第265話 さぁ、絶望に沈める時間です(1)

 進化して、さらに狐らしさも追加された、吸血女帝となったココア。

 他者を自身にするというスキルを使い、雪ん子さえ味方として取り込んで、7人となって戦いを挑むブイオー。


 ココアは血液を武器として、ブイオーは7人全員で雷を武具へと変えて。

 互いに、相手を排除しようと得物をぶつけ合っていた丁度その頃。



 ドラキュラ城の前に、赤坂帆波、空海大地、天地海里の3人が揃っていた。

 そんな赤坂帆波一行の前に、ペストマスクをつけた絶望スカレットは現れていた。

 



「初めまして、赤坂帆波、そして世界を破壊せし2人の元勇者のご一行様。

 ----わたくし、【街】所属の【絶望】担当。名をスカレットと申します」


 ペストマスクを被った彼女は、丁寧にペコリと頭を下げる。


「まさか、あなた方を撃退するために送り込んだ、数百体にも及ぶ、絶対に死ぬことも退くこともない、人造兵器ボウケンシャ達をかき分けて、この城の所に来るとは、驚きです。あの状況からは、絶対に突破できないはずなんですが」

「私には、優秀な部下が2人も居るからね」

「なるほど、2人が対処した、と」


 スカレットは、赤坂帆波の言葉から、どのようにして数百体の敵をかき分けて、ここまでやって来たのかが分かった。


 彼女達には、あと2人の仲間がいる。

 【文明】担当の、佐鳥愛理。

 【どん底】担当の、ビーワンちゃん。


 その2人の姿がない事から導き出される結論は、1つ。


 赤坂帆波達がここに居るのは、その2人が敵を押しとどめ、3人を逃がしたという事だ。


「なるほど、確かに死ぬ気で足止めすれば、3人を逃がすことも出来るというモノ。理解しました。

 どうも、ラトライタちゃんがお世話になったようですね。あなた方に絶望を与えるために、今度は私がお相手するため、はるばる下まで降りて来ましたよ」

「ご丁寧に、どうもですね」


 赤坂帆波はそう言って、【奴隷商人】の力を使って、腕と背中に悪魔を宿らせる。

 腕は全てを引き裂く鋏のようになっており、背中には車やバイクなどの後ろで見られる筒----マフラーが2本、飛び出ていた。


 腕に宿しているのは、あらゆるモノを切断する、鋏の悪魔。

 背中から飛び出るマフラーは、瞬時に最高速へと達して移動できる、エンジンの悪魔。

 今の赤坂帆波は、あらゆるモノを切断しうる鋏を宿しつつ、エンジンを稼働する事で超高速で移動できる。


 そして空海大地と天地海里の2人は、自らに光文明の力を宿していた。

 本来は文明を宿して戦うのは、天地海里の領域なのだが、元々は同じ人間であるためか、空海大地もすっかりマスターし、2人は常に最上級の回復状態となる光文明の力を宿して、スカレットと相対していた。


 3人の、元勇者。

 戦力としては十分すぎるくらいの、過剰戦力な一向に対し、スカレットは"余裕"という態度を取る。


 まるで、3人とも相手にならないとでも言いたげだった。


「余裕そうだな、スカレット。あんた、俺達に無傷で勝てるとでも思ってるのか?」

「心外ですね、空海大地。そして、同じ風に思っているだろう天地海里」


 スカレットは否定する。


「無傷で勝つと思えるほど、あなた方の強さを過少には評価しませんし、私もそこまで強くはありません。そして、あなた達を倒すほどの人材も、私達【街】には居ません。

 ----まさしく、絶望的な戦力差。あなた達に戦いを挑む事、それそのものが無謀といえましょう」


 スカレットの言葉に、虚言や虚勢は一切感じられなかった。

 冷静に、彼女はそう自分の方が弱いと、そう言い放ったのだ。


「しかし----」



 パチンッ!!



「「「----?!」」」


 3人の元勇者達は、一斉に前に出る。

 その瞬間、自分達が居た場所が、突如として凹む。

 物凄い勢いで押し潰されたかのように、そこだけ大きく沈み込んでいたのだ。


 ----重力攻撃。

 いきなり、3人が居た場所だけに、重力が異常にかかって、地面が凹んだのである。

 受けていればやられはしなくても、かなり痛いダメージになっていたのは確かだと言えるような攻撃であった。


 敵が放つ重力を用いた攻撃に、3人は対処する暇も与えられなかった。

 今度は世界全体が、闇に包まれる。


 それは天地海里が持つ文明のうちの1つ、闇文明の力----全てを撃ち滅ぼす、闇の力と酷似していた。

 違うのは、それが文明として人が管理できるモノなどではなく、純粋に人に仇名す闇のモノであるということ、そしてそれを操るのが目の前のスカレットだということ。


「----私は、そもそも【絶望】担当。絶望的な状況なら、むしろ私のためにあるようなモノ。

 さぁ、勝負しましょう、最強の元勇者達。そして、お互いに絶望を楽しもうじゃないですか!」


 スカレットは闇を操って、3人の元勇者へと襲わせる。

 時も、魔力も、空間も----ありとあらゆるモノを区別なく、そして遠慮なく、その闇は飲み込んでいく。



「悪魔達っ!!」


 赤坂帆波は、悪魔に命令する。

 命令された悪魔達は、己が権能を用いる。


 背中に憑りついたエンジンの悪魔は、身体が引きちぎれるのを覚悟の上で、超高速で闇にぶつかる前に、スカレットの前に到達する。

 そして、腕に憑りついた鋏の悪魔は、触れたモノ全てを切断するという権能を行使して、攻撃する。



 しかし、その攻撃はスカレットの目の前で、空振りした。


「無駄ですよ、悪魔を操る赤坂帆波。いくらあなたの悪魔の力が強かろうとも、当たらなければ意味はない。

 絶望担当たるこの私は、あなた達との間に、見えない無限の距離世界を生成する事が出来る。そして、私に対する全ての攻撃は、その無限の距離の中で、威力は消えてしまう」


 どれだけ強い攻撃も、当たらなければ意味がない。

 どれだけ強い攻撃も、相手に到達しない。

 それこそが、この絶望スカレットが、余裕の表情で居られた理由。


「さぁ、絶望に沈める時間です」




(※)無限の距離

 絶望スカレットの固有能力の1つ。相手と自分との間に、無限の距離世界を生成することが出来る

 どんな攻撃でも当たらなければ意味がないのと同じように、絶望スカレットへの攻撃は、この無限の距離世界へと飛ばされて、永遠にスカレットには到達する事は出来ず、そのためにスカレットに攻撃は与えられない

 スカレットはこの能力を任意で発動することができ、自分の攻撃の瞬間だけは解除して、相手にダメージを与えることが出来る

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