第254話 ボタン瞳リターンズ(1)

 敵は突然、訪れた。


 ----ばばんっっ!!


「なっ、なになに?!」


 俺が目を覚ますと、そこはまたしても知らない天井であった。

 俺の家の部屋の天井でも、俺が泊まった温泉宿の部屋の天井でもなく。


 俺が目を覚ますと、そこは豪華そうな、西洋風の天井。

 凹凸の多い装飾に、綺麗なシャンデリア、月や蝙蝠などの彫刻レリーフなども刻まれていた。


 少なくとも、その天井はとてもじゃないが、温泉宿とは程遠い天井である。


 そして、目の前には大きなステンドグラスがあり、その前に大量の敵が整列していた。


『敵、排除すべし』

『ここが、ドラキュラ城と知っての狼藉か?!』

『吸血鬼の絆の力で、敵を排除すべし』

『あぁ、この城に攻め入った事を後悔させてやろう』


 そこに居たのは、槍を構える、吸血鬼の兵士達であり、彼ら彼女らは俺に槍を突き付けていた。



 ===== ===== =====

 【夜魔ヴァンパイア・ポーン】 ランク;Ⅳ

 ドラキュラ城に仕える、吸血鬼の兵士。吸血鬼の兵士の中では最下級ではあるが、固有スキル【兵昇格プロモーション】により、キング以外の全ての吸血鬼兵へと変わることが出来る

 吸血衝動などはほぼなく、個々の戦闘能力の低さを集団によって補いつつ、いざとなれば敵地の最奥に進んで他の吸血鬼兵となって、戦況の変化に備える

 ===== ===== =====



「(ヴァンパイア・ポーン? ドラキュラ城に仕える、兵士、だと?)」


 そこでようやく、俺は今の状況を理解した。


 そう、俺は今、ドラキュラ城とやらに居る。

 恐らくは、ココアが来た日に玄関に出てみた、あの西洋風の城の中。


 そんな吸血鬼達にとって大事な城の中で、俺はすやすや寝ていた、と?


「あぁ、くそう! 訳が分からん!」


 自宅がいきなり、吸血鬼の世界と融合したヨーロッパ国に転移したと思ったら。

 今度は温泉旅館で寝ていたら、いきなり城の中だと?


『ごちゃごちゃうるさい!』

『始末が優先!』

『侵入者は排除! 排除!』


 あぁ、もう!

 なんかあちら側は、対処する気満々だし?!

 雪ん子達は……いつの間にか、【送還】されてるな。おい!?


「あぁ、もう! 【召喚】!」


 全然状況が分からないまま、俺は【召喚】で雪ん子達を呼び出す。


「雪ん子、ファイント、マルガリータ、ヘミングウェイ……っと、あれ?」


 俺は全員召還したはずだ。

 なのに何故か、ココアだけ・・・・・召喚できなかったのである。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ここまで、実に長かった」


 彼女テキは、ココアに対してそう語る。

 わざわざ、ココアが1人になるように、召喚状態を維持させたまま、ここまで拉致してきたその敵。


 ココアが目覚めると、そこはドラキュラ城が見下ろす丘の上。

 温泉旅館で寝ていたはずの彼女を拉致したその敵は、感慨深そうに語り始める。


「色々なお膳立てが必要だった。召喚獣であるあなたを、"うち・・"の宿敵たるあなたを倒しても【送還】されて、また無事な状態で出てくるから、こうして、ヨーロッパ国と融合させました。

 今のあなたは、殺されてもまた【召喚】されれば、復活できる召喚獣ではない。殺せば、もう二度と復活できない、そういう召喚獣」


 その敵は、そう語る。


 ココアが居た、吸血鬼の世界が、冴島渉がいる地球のヨーロッパ国と融合した理由はそのためだと。

 召喚獣の利点たる、再び【召喚】すれば無傷の姿になる特性を消すために、地球の地域と融合させたのだと。


「全ては、この時のため。そう、あなたを殺すために、うちは復活した。

 安心しなさい、あなたを召喚する【召喚士】は、うちの復讐者リストには入っていない。存分に可愛がって、あなたを殺してあげましょう」


 ----と、彼女は。



 "ボタン瞳"の金髪エルフ耳。

 修道服に身を包み、左袖には見慣れた【甘言】という腕章、そして右袖には新たに付けたであろう【災害】という腕章をつけていた。


「----"マスター"の下で働いていた時は、【甘言】担当と名乗っていましたが、今は違う。

 改めまして、名乗りましょう。うちの名は、シーヴィー改め、【ブイオー】。【街】所属にして、【災害】担当の、復讐者なり」



 ===== ===== =====

 【災害ブイオー】 ランク;Ⅴ 

 種族;サンダーバード

 

 【災害】を冠する能力を持つ、元【三大堕落】の冒険者。現在は所属を変え、種族も変え、とある標的を狙う復讐者となり果てた

 雷雲や雷電を操り、まさしく災害の源たる大自然の体現者。なおかつその翼で、自由に空を舞う

 ===== ===== =====



「さぁ、勝負と行こうか。"ラブホちゃん・・・・・・"」


 背中から、昨日闘ったサンダーバードを思わせる鳥の大きな翼を出して、空を舞いながら、そう宣言するのであった。

 



(※)災害ブイオー

 元、【三大堕落】の【甘言】担当であったシーヴィーの新たなる姿。名前の由来は、『声楽』『ボーカル』の略称である『V.О.』から

 幽鬼カルタフィルスの【未練あるなら】によって、自身のチャームポイントたるボタン瞳を破壊したココアを倒すために、【災害】の力を纏って現れた

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