第252話 お前も、【街】に入らないか(1)

「----【群れ為す嵐の槍・鴉】!」


 ノネックがそう魔法を唱えると共に、彼女を中心に暴風が吹き荒れる。

 そしてその暴風は、何十匹にもなる風魔法の鴉となって、赤坂帆波達に襲い掛かる。


「"マスター"には、#手出し させません!」


 ダブルエムは【アイテムボックス】の中から、大量のコードやらアイテムやらをその身に取り込んで、ぐるぐると自身の身体を回転させて、【工場】の能力でアイテムを作成する。

 そして、お腹の真ん中から専用の排出口を作り出し、そこから出てきたコードが、魔法で出来た鴉達を無視して、ノネックにぐるりと巻き付く。


「コード?!」

「----【工場】スキル、【無限回復の泉】」


 頭から煙突を作り出したダブルエムは、そこから黒雲を生み出して、透明な色の雨を降らす。

 その透明な雨はダブルエム、赤坂帆波にノネック----周囲の人々に、雨が降っていく。


 雨が当たると共に赤坂帆波の身体が光り、戻らなくなっていた悪魔の腕が、人の腕へと元通り。


「あなたに触れさえすれば、どんな少量の回復薬ポーションでも万能薬になるのならば、あなたとコードで繋がった状態で、回復薬ポーションの雨を#万能の雨 と出来る! 名付けて、#敵の能力利用大作戦!

 この雨は、回復薬ポーションの原液を#極限 にまで薄めた雨! #何時間 #何日 #何年 だろうとも、永遠に戦えますので、降参を宣言しては?!」


 ノネックの厄介な能力は、こちらの状態異常や能力下降を全て永続状態にする事。

 それ故に、赤坂帆波の腕は、いつもならすぐさま治せるのに、ずっと【悪魔化】によって悪魔の腕のままだった。


 永続効果を失くすただ1つの方法、それこそがノネックを介しての回復方法を使う事。


 今、ダブルエムはコードで繋ぐことによって、ノネックと介した状態にある。

 その状態で、回復薬ポーションを混ぜた雨を降らす事によって、この場に居る全員を癒すことで、ノネックの能力を無効化しているのである。


「"マスター"、今のうちに封印能力を持つ悪魔を召喚してください! #監禁 して、目的を語らせましょう」

「賛成だね、ダブルエム!」


 そうこうしているうちに、赤坂帆波は監禁能力のある悪魔を召喚する。

 呼ばれたのは、呼び出されたのは手に蛇を持つ悪魔、【アンドロマリウス】。


 ソロモン72柱と呼ばれる、ソロモン王が使役した72の悪魔のうち、最も序列が低いとされる72柱目の悪魔。

 しかしながら、盗まれた品を取り戻し、盗人を捕らえる事を職能としている、今回の場面に最も適した悪魔である。


「アンドロマリウス! この女を捕え、封印せよ!」

【----御意に】


 そして、アンドロマリウスが権能で、ノネックの足元に魔方陣を発生させる。

 その魔法陣の中から、大量の蛇がノネックを捕えようとして----


「スキル、解除!」


 瞬間、ノネックはスキルを解除し、そのまま自分の腕と足を引きちぎる。

 そして、そのままアンドロマリウスを即座に昏倒させ、赤坂帆波達から距離を置く。


「スキルを解除して、逃げた!?」

「えぇ、スキル解除しませんと、腕を引きちぎった所で、すぐさま引っ付いてしまうのでね」


 ノネックはそう言いながら、スキルを再び発動したらしく、低ランクの回復薬を使って、腕と足を新たに生やしていた。


「----とは言え、痛い者は痛い。次捕まったら、もうこの手は使えないでしょうね」

「えぇ、#逃亡 #次はない ですよ」

「あなたと私とは相性が悪い。そもそも、1人で2人を相手するなんてのも、効率が悪い」


 ----なので、戦力を増やしましょう。


 ノネックは【アイテムボックス】の中から、2つの人型兵器を取り出して、放つ。

 それは一つ目一つ足の、手に日本刀を携えし、人型兵器。


「うちの【文明】----いや、機械技術全般担当の『ベンチャーちゃん』が作り出した、冒険者特性を得た人型兵器。その名も、【ダタラ戦闘形態S型】。

 どうか、うちの兵器実験に付き合ってくださいな」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



【ピピッ】


 人型兵器、ダタラ戦闘形態S型は日本刀を振るう。

 すると、ただ横に振っただけなのに、炎の鳥を模した斬撃が、2人に襲い掛かる。


「【工場】スキル、【爆薬錬成】!」


 その斬撃を、ダブルエムが作った爆弾とぶつかることで、相殺する2人。


「"マスター"はスキルを使いすぎないでくださいね。あの敵がいる以上、魔力切れは絶対にダメです」


 ダブルエムは、ノネック----つまりは彼女の、状態異常を永続させる効果を気にしながら、そう言った。

 ダブルエムの【工場】はほとんどのスキルが魔力を消費しない、しいて言えば大きな物を錬成しなければ、ほとんど魔力切れは起こらない。

 故に、彼女が前に立って、色々な物を錬成しながら、敵の攻撃を防いでいるのだ。


「……他の人を呼んだ方が確実ですね」

「そうですね。会いたくはないですが、2人の元勇者にレーダーで連絡してます」


 と、頭の上にレーダーを作り出して、ダブルエムは2人の元勇者に連絡していた。

 ここが温泉宿のすぐ近くの外、合流はさして問題ないだろう。


「2人の到着を待つつもり? 残念ながら、彼らが来るのは時間がかかりますよ。

 私達の計画のため、【ダタラ戦闘形態М型】を多数配置しましたので」


 ダブルエムの計画はバレてるらしく、増援の元勇者達は期待できそうになかった。


「……居ないで欲しい時は来て、居て欲しい時には来ない。最悪の#勇者 ですよ」

「ダブルエム、口が悪いよ」


 そんな2人のやり取りをクスクスと、笑いながら見るノネック。

 そして、ダブルエムに手を差し出す。



「元勇者達が来る前に、目的を果たしましょう。

 ----【三大堕落】、【不老不死】担当のダブルエム。あなたを、我が【街】にスカウトします」




(※)ダタラ戦闘形態S型、ダタラ戦闘形態М型

 『ベンチャーちゃん』こと、花弁千夜葉が作り出した、人造冒険者。戦闘を目的として生み出した人型兵器に、ルトナウムを流し込むことによって冒険者としての職業ジョブの力を使えるようになっている

 名前の通り、戦闘に特化した作りになっており、人間よりも遥かに頑丈で、なおかつ戦闘能力が高い。刀剣を用いるS型や、杖などを用いて魔法を行使するМ型の他にも、多数の種類がいるとされている

 名前の由来となっているのは、一眼一足の妖怪である【一本だたら】であり、古来から一つ目で一つ足のモノは神に類するという伝承が残っており、その伝承を聞いた『ベンチャーちゃん』が神にあやかって付けたとされており、事実として眼も足も1つずつしか付けられていない

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