第297話 エピローグ

 ----勝負は一瞬でついた。


 そもそも神様と一体化したココアに、たかが強力なだけでしかない職業ジョブを持ち合わせてるだけのブイオーに勝てるわけがなかったのだ。


 本来であれば、ブイオーの勝利は揺るがなかった。

 

 ----保有スキル【神の家】による、10kmを越える巨体。

 ----大勢の分身達じぶんを使っての、蹂躙劇。

 ----回復技以外は通用しない、【救いの塔】。

 ----回復技を根こそぎ自分のモノとする、【災いの種】。

 ----かするだけで相手の体力を99%9割9分削り、相手からの攻撃を強制的に"停止"させる全体攻撃スキル【八十禍津日神やそまがつひのかみ】。


 その他にも多種多様な【塔】の職業ジョブを持つブイオー。

 多くの相手は、ブイオーに勝てるどころか、ダメージを与える事もできないだろう。


 しかしながら、相手が悪すぎた。

 どんなに足掻こうが、神様と一体化したココアに勝利する事は出来なかったのだった。


 僅か数秒で、ブイオーはココアに敗北し、ココアは一息吐いていた。




「はぁはぁ……キツいのぅ、これは」


 一方で勝利をもぎ取ったココアは、額に汗を流しつつ、その場に座り込んでいた。

 

「凄い力ではあるのじゃが……消耗というか、管理が大変じゃな」


 今までの職業ジョブは、神が力の方向性や威力などを決めて、ココアはそれを使うだけであった。

 しかし、神と一体化し、【妖狐神】となった今のココアは、今まで神が決めていた方向性や威力なども、自分で決めなければならない事態にあった。

 おかげで、攻撃の度に威力や範囲などを自分で決めなければならず、考える事が多すぎた。


「自由度が高すぎるというのも、考え物じゃわい」


 今回はぶっつけ本番であるために、慣れない力を慣れないなりに使った結果、力を消耗しきってしまい、倒れてしまった、という訳である。

 まぁ、これは単にココアがまだこの力に慣れていないというだけであり、数こそこなせばある程度は出来そうであった。

 

「あと、ちょっと感知できる範囲を削って置くかのう」


 そう言って、ココアは自分に今もなお流れ込んでくる情報のうねりを、流入を止める。


 神とはあらゆる情報データ接続アクセスできる、全知全能の存在。

 彼女が望もうと望むまいと、未来や過去、この世界ではない別の世界など、さらには一瞬先に起こり得るありとあらゆる可能性----たった一秒でも脳に読み込めば、常人ならば灰になってしまうほどの知覚情報が、絶えず、彼女に流れ込んでいた。


 しかし、それはあまりにも膨大すぎて、新米神様たるココアには扱いきれなかった。

 なにせ、一秒先の未来の情報を処理するだけで、三秒どころか五秒くらいまでかかってしまうのだから。

 とてもじゃないが、今のココアには扱いきれそうになかった。


 それが故にココアは意図的に、その情報を制限した。

 別世界の情報や、過去や未来の情報----神々となってから得た情報を全て、彼女は遮断シャットアウトし、必要な時のみ情報を得られるようにした。

 

「さて、では検索しようかのう。----消えてしまった我が主とマルガリータ、そして敵に洗脳されてしまったヘミングウェイの所在を」


 ココアは検索に該当する情報のみを、頭の中に詰め込む。


「むむっ、また"めもりー"が多い"でーた"じゃのう。消化しきるには一分ばかりかかりそうじゃ」


 とまぁ、そんな風にココアは情報処理を開始して----



 ----ざくっ!!



「なっ、なんじゃ……と?」


 自分の身体が、本体の身体から、血が流れているのに気付いたのだ。

 神であるココアには、自分の身体がダメージを受けているのに気付いていた。



「いやぁ~、神様となっても、神域という場所に居ようとも、【二人三脚】のスキルがある限りは弱点が丸だしになってるようなモノだねぇ。なにせ、悪癖龍マルガリータと体力を共有してるんだから。

 ----そうだよねぇ? 新米神様の、ココア・ガールハント・ヒアリングさん?」



 ニヒヒッ、と血が付いたナイフを持って、"そいつ"は現れる。

 その現れた人物は、ココアは見知った相手であった。


「お主は……何故、ここにおるんじゃ?」


 その人物は、真っ白な獣耳の振袖美女。

 猫模様が施された黒い振袖を着こみ、羽子板を手にした彼女は、ニヒヒッと嬉しそうに笑う。


「久しぶりの再会に、かける言葉は果たしてそれで良いのかなぁ?

 ----それとも突然の訪問に、驚いて逃げ出したいのかな? それはそれで、願ったり叶ったりだけど」


 そう言って、【正月のファイント】は嬉しそうに笑う。


「----それでは、ここからは後輩ちゃんオンステージと参りましょう」



 《8章 完》




(※)未来の情報

 未来予知ではなく、未来に何が起きるかという確率を提示する。簡単に言えば『一秒後に"魔法が直進する"確率が60%、"魔法が左に曲がる"確率が25%、"魔法が左に曲がりすぎて暴発する"確率が15%』というように将来的に起こる可能性が高いモノから提示される

 極めれば周囲の状況を完璧に把握し、どうなるかが予測できるが、現段階だと一秒後の状況を完全に把握するのに3~5秒ほどかかってしまうために実用的ではない

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