第242話 【文明】 VS 【荒廃】(2)

 ----怪盗剣ファントムブレード。

 その名刀は、佐鳥愛理が開発した特製の武器である。


 【怪盗】である自分しか使う事が出来ない、そういう風に調整された武器。

 魔力を注ぎ込むことによって、周囲の敵の心臓に狙いを付けて、相手の心臓に的確に斬撃を与えるという、必殺を目的とした武器である。


 勿論、確定で心臓を狙い撃ちするほどの性能だと、魔力消費量も半端ない者となってしまうため、一応、斬撃効果が発動した瞬間に逃げられるという欠点はある。


「(問題は、その発動した瞬間のタイミングを、この敵が知ってるはずがないという事)」


 1回か、2回くらいならば偶然で片付けられる。

 しかしそれが10回も続き、なおかつ----


「----【即時回復ポーション】、っと! よしっ、やはり"想定通り"に、ポーションで回復できますね」


 ----なんとか当たった11回目。

 彼女は、攻撃を受けた瞬間、ポーションが自分にかかるようなスキルを使っていたらしく、即座に回復していた。


 それによって、心臓にダメージを受けた彼女は回復して、無傷。

 ポーションなんかで心臓へ直接与えた斬撃が回復したという事よりも、ここまで露骨に対策が施されたとなると、明らかに何かあると感じる。


 "彼女は、私を知っている"。


「(あぁ! 考えがまとまらないっ!)」


 魔力を吸収してもなお、治まらない魔力欠乏症。

 その影響のせいで生じる頭痛や吐き気、疲労感などによる症状のせいで、佐鳥愛理の考えが纏まらない。


「私の目的は、そこのあなた」


 ノネックは、後ろで心配そうに見ている赤坂帆波を指差す。


「私は、彼女に用があるんです。赤坂帆波、彼女に少ししたいことがありまして」

「"マスター"に危害を加える事を、私が許可するとでも?」


 怪盗剣ファントムブレードをしっかりと握りしめて、佐鳥愛理は身構える。


「愛理ちゃん!」

「"マスター"はそこで待機を! 私が絶対、"マスター"をお守りしますので、離れていてください!」


 手出し、無用。


 佐鳥愛理はそう強く言い放ち、ノネックを見つめる。


「"マスター"に用があるなら、私を倒してみなさい」

「でしょうね。それでは、こちらから行きますよ?」


 ノネックはそう言い、次の魔法を放つ。


 次に彼女が放つ魔法は、雷のからす

 翼をはためかせながら、その数十匹にも及ぶ雷の烏達は、ノネックの号令を待っていた。


「----行けっ、鳥達」

「"マスター"の家を壊した責任、そして"マスター"に手を出そうとするその態度! この私が、きっちり正させていただきます!」


 ファントムブレードの対策がされている以上、この武器を使い続ける意味はない。

 佐鳥愛理はそう判断して、ファントムブレードを捨てて、別の武器を構える。


 【怪盗】専用ではない、ただのごく普通の剣。


 そんな普通の剣で、自分に迫って来る雷の鳥達を払いのけながら、佐鳥愛理は迫る。


「喰らえっ!!」

「おっと」


 佐鳥愛理が剣を振るうと共に、ノネックは自分の右腕を前に出して、防いでいた。

 そしてその右腕に剣が触れた瞬間、カンッという金属質を思わせる、硬い音が響いていた。


「硬っ---?!」

「【症状悪化の呪い】----!」


 そして、腕とは思えない硬さに驚いている佐鳥愛理に、ノネックは呪いをかける。

 かけられた呪いにより、佐鳥愛理の頭痛や疲労感などはさらに重く、彼女に圧し掛かる。


「くっ……」


 あまりの症状のひどさに、遂に佐鳥愛理はその場に座り込んでしまう。

 そして、そんな彼女の頭上に、ノネックは、先が尖った杖を向ける。


「とどめっ!!」


 鋭利に尖った杖を、彼女自身に突き刺そうとして----



「危ないっ、愛理ちゃん!」



 ----その杖は、肥大化させた悪魔の腕に変化させた赤坂帆波によって、防がれていた。

 そしてそのまま、悪魔の腕を振るって、ノネックを吹っ飛ばす。


「"マスター"?!」

「愛理ちゃんが刺されそうになってもなお、黙って見てるなんて、私のキャラじゃないのでね。最も、これで彼女の目的は分かりましたけど」


 赤坂帆波の言葉の意味は、すぐに判明した。

 吹っ飛ばされ、壁に激突したノネックは、壁から出てくると、「目的達成ですね」と笑っていた。


「えぇ、私の目的はこれで達成です。

 ----これこそ、誰も生き残れない時間の始まりです」


 彼女は意味深にそう言うと、懐からポーションを取り出す。

 佐鳥愛理はそのポーションが、魔力を回復させる魔力回復ポーションだと、すぐに分かった。


 なにせ、ノネックはそのポーションを、いきなり佐鳥愛理の頭にぶっかけたのだから。


「----?!」

 

 敵にいきなり回復薬をぶっかける意味の分からなさ以上に、彼女は自らの身体の魔力欠乏症が消えていく事に驚いていた。

 先程から、何度やっても回復しなかった、魔力欠乏症が消える事に。


「あなた、いったい何を?!」



「ヨーロッパ国イギリス県ロンドン市、温泉旅館『神の家』。

 きっと、あなた達は私を追って、ここに来る。それでは、また会うその時まで」



 ノネックはただ、そうとだけ告げると、その姿を消してしまう。


「待ちなさい、まだ話は!?」



「"マスター"!? 大きな音が聞こえましたが、#無事 ですか?!」


 と、そこでダブルエムの心配そうな声が、佐鳥愛理に響いてきた。

 どうやら一番、間の悪いタイミングで、ダブルエムは帰ってきたようだ。


 彼女の後ろには、佐鳥愛理が知らない男と、佐鳥愛理が会いたくない男女。

 会いたくない男女とは、一度、"マスター"を殺した元勇者である空海大地と、その空海大地と同一存在たる天地海里の2人。


「(ダブルエムも嫌ってるはずなのに、何故、行動を共にしてるんでしょう? 訳が分かりません)」


 まぁ、ダブルエムがどうして元勇者の2人と行動を共にしてるか以上に、先程戦ったノネックの目的を考えるのが先決である。

 佐鳥愛理はそう結論付けて、"マスター"の赤坂帆波に声をかける。


「ダブルエムも来たので、丁度良いでしょう。彼女の目的が何なのかは、ダブルエムと共に話しましょう。ねっ、"マスター"」

「いえ、目的はもう見当がついてるわ」

「流石は"マスター"! すぐさま敵の目的を見抜くとは、流石です!」


 褒める佐鳥愛理の言葉を半分聞き流しつつ、赤坂帆波は宣言する。



「私の悪魔の腕、元に戻らないの」



 と、いつもなら【奴隷商人】の力によってすぐ戻せるはずの悪魔の腕を見せたまま、赤坂帆波はそう告げたのであった。




(※)怪盗剣ファントムブレード

 佐鳥愛理が作った、名刀の1つ。職業【怪盗】である者しか、使う事が出来ない特殊な剣

 魔力を込めた量に応じて、周囲の敵の心臓に直接、斬撃ダメージを与える剣。魔力を込めるほど、与えるダメージは上がっていき、途中の振りなどの抵抗は関係なく、鞘に入れた状態のまま、"心臓に斬撃を与える"という到達した結果だけを与えるため、同時に複数体の相手をすることも可能である

 弱点はほぼないが、起動時に必要な魔力量が多い事と、特定のタイミングで後ろに下がることで避けられるという欠点がある。ただし、避けるタイミングはかなりシビアであり、1秒でもズレると失敗するため、確実にタイミングを把握しなければ避けられない

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