第200話 どん底の試練(1)

 ===== ===== =====

 緊急大会 【召喚士】レベルアップ大会試験

 対象;【召喚士】レベルⅢ

 勝利報酬①;レベルをⅢからⅤに上昇

 勝利報酬②;召喚獣1体の贈呈

 勝利報酬③;スキル【不戦協定ノーウォー】の授与


 試験内容;こちらが出す試験官一人と、特殊ダンジョン《偽渋谷》での対決。30分間の間に距離を取った後、試験開始とする

 勝利条件;試験対象者がやられる前に、試験官の頭に付けたお皿を破壊できれば、勝利とします

 敗北条件;試験対象者が動けなくなる、またはギブアップを宣言する

 特記事項;なお、召喚獣を何体召喚しても良い代わりに、【送還】によって送り返すことを禁止します。また、同じ個体を再度【召喚】し直すことも禁止です

 ===== ===== =====



「----とまぁ、条件はこれだけなんですが」


 ビシッと、試験官であるビーワンちゃんは、特製のスナイパーライフルを持ちながら、ゆっくりと。

 そう、ゆっくりと、こちらへ向かって来る。 

 超遠距離主体の武器、その代表格たるスナイパーライフルを抱えながら、接近するのは----余裕の証。



 事実、俺---冴島渉のチームは、ピンチであった。



 敵の攻撃手段は、分からず。

 攻撃しようとしても、謎の回避能力で避けられる。


「(それに----っ)」


 俺は、手にしているぬいぐるみを見る。


 俺が手にしているぬいぐるみは、愛らしい少女の姿をしたぬいぐるみ。

 そのぬいぐるみの姿は、俺の召喚獣である雪ん子に良く似ていた。


 ----というか、雪ん子"本人・・"である。



 ===== ===== =====

 【ぬいぐるみ化】雪ん子人形

 ビーワンちゃんの攻撃によって、雪ん子がぬいぐるみ化した姿。60分間、このぬいぐるみ化は維持される

 瞬時に、元に戻すには、【パッチワーク兎の毛玉】が必要となります

 ===== ===== =====



「なんだよ、パッチワーク兎って……召喚獣にそんなの、いねぇぞ?!」


 俺達の主戦力たる雪ん子が、ぬいぐるみ化によって、戦闘不能状態にされる大ピンチ。


 どうして、こうなったのか?

 それは、1時間前----大会のルールを聞いていた、あの時まで遡る。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ----1時間前。


 海渡から、レベルをⅤに上げてくれるという素晴らしい大会があることを知った俺は、2つ隣町の市役所までやって来ていた。

 そして、市役所職員に聞いたところ、確かに【召喚士】レベルⅢのみを対象とした大会があることを突き止めた。


「----はいっ、という訳で今大会の試験官ちゃん、を任されました、【三大堕落】の【どん底】担当、ビーワンちゃんです。

 ちなみに左に持っている拳銃が『シスター』、右に持っている拳銃が『ヴィーナス』----2つ合わせて、シーヴィー、ってね?」


 バキュンッ! バキュンッ!! バーンッ!!

 怪しげな幼女は、二丁拳銃を空に向かって、撃ちまくっていた。


 ビーワンちゃんと名乗った、怪しげな幼女はそう名乗り、大会の試験官であるとドヤ顔をする。

 しているのだが……俺としては、怪しいとしか言いようがない。


 なにせ、相手は【三大堕落】の1人。

 しかも、瞳はボタンという、中々に奇抜な格好をしている。


 というか、『シスター』は”C"ではなく、"S"だろ?

 それじゃあ、"シーヴィー"じゃなくて、"エスヴィー"じゃないか。


 俺が身構えていると、ココアが「そう身構えんでも大丈夫じゃよ、主殿」と制止を呼びかける。


「実はのぅ、【三大堕落】の"めんばあ"とは、同盟を結んでおるのじゃ。雪ん子とファイントを取り戻すにも、力を貸してくれたんじゃよ?」

「なんと、それは、それは」


 ココアからは、雪ん子とファイントを取り戻すための計画はなかなかに大変だったと聞いている。

 ファイントは戻ってないが、雪ん子は無事に戻って来たし、ココア達の頑張りには、後でなにかしらで応えなければ。


「----もう喋っても構わないちゃん、ですか?」

「あぁ、問題ない」


 既に試験ルールは聞いたし、【三大堕落】が敵ではないのならば、俺から言う事はなにもない。


「では、試験開始としましょう。30分間の間に、あなた達はこの試験用特殊ダンジョン《偽渋谷》----人が居ない渋谷の街そのものというダンジョン----で隠れてもらいます。その間、私は一歩も動きません。

 そして、30分後に試験官である私が動き出しますので、あなた達はやられる前に、私の頭につけたこのお皿を破壊できれば勝ちです。私は攻撃はしますが、殺すことは一切しません」


 最終確認とばかりに、彼女はそう言う。

 これで間違いはないか、と。


「異論はありませんちゃん、ですか?」

「あぁ、了解した。ちなみに、お皿はそこまで硬くはないか?」

「市販のお皿なので、多少私が動く分には問題ないですが、普通に召喚獣の攻撃を受ければ壊れますよ」


 俺は、そうしてきちんと条件を理解した上で、試験に挑んだのであった。




 猶予は、30分間。

 俺は雪ん子、ココア、そしてマルガリータと共に、試験官であるビーワンちゃんから距離を取るように走る。


「相手は銃を持ってる事から見ても、遠距離に強そうだ。しかし、逃げないとすぐ負けてしまうしな」

「そうじゃの! 逃走こそ、勝利の"ろおど"に繋がるのじゃ!」

「《ぴぃ! そして、私が決める!》」


 ----そう、この作戦は雪ん子が握っていると言っても良い。



 【オーバーロード】の力を持つ雪ん子は、距離と時間を無視した攻撃が出来る。

 ある程度の制限はあるようだが、雪ん子曰く、距離は『3km以内』、時間にしたら『過去と未来、それぞれに1分以内』だそうだ。


「つまりは、過去と未来。それぞれに1分以内なら相手に時間飛ばしで攻撃でき、なおかつ3km以内ならゼロ距離攻撃のように攻撃できる、と」

「《ぴぴっ! それ以上、【オーバーロード】の力が強すぎて、四大力が保てない・・・・です!》」


 【オーバーロード】の力は、【オーラ】を始めとした他の四大力を軸として初めて効果を発揮する。

 しかしながら、雪ん子の持つ【オーバーロード】の力があまりに強すぎて・・・・、四大力の方が彼女の力に耐えきれないみたいだ。

 一応、古代龍魔法クラスなら持つそうなのだが、流石にあのクラスの魔法をばんばん撃つことも出来ないし、実質ないのと同じである。


 ----まぁ、今回倒すのは、あのビーワンちゃんが持つお皿一枚。

 

「そう! 可愛いボクが断言します、雪ん子の力があれば、この試験は楽勝に終わると!」

「《ぴぴ! 頑張る、頑張るっ!!》」



 そう、この時の俺達はそう簡単に考えていた。

 ある程度、距離を放して、雪ん子が倒せばそれで終わると。


 だから、思いもしなかった。



 ----30分経ち、試験開始の瞬間。


 雪ん子に銃弾が撃ち込まれた。


「「「----?!」」」」

「《ぴぴっ?! なに、これ……》」


 銃弾は雪ん子にダメージを与える物ではなく、しかし恐ろしい効果を発揮した。

 彼女の手足がふわふわのモコモコに、つまりはぬいぐるみのような状態になっていたのである。






 そして、試験開始の瞬間、既に合わせていた照準に沿って銃を撃った幼女である、ビーワンちゃん。


 彼女は試験開始まで、確かに一歩も動かなかった。

 動かずに、その場で、スナイパーライフルの照準を、雪ん子に合わせていたのである。


 そして、試験開始と同時に、彼女は引き金を引き、雪ん子に銃弾を命中させたのだ。


「あなた達が勝利を確信ちゃん、しているのは、その召喚獣がめちゃくちゃ強いからでしょう? だったら、一番最初に狙うのはその子に決まってるじゃないですか」


 クスクス、とビーワンちゃんは嘲笑を浮かべる。


「今、あなた達をどこまで絶望へ、どん底まで叩きつけられましたかね?」




(※)ぬいぐるみ化

 状態異常の中でも、ひと際珍しい状態異常。対象をぬいぐるみ化して動きを封じる効果であり、主な使用者はパッチワーク兎など

 ぬいぐるみ化されると、約60分間、文字通りのぬいぐるみと化し、ダメージを受けない代わりに、身動き一つ取れないぬいぐるみとなってしまう

 なお、この状態異常を引き出すパッチワーク兎は、おもちゃ系統の魔物などが出現するダンジョンなどに出現し、攻撃力こそないものの、ぬいぐるみ化という恐ろしい状態異常を加えて来る。解除は時間を待つか、このパッチワーク兎の毛の一部が必要となる


 なお、【召喚士】冴島渉は、まだ・・パッチワーク兎を召喚できない。何故なら、それはパッチワーク兎は【召喚士】がレベルⅣで獲得するスキル【合一召喚】からしか召喚できないからである

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る