第214話 エリカの目的

 ----【融合召喚】。

 それは【マナ】系統の職業である【召喚士】が、別の四大力である【スピリット】を使って生み出す、神の想定外の技。

 つまりは、裏技。バグ技の類。


 故に、【融合召喚】は必ずしも成功するモノではない。

 シーヴィーやビーワンちゃんが攻撃手段として使用するほど、成功率は低く。

 また、万緑龍リョクチャ・ガールハント・ヒアリング4世のように、成功したとしてもすぐさま消えてしまう。


 それくらい、【融合召喚】とは、リスクが高い代物なのである。




「----その【融合召喚】を完璧に果たす、融合用の素材。それこそが、この冴島・D・エリカという訳っす」


 エリカはそう、サタンに告げる。


「【融合召喚】専用の素材……?」

「私は"マスター"の赤坂帆波から、あなたの"周囲を地獄化する"スキルをなんとかするために、【三大堕落】としてこの世界に参りましたっす。故に私の望みは、あなたのスキル【地獄生成】を消す事一点のみっす。それさえ果たしてくれるなら、私は何も問題ないっす」


 実にあっさりと、自分が生贄になることを話すエリカ。

 むしろ、その役割を果たすためにここに居るんだから、この態度は自然と言えよう。


「素材と言っても、私にも限度や限界はあるっす。その辺の質問は面倒なので、こちらをご覧くださいっす」


 そう言って、エリカはサタンに1枚の紙を渡す。

 おっかなびっくりというか、自分と同じ顔の少女が淡々と話す状況をいまいち飲み込めずにいるサタンは、渡されたそれを恐る恐る手に取る。



『1.【融合召喚】を行う際、相手のスキルを1つ消去する必要がある。私はこれに【地獄生成】を選ぶことを求む、そうでない限りは素材になることを了承しない

 2.私こと冴島・D・エリカのスキルは、一切融合後に使用できない。言い換えれば、私の持つスキルは継承できない

 3.私はあくまでも融合素材であるため、私だけでは【融合召喚】は出来ない』



 そこに書かれていたのは、条件表。

 自身の、エリカに何が出来て、何が出来ないかがしっかりと書かれたメモである。


「……。」


 一拍、状況を受け止めるためにフリーズするサタン。

 

「……つまり、私はまたご主人様と冒険できるって事?」


 そして、この取引の正解を導き出すのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 

 地獄の主サタンが、ご主人様である冴島渉の召喚獣になれない理由は、大きく2つ。



 1つは、自分のレベルがあまりにも高すぎる事。

 冴島渉のレベルは『Ⅲ』、いや成長しているのも考えても『Ⅴ』と言った所だろう。

 対してサタンのレベルは『Ⅸ』……あまりにも高すぎる。


 その上、忌々しいハジメのせいで、冴島渉との縁は断ち切られた状態だ。

 冴島渉がレベルⅨにならない限り、サタンはただの同行者のままだ。


 しかし、この1つ目の問題は気にしなければ問題はない。

 問題があるとすれば、もう1つの問題の方。


 そのもう1つの問題とは、この地獄の主サタンの持つ【地獄生成】。

 これがある限り、彼女の意思とは関係なく、世界は地獄と化す。

 なにより、問題なのは----これが、どんどん強くなっている事。


 恐らく、あと1か月もすれば、この【地獄生成】のスキルは、冴島渉達ですら飲み込んでしまう。

 サタンが同行できない一番の理由が、この【地獄生成】のスキルだと言えよう。



「(でも、それらを彼女が、冴島・D・エリカが解決してくれる)」


 【地獄生成】を消してくれる。

 その上、【融合召喚】によって融合召喚獣となれば、レベル表記が関係なくなる。


 冴島渉の召喚獣であった頃、サタンはマルガリータを見ていた。

 マルガリータのレベル表記は【☆☆】であったが、実際のレベル表記だと【Ⅳ】相当----つまり、その時の冴島渉のレベルよりも高かった。

 つまり、融合召喚獣の☆マークのレベル表記になれば、レベル表記は関係ない。


 レベルが遥かに上の自分でも、冴島渉の召喚獣に戻れることが出来るのだ。


「凄いわね、あなたっ♪」

「えぇ、そのために呼び出されたと言っても良いっすからね。まぁ、このダンジョンに入って見て、この計画が成功しそうなのを確認できて良かったっす」



 ----なにせ、出て来る魔物が、全て冴島渉の召喚獣をイメージした姿になっていたから。


 

 エリカにとっての一番の心配事は、サタンが冴島渉の召喚獣に戻りたくないと思っている事だった。

 そう思われていては、いくら自分の能力が凄くても、意味がないのだから。


 しかし、それは杞憂きゆうであった。

 なにせ、出会う幽鬼が全て、氷の身体やら、狐吸血鬼やら、アイドル吸血鬼やら----冴島渉の個性的な召喚獣を思わせる姿だったから。


 サタンが、彼の召喚獣に戻ろうとしているのは、明らかだった。


「(後は、この私がサタンの融合素材となり、サタンの【地獄生成】のスキルを消す! それで"マスター"の望みは達成完了っすよ!

 あー、早く冴島渉さんはまだっすかね~!!)」


 エリカにとっては、待ち遠しい瞬間である。

 彼女にとって、死ぬこと、融合素材として消える事は、別に悲しい事だとは思っていない。

 "マスター"の役に立てない----それこそが、彼女にとって、なにより嫌な事なのだから。


「あっ……」


 そこで、エリカは重要な事を思い出した。

 思い出したことで、エリカの顔に冷や汗がたらたらと流れていく。


「……? どうかしたの♪」


 自分と同じ顔のエリカが冷や汗をかいてるのを見て、心配した様子のサタンがそう声をかける。

 心なしか、冴島渉の召喚獣に戻れることが嬉しそうなのか、言葉尻が喜んでいるようで。


 だからこそ、エリカは言い辛かった。

 でも、言わなくちゃいけなかった。


「あのっすね、私が、完璧な融合素材となるためのスキルが、【完全素材パーフェクトマテリアル】というスキル名なんっす」

「スキル名は、さして重要じゃないんじゃ?」


 そう、スキル名なんて、どうだって良い。

 問題は、その"使用条件"だ。


「このスキル、使用条件が"2つ・・"あるっす。

 1つは、私からの提案というか、条件であるスキル1つの消去」


 そう、そしてもう1つの条件が----



「"【融合召喚】として使う場合、同じ【召喚士】の召喚獣でなければならない"。

 ----つまりは、私だけでなく、サタン。あなたも、冴島渉の召喚獣として、戻っていることが前提の条件なんっす」



 そう、これは冴島渉の召喚獣に戻すための取引であり。

 冴島渉の召喚獣に戻った後でしか、このスキルは使えないのである。




(※)【完全素材パーフェクトマテリアル

 【素材】担当である冴島・D・エリカの固有スキル。相手が望む姿になるための、召喚獣としての素材になるためのスキル

 この際、【融合召喚】として生まれた時に引き継ぐスキル、強化するスキル、引き継がないスキルなどを設定できるうえに、生まれた後の職業もどれでも好きな物を選んでも良い。まさしく、夢のようなスキルである

 発動条件は、"エリカと融合する相手のスキルを1つ、消去する事"。もう1つは"エリカと同じ【召喚士】の召喚獣である事"

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