第270話 ダブルエムは"マスター"に尽くしたい

 ----回帰ダブルエム。


 空海大地達の前に現れたダブルエムは、【街】所属の、つまりは絶望スカレットの味方として3人と敵対する。


「ダブルエム! あなた、今までどこにっ!?」

「固有スキル【どきどきっ♡ 愛は人を強くする】を#発動」


 ノネックを追いかけて以降、姿を消していた【三大堕落】のダブルエムに、赤坂帆波が問いかけるも、彼女は答えずに、代わりにスキルを発動した。

 その途端、赤坂帆波、そして空海大地と天地海里----全員がその場に倒れる。


「魔力が……回復しない!?」

「えぇ、#魔力欠乏症 という奴ですね」


 魔力が回復しない事に、驚く天地海里。

 そんな彼女の身体に近付いたダブルエムは、そのまま次の行動に移る。


 ----ザクリ。


「がはっ……!!」

「そして、これは#死亡 という奴です」


 天地海里の腹を、ダブルエムの手が貫いていた。

 血がドバドバと流れ、そして彼女の身体がまるで泡のように消えていく。


 すーっと、まるで幽霊が消えるかのように、天地海里はそのまま消滅した。


「海里ぃぃぃぃぃぃ!!」

「うるさいですよ、#空海大地」


 ----ザクリ。


「がはっ……」


 右腕を落とされ、そのまま気絶する空海大地。


「ダブルエム、あなた……」

「やぁ、、"マスター"」


 元、の部分を強調しながら、ダブルエムは赤坂帆波と向き合う。


「元"マスター"、誠に勝手ながら、このダブルエム。【街】所属に移らせていただきます。

 せめてもの罪滅ぼし程度と致しまして、いくつかご指導いたしましょう。----良いですよね、現"マスター"?」


 ダブルエムの問いかけに、スカレットは少し考え込んでいるようであった。

 そして持っていた禍々しい剣を【アイテムボックス】の中に収納すると、そのままくるりと後ろを向く。


「良いでしょう、ここはあなたにお任せしますね。ダブルエム。

 私は今から"ファイント"、そして"武装姫ヘミングウェイ"という召喚獣達に、絶望をプレゼントする役目がありますので」


 スカレットはそのまま、その場を後にする。




 残されたのは、赤坂帆波。そして、【街】所属になったダブルエムの2人。


「#回復薬」


 スカレットが行ったのを確認したダブルエムは、回復薬ポーションを取り出すと、自ら殺した天地海里、そして気絶させた空海大地にもかける。

 気絶状態だった空海大地は起き上がり、同時に死亡"状態"であった天地海里もまた何事もなかったかのように起き上がる。

 どうやら、ダブルエムが発動したスキルのデバフの項目の中には、『死亡』も含まれていたみたいである。


「ほら、元"マスター"。あなたにも」


 ----ビチャン。


 いきなり回復薬をかけられ、唖然とする赤坂帆波。


「ねぇ、ダブルエム。あなた、【街】に所属を移したのよね?」

「はい、#スカレット #彼女に尽くす 今の私の目的はそれですね」

「……なら、なんで私達に回復薬を?」

「別に、私の目的は#敵対 ではなく、#守護 ですので」


 ダブルエムは、淡々と語る。



 彼女は、スカレットの素顔を見て、もう1人の赤坂帆波である事を知った。

 そしてスカレットも"マスター"である以上、【三大堕落】の【不老不死】担当として守ろうと誓った。


「その守るための方法が、【三大堕落】を辞めて、【街】に所属を移すしかなかったので、現状、【街】の【回帰】担当として身を移している訳です」


 洗脳のようなスキルも、スカレットにかけられたみたいだが、ダブルエムには通用しなかった、ただそれだけの話らしい。


「じゃあ、なんで俺を攻撃して----」

「----私を殺したりしたの?」


 ダブルエムに詰め寄る、空海大地と天地海里の2人。


「スカレット様の信頼を得るためと、あなた方の事は前々から嫌いでしたので」


 淡々と、ダブルエムはそう答えた。


「それにデバフの永続化、およびどんな回復薬でもデバフを解除できる【どきどきっ♡ 愛は人を強くする】のスキルを使えば、死んでも蘇生出来るという事は#確認済み #実行可能 ですので、実行したまでです」


 「私はスカレット様の下に戻ります」と、赤坂帆波にダブルエムは淡々とそう説明した。



「元"マスター"、赤坂帆波様。あなたが私に命じられた【不老不死】、私は解決の糸口が見つかりませんでした。

 しかし現"マスター"、絶望スカレット様。彼女に付いて行けば、必ずや【不老不死】にも出来る。さらにはスカレット様の役にも立つ。

 2人に増えた"マスター"の、そのどちらもの願望をかなえるため、このダブルエムはあなた様の下を巣立とうと思います」



 決意に満ちた声で、ダブルエムは赤坂帆波にそう報告する。

 その決意を聞いて、赤坂帆波は止める事は出来なかった。


 そもそも、【三大堕落】の面々に、担当を割り振ったのは、自分自身で考え、行動させるため。

 自分自身で、願いを叶えるために巣立とうと言うのならば、赤坂帆波に止める権限はなかった。


 でも、1つだけ。

 赤坂帆波はどうしても聞いておかなければならないことがあった。


「ねぇ、ダブルエム。

 ----絶望スカレットは、何をしようとしているの?」


 それは、スカレットの目的。

 ダブルエム曰く「【不老不死】すらも叶えられる」という、その目的である。


「あぁ、それは----」


 そして、ダブルエムは簡単に語り始めた。


 絶望スカレット、もとい【街】の目的。

 そう、それはこの地球すらも巻き込んだ、壮大な計画を。




(※)ダブルエム

 絶望スカレットの素顔を見て、彼女も敬愛すべき"マスター"であると知った彼女は、2人の"マスター"、どちらも願いを叶えようと心に決めた

 そして絶望スカレットの目的を聞いて、スカレット側につく方が、どちらともの願いを叶えられると確信し、荒廃ノネックを取り込んで、【回帰】担当として【街】側についた

 全ては"マスター"2人ともの、どちらともの願いを叶えるために

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