第180話 戦う覚悟、出来てますか?(1)
時間は、少し遡り。
佐鳥愛理は、"マスター"から与えられた命令を果たすべく、雪ん子達のいる集合場所へと向かっていた。
まさか、行っている間に、最愛の"マスター"に、この世で最も憎きあん畜生こと空海大地が求婚していることなど、知る由もなく。
彼女はウキウキと、嬉しさマックスで2人の所に向かっていた。
「"マスター"からのしごと♪ "マスター"からのしごと♪ "マスター"からのしごと♪
あぁ、なんて爽やかな気分っ! やはり私には"マスター"が必要不可欠! 私には"マスター"がいることで幸福が生まれ、幸せになれる! "マスター"こそ、必要不可欠な存在なのです!」
らんらんら~ん♪
そんな歌声を
「へいっ! 辛気臭い顔をした、負け犬な召喚獣のお2人さん!
必要なアイテムが出来たので、やる気があるなら作戦を開始しようぜ、ベイビー♪」
----盛大にマウントを叩きつけるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……なるほど。普通に使いこなしているみたいですね、【オーバーロード】の力を」
怒る2人によって、ボロッボロにされた服を直しつつ、佐鳥愛理は冷静にそう話した。
2人は彼女を殴ったり蹴ったりして、気持ちが落ち着いたのか、先程説明したストーカー対策ネックレスの使い方を確認している。
「(にしても、彼女達はすっかり【オーバーロード】の力を使いこなしているみたいですね)」
佐鳥愛理は、すっかり【オーバーロード】の力、その本質を使いこなす2人の成長っぷりに驚きを隠せなかった。
【オーバーロード】は、佐鳥愛理の仲間たる日野シティーミティーが使っていた四大力。
あの四大力は、敬愛すべき"マスター"が言っていたように、かなり癖がある四大力である。
そもそも、【オーラ】を始めとした神から与えられし四大力。
その全てを要らないと突っぱねて、神を憎んで恨み、その恨みや憎しみとかが生み出した四大力こそが、【オーバーロード】。
神と同等の力であるために、過去や未来などの時間を飛び越えての攻撃や、次元を割くなど、まさしく神のようなことが出来てしまう。
だが、どんな力にも長所があれば、欠点がある。
神を怨み、神から授かった力を返品した彼らを、神が許すはずもない。
その特性上、神からの加護を受けた他の四大力に大ダメージを与えると共に、逆に他の四大力からの攻撃に大ダメージを受けてしまう、諸刃の剣のような力なのだ。
大ダメージを与える代わりに、大ダメージを受ける四大力である【オーバーロード】。
日野シティーミティーはその特性を上手く使いこなし、勇者である空海大地の攻撃を【オーバーロード】を全身に薄く膜のように纏わせて、相手の四大力と相殺させることで、ノーダメージを演出していた。
一歩間違えば、こちらが大ダメージを受けるようなことをサラッとやってのける、それが日野シティーミティーの凄い所であった。
彼女達はそんな日野シティーミティーに及ぶとは言えないが、コツは掴んでいるみたいだ。
「(特に、ファイントと名乗る彼女の成長が著しい)」
恐らくは日野シティーミティーと同等、あるいはそれ以上に力をコントロールできている。
まるで、長年の相棒を扱うかのように、ファイントは【オーバーロード】を使いこなしていた。
そもそも神達が住まう神界から『悪の天使』として嫌われ、神界から追放された彼女である。
【オーバーロード】のように、神を憎んで得る力とは、元からの相性が段違いなのだろう。
「《ぴっ! 理解した! これでアイツ、やっつける!》」
「そうね~☆ 相手の尊厳をけちょんけちょんに潰せば、相手の持つ物全てを奪う事が出来るネックレス♪ 実に、楽しそう☆」
2人とも使い方に慣れたようで、早速、件の相手がいる冴島渉の元へ向かう気満々と言った感じだ。
「で? どこに居るのかあなたはご存じなのかしら、愛しの"マスター"ちゃんの所に帰らない佐鳥愛理ちゃん♡」
「……ほんと、あんたは
やれやれ、と佐鳥愛理は2人の方を見る。
「私の命令は、あなた達に居場所を取り戻させる事。ネックレスを渡すだけが任務ではなく、あなた達がきちんとあのご主人様とやらの居場所を取り戻すのを手助けするまでが、私の任務。
流石にここで帰っては、"マスター"の誉め言葉を受ける資格がありません。故に、最低限、あなた達が目当ての相手のいるところまで送るのが、筋と言う物です」
既に、場所は分かっている。
佐鳥愛理が作った高性能レーダーによれば、千山鯉とハジメはCランクダンジョン《東神話大陸》とやらにいる。
「では、行きましょうか。あなた達は、戦う覚悟と共に、私に着いて来てください。
そうっ! ご主人様に忘れ去られ、惨めにも誰かに頼らなければならぬ身となった2人を、"マスター"からあーんな誉め言葉やら、こーんなご褒美を貰う、誰かさん達よりもめちゃくちゃ幸福で仕方がないこの私がねっ!!」
----出発は、少し遅れた。
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