを見せる』ことであるため、筋肉を極限以上に詰め込むことによってどんなに動いても疲れない身体を手に入れた。結果として動くだけで世界が破壊されてしまうほどに強化されてしまうも、それもまた自分が愛らしいからだと割り切っている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る