第201話 どん底の試練(2)

 シーヴィーが使っていた攻撃方法に、【召喚銃サモンショット】と呼ばれる物がある。


 これは、液状化させた2体の召喚獣を、【融合召喚】を意図的に・・・・失敗させる。

 そして、その際に生じた超強力なエネルギーを銃から発射して、相手に大ダメージを与える攻撃法である。


 ----そして、ビーワンちゃんはその【召喚銃】を、さらに進化させた。



 まず、最初に行ったのは、【召喚銃】の超強力エネルギーを刃状に成形する方法。

 【魔法剣士】であるビーワンちゃんにとっては剣の状態の方が戦いやすいからだ。

 刃の状態を維持して、それで斬りかかる方法を、ビーワンちゃんは作り出したのである。


 ビーワンちゃんはその攻撃方法に、"【召喚銃剣サモン・ビームブレード】"、という名前をつけた。

 

 それで満足せずに、ビーワンちゃんはもう1つ、改良法を見つけ出した。


 それが----"【召喚銃傷サモン・ペインショット】"、である。




「2体の召喚獣を適当に選んで、高火力のエネルギーを相手へ放つのが、シーヴィーの【召喚銃】。

 それに対して、このビーワンちゃんが改良によって作り出したのが、この【召喚銃傷】なのですよ」


 適当な召喚獣を2体融合させて失敗すると、超強力なエネルギー攻撃となる。

 しかしながら、特定の種類の召喚獣を2体融合させての失敗だと、超強力なエネルギーとはならず、超強力な状態異常のみを与える特殊弾となる。


 毒の召喚獣同士なら、一瞬で動けなくなる猛毒に。

 闇属性の召喚獣同士なら、一歩先も見えないほどの暗闇を生み出し。

 そして、ぬいぐるみ化を放つ召喚獣同士なら、強力なぬいぐるみ化を引き起こす攻撃に。


 相手を必ず、耐性を無視して状態異常に陥らせる銃弾。

 それこそが、【召喚銃傷】なのである。




「----というわけで、負けたくなきゃ必死に避けるちゃん、ですよ?」


 ばきゅんっ! ばきゅんっ!!


 2発の銃弾が、ビーワンちゃんのスナイパーライフルから放たれた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 そして、銃弾は俺達の方へと飛んでくる。


「当たらせはせんのじゃよ!」


 ココアが即座に、弾道を塞ぐように、土の壁を2枚作る。

 そして2枚の土壁は、銃弾が当たる度に、可愛らしくてモコモコとした、ただのぬいぐるみへと変えられてしまう。


「これまた、可愛いボクもびっくりですよ! あの銃弾、土の壁でもぬいぐるみにしちゃうんですね!」

「なんでもぬいぐるみに変える弾丸か……当たる訳にもいかんな」


 俺達は、ビーワンちゃんの攻撃に翻弄されながらも、段々と相手の強さのカラクリが見えてきた。



 相手の長所は、2つ。


 1つは、あの全てをぬいぐるみに変えてしまう弾丸。

 召喚獣である雪ん子も、魔法で作った土壁も、なんなら風や水といった固体でない魔法でも、あの銃弾は総じてぬいぐるみにしてしまう。

 

 そして、もう1つは----ビーワンちゃんの職業【魔法剣士】の力である。



 ===== ===== =====

 【魔法剣士】 スピリット系統職業

 斬撃に四大力である【スピリット】の力を上乗せし、斬撃を当てた場所に留まらせることが出来るようになる、ちょっと変わった剣士の職業

 留まらせた斬撃はポインターとして扱われ、【魔法剣士】はこのポインターを行ったり来たり移動することが出来る

 ===== ===== =====



 つまりは、最初から出来レースだったのだ。


『ちなみに左に持っている拳銃が『シスター』、右に持っている拳銃が『ヴィーナス』----2つ合わせて、シーヴィー、ってね?』


 あの時、そう言ってビーワンちゃんは、適当に銃弾を撃っていた。

 しかしながら、あの銃弾が、仮に【召喚銃】を刃状にした、"斬撃"だとすれば?


 彼女は、最初から俺達を勝たせる気はないのだ。

 恐らく、予め斬撃をこのダンジョンのあちらこちらに、セッティングしていたのだろう。

 そして、そのセッティングしておいた斬撃を移動しつつ、スナイパーライフルを撃つことで、狙撃手の最大の弱点である『狙撃場所がバレた』際の対策も万全だ。


「(流石は、一気に2つもレベルアップする試験……難敵だ)」


 『異論はありませんちゃん、ですか?』と、彼女は俺に確認を取った。

 それは恐らく彼女の中では、なにか不正があるかを確認しないんですか、という意味合いだったのだろう。


 意地汚い女だぜ、【どん底】担当のビーワンちゃんは。




「----さて、ココア。それに、マルガリータ。

 ヤツはこのまま、雪ん子のぬいぐるみ化が解けるのを、大人しく待ってくれると思うか?」


 ココアとマルガリータは、そうではないとばかりに、否定の意味を込めて首を振る。

 俺も、まさしく同意見だ。


「なら、このまま雪ん子抜きで倒すぞ。あの意地汚い女を」


「任せるのじゃ!!」

「可愛いボクに、お任せ!!」


 ----さぁ、反撃開始だ!




(※)【召喚銃傷サモン・ペインショット

 【三大堕落】の【どん底】担当であるビーワンちゃんが、好んで使う戦闘方法の1つ。【甘言】担当のシーヴィーの使っていた【召喚銃サモンショット】をアレンジした攻撃法

 同じ種類の召喚獣を2体、【融合召喚】に失敗させることにより、超強力な状態異常のみを与える銃弾として、敵に放つ技。毒同士なら毒を越える猛毒に、光属性同士なら眩すぎる光に、と威力はない代わりに、強力な状態異常を相手に与える。この効果は生物、非生物に問わず、さらには魔法にまで、100%作用する

 この攻撃により、相手に与えた状態異常は通常の倍以上の時間分継続し続け、なおかつ通常の倍以上の威力となる。例えば通常の毒が1秒間に1ダメージ与える物だとすると、この【召喚銃傷】で作った猛毒は1秒間に10ダメージ与える物となる

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