第261話 災害の倒し方(2)

 ----かつて、ここまでの危機はあっただろうか?


「最悪な状況じゃのう……」


 ココアが言う通り、今の俺達の状況は、最悪と言って良い。


 敵は、シーヴィー……いや、今の名前はブイオーと名乗っていたか。

 雷を発する鳥の翼は恐らく、召喚獣のサンダーバードを模しているのだろう事は想像できる。


 そして、一番厄介なのは、感染能力ぞうしょく、だろう。

 ヤツはスカレットが放った人造兵器ボウケンシャ5体、そして俺のパーティーの要の1人たる雪ん子に、雷を放って、自分ブイオーへと変えた。

 今のブイオーは、全部で7人となって、俺達の前に立ち塞がっていた。


 ブイオーは自らを増やした、俺の戦力たる雪ん子は取られて減った。

 俺の方の戦力は、ココアだけ。

 今さら新しい召喚獣を出しても意味はないし、そもそも俺の長所であるレベルアップの能力も----



「----主殿っ!!」

「ぐえっ!?」


 

 ココアが、首を絞めてきた。

 より正確に言えば、俺の服の台衿(首回りを覆う帯状の部分の事な)を物凄い力で引っ張られ、俺は無理やり後ろへと下げられる。


「死ぬかと……思った」

「実際、死ぬ所じゃったよ。主殿」


 ぜぇぜぇと勢いよく呼吸して空気を取り込みながら殺人未遂犯たるココアに抗議すると、ココアもまた死ぬ可能性が高かったと同意してくれた。

 事実、俺が先程まで居た場所には、雷が落ちた跡----黒く焦げた床がそこにはあった。


「助かった、ありがと、ココア……って、おい?!」


 先程俺の台衿を引っ張ったのは、俺に雷が当たりそうになった身体という事はすぐさま理解した。

 殺人未遂犯と文句を言った事を反省しつつ、ココアの方へと振り向くと、ココアの身体は黒焦げだった。


「ココアっ?!」

「心配せずとも良いのじゃ。"さんだー"を受けたのじゃが、見かけほどは"だめーじ"にはなっておらんからのう」


 ココアはそう言って、風の魔術で雷でついた黒焦げの部分を吹き飛ばす。

 吹き飛ばした結果、ココアの身体は服と身体の一部が焦げただけで、それほどダメージにはなっていないというのは本当であると判明した。


「(確かにココアの防御力は【S+25】、生半可な攻撃ではダメージにすらならないだろう。俺が受けた場合と比べれば、彼女が受けた方が良いのは事実だ)」


 ----だがしかし、それでも感謝はすべきである。

 そう思っているうちに、俺はココアに引きずられて、その場から逃げ出していた。


 逃走、である。


「逃げるのじゃ、主殿! あのスキル、【原罪の妖狐・嫉妬】で能力を把握しておる。ここで戦うのは危険じゃ!」

「そのスキルって、確か相手のスキル効果を使う事が出来るってスキルだったな」




 ===== ===== =====

 【原罪の妖狐・嫉妬】

 7つの大罪をモチーフとした【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つであり、妬みやそねみなどの嫉妬をモチーフにしたスキル

 自分以外の味方、敵に使われたスキル・アイテム効果を使う事が出来る

 ===== ===== =====




 いつの間にか大量に増えていた、ココアが持つ【原罪の妖狐】というスキルのうちの1つ、【原罪の妖狐・嫉妬】。

 あのスキルは、自分以外の味方や敵に対して使われたスキルやアイテムなどの効果を、自らも使用することが出来るというスキルだったはず。


「(なるほど、確かに味方ココア、そしてボウケンシャと大量に使われていたし、効果を把握する時間は十分だ)」

「あの【悲嘆の刃】の効果は分かったのじゃ。そして----弱点・・も」


 ココアは魔力を集めて、魔術を発動する準備を始めていた。

 彼女の周囲に魔力が集まって、その上にココアはもう1つスキルを重ねる。


「----【原罪の妖狐・強欲】!」




 ===== ===== =====

 【原罪の妖狐・強欲】

 7つの大罪をモチーフとした【原罪の妖狐】のスキルのうちの1つであり、他人の都合など関係なく欲を満たそうとする強欲をモチーフにしたスキル

 自分の味方に対するアイテムやスキル効果の効果時間を倍にする

 ===== ===== =====



「喰らうのじゃ、石化魔法!」


 ココアが相手に発動したのは、相手を石化という状態異常にする魔法。

 その魔法はブイオー達に発動して、そして----



雪ん子であろうとも味方ブイオーに出来る、【悲嘆の刃】。その力は凄いが、欠点もある。

 雪ん子ちゃんも取り込んだことで、お主は今、妾の敵であり、同時に味方でもある。そして【原罪の妖狐・強欲】は味方に対するスキル効果を倍にする。

 ----全員纏めて石化、しかも状態異常時間を倍にするのじゃ!」


 そして、7人のブイオー達は石化魔法によって、石の状態となっていた。


「【悲嘆の刃】、相手すら自分に変えるというそのスキルの欠点は、全てのダメージを受けるという事。今のお主は単純に攻撃出来る自分自身も、そして攻撃を受ける自分自身も7倍になったという事。

 ----石化の状態異常7人分、その上で【原罪の妖狐・強欲】の効果でさらに倍! 合計14倍の石化状態を楽しむが良いのじゃよ!」


 そして、ガチガチっと石化で動けなくなったブイオー。

 石化で動けなくなったのを確認した俺達は、そのまま逃げだす。






「あの状態、そんなに長続きするのか?!」

「単に勢いで言っただけじゃよ! 正確に言えば、雪ん子を基にしたブイオーの倍……稼げても、精々数十秒といった所じゃろうよ!」


 まぁ、14倍の石化状態の時間維持って、考えるだけでも凄すぎだからな。

 そんなに上手い事、行く訳ないわな。


「とりあえず、妾の妹達を探すのが先決じゃ! もっとも、合流できても、あのスキルでまたブイオーという自分自身を増やすだけかもしれんが」


 確かに今の状態での一番のベストな選択肢は、他の仲間との合流。

 恐らくファイントはスカレット達と戦っているだろうから、ココアを探しに行かせたマルガリータとヘミングウェイと合流するのが先決。

 ……まぁ、先程の雪ん子のように、【悲嘆の刃】という名の雷を使われて、さらにブイオーが増えるだけかも知れんが。


「いや、上に行くぞ」

「上、じゃと?」


 あぁ、そうだ。上だ。

 探すのはマルガリータとヘミングウェイ達でも、ファイントでもない。


「レベルアップ可能が長所じゃない? それでも良い。

 俺に今必要なのは、ここを生き残る事だ」


 生き残って、さらに強くなった召喚獣達と楽しくダンジョン攻略しながら、人生を満喫してやる。

 こんな、どうしてこの場所に来たかも分からんドラキュラ城なんかで、死んでたまるか。


「行くぞ、ココア。スカレットの話が正しくて、なおかつここがドラキュラ城、そして出てきた魔物達から考えて、絶対に居るはずなんだ」


 そう、恐らく最上階に。




(※)7人のブイオー

 スキル【悲嘆の刃】によって、ブイオーは7人に増えた。これにより体力は共有状態となり、1人が負ったダメージは他の6人も受け、状態異常の時間も全員が同じだけ受ける

 デメリットだけに見えるかもしれないが、どんどん仲間を増やして行く数の暴力かんせんだけ見れば、このスキルは強いスキルだと言える

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