第304話 いざ行かん、悪癖龍マルガリータへ(1)

 ----【化身召喚】。

 俺がココアを、"《妖狐神》吸血女帝ココア・ガールハント・ヒアリング"へと成長したことによって得た、新たな召喚方法である。


 それは神そのものと一体化する【融合召喚】の一種であり、これを用いると、同じ職業ジョブを選んでいる他の冒険者がその職業ジョブを使えなくなる。

 ココアの場合は、ココアが使っている職業ジョブの【妖狐】は彼女以外は使っていなかったから他に影響はないが、俺の場合は違う。

 俺がこの【化身召喚】によって一体化している今、この世界に生きる他の【召喚士】は、いきなり職業ジョブの力を使えない状況になっているはずだ。


 下手すれば、ダンジョンでの戦闘中の【召喚士】が居て、俺のせいで死んでしまう者も居るかもしれない。


「(だが、冒険者ってのはそんなもんだ)」


 大金を得られる代わりに、命を失ってしまう可能性もある。

 それを理解している者ばかりだろうし、そもそもこの力を使わなければ、もっと多くの被害者が出る事は事実なのだから。




 進化途中でもある悪癖龍マルガリータのスキル、【復讐姫ロクセラーナ】。

 全てのオスに対し、筋力や戦闘力を著しく下げ、赤子相当にまで減少させるという、常時発動・強制発動型の種族スキル。


 いまでこそ、まだ不完全でこそあるが、完全に発動してしまったら、この世界のオスは無価値な存在となってしまうだろう。


 さらに怖いのは進化したら、これがさらに強化されてしまう可能性が高い、との事だな。

 オスだけではなく、自分以外の全てを弱体化させる危険性だってある。


「(【化身召喚】できる時間も限られてるし、早速やらせてもらおう)」


 神と融合した今の俺の、新しい力は、『ありとあらゆる場所への召喚』。

 俺がそこを場所だと認識していれば、たとえ世界の果てであろうとも、今の俺ならば行くことが出来る。


「----という訳で、早速!」


 俺はその力を使い、俺自身をその場所へと召喚する。


 ----今まさに進化途中である、悪癖龍マルガリータの心の中に。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺が【化身召喚】によって得た力によって来られたのは、悪癖龍マルガリータの心の中。

 簡単に言えば、悪癖龍マルガリータの進化している裏側というべきだろうか。


 俺が辿り着いたそこは、どこかの研究施設のような場所であった。

 どことなく薄暗いその空間で、薬品のような独特な臭いがしてくる。


 そしてその真ん中に並ぶように、3つのカプセルが並んでいた。


 一番左のカプセルには『悪癖龍マルガリータ』、一番右のカプセルには『見た事のない黒ドレスの女』----恐らくこのドレスの女が、【復讐姫ロクサーヌ】の発生した理由、という事だろう。


「そしてこの真ん中のカプセルにいるのが、その完成系----進化後の姿という訳か」




 ===== ===== =====

 【不平等の邪悪龍マルガリータ・リリス】(進化途中) ランク;☆☆☆+α 邪悪神竜族 

 悪女の代名詞たる"夜の悪女リリス"の力を受け継いだ、悪癖龍マルガリータの進化形態の姿。相手に対して、『不平等』を押し付け、自分以外を極端に弱体化させる

 アイドルという枠を越え、神の化身たる偶像アイドルとなり、神そのものとなった。その姿を見せる事で人々は魅了されて従い、その声を聞くことで圧倒されて従順となるであろう

 ===== ===== =====



「リリスの力、か……」


 リリス----それはユダヤの伝承に置いて、男児を害すると伝わる女性の悪霊である。

 一説にはサタンの妻とも呼ばれる、最初の悪魔デーモンともいわれる強力な悪女。


 一説には、人類史における"1人目の人間"ともされるアダムの、妻として神に作り出された"2人目の人間"----最初の女であり、アダムの妻となるべき人間であった。

 本来はアダムとリリスは結ばれるはずだったが、アダムはリリスと結ばれることを拒否し、代わりにイヴと結ばれる事となった。


 アダムがリリスと結ばれなかったのは----価値観の相違。


 アダムは、お互い『平等』に扱われることを求めた。

 肌の色の違い、男と女の違い、好きなモノや嫌いなモノなど----そういった違いなどを『違いがある』と認めて、同じ感覚と価値観を持つ同じとして、『平等』な人間として扱われることを求めた。


 リリスは、お互い『対等』に扱われることを求めた。

 相手が1つの力を持てば、もう片方である自分にも同じ力を欲し----互いの力にほとんど差がない、『対等』な人間として扱われることを求めた。


「そしてそれが今……最悪な形で表現されている」


 リリスは対等である事を求めた、そう伝わっているだけだ。

 なにも"不平等を認めた"などという記述はない!


「くそっ、これが【復讐姫ロクセラーナ】の力の源か!」


 つまりは、この右のカプセルから、この『見た事のない黒ドレスの女』を取り出し、別のを入れれば良いという事か。


 しかし、既に悪癖龍マルガリータの進化は、滞りなく進んでいる。

 つまり、ただ取り出すだけでは進化を止めた事にはならず、俺のしたことは無意味になってしまう。

 

「阻止するには、あの黒ドレスの女とほぼ同等の力を持つ何かを入れろ、という訳か」


 【化身召喚】によって強大となった今も、召喚獣の召喚が出来ない俺が、だ。




(※)不平等リリス

 悪癖龍マルガリータが、【不平等の邪悪龍マルガリータ・リリス】へと進化するための力。『見た事のない黒ドレスの女』の正体であり、【復讐姫ロクサーヌ】が召喚獣として具現化した姿ともいえる

 男を篭絡ではなく、支配するために強制的に弱体化する召喚獣であり、レベルはⅨ相当。その際には『対等』ではなく、あくまでも『平等』でないことを求めている

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