第177話 千山鯉とダンジョン探索(1)
千山鯉は、自分が偽物であると自覚している。
敬愛している主様である冴島渉。
彼とのダンジョンでの思い出は全て、自分と同じ顔の雪ん子と言う召喚獣との記憶である。
スキルに飲まれて、主様の手を斬っちゃった事も。
ファイントを召喚した事も。
機動要塞の吸血鬼を倒した事も。
吸血鬼のココアを召喚した事も。
【三大堕落】のシーヴィーと戦った事も。
全てが主様との思い出であり、そしてどれ1つとして自分の思い出ではない。
全て、代役である千山鯉ではなく、千山鯉の基となった雪ん子の思い出。
千山鯉は、それを記憶として、脳に詰め込まれただけに過ぎない。
雪ん子とは関係ない、彼女だけの思い出と言えば、この間の《電子レンジ》青鬼との戦い。
それから、この間の海水浴くらいだろう。
「(欲しい……)」
千山鯉は、欲していた。
自分だけの、雪ん子の記憶ではない、千山鯉だけの記憶が欲しかった。
----だから、千山鯉は、初めてこう言った。
「《ねぇ、主様? 久しぶりに、2人でダンジョン攻略しないかぎょ?》」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダンジョンを、主殿と2人で歩くの……
----気持ち良すぎでしょぉぉぉぉぉ!!
「うおっ、千山鯉。凄いな、湯気が出てんぞ」
「《ぎょぎょ!? ごめんなさいだぎょ、主殿》」
千山鯉は慌てて、簡易的な空調魔法(周囲の環境を適温に保つ程度の魔法)を発動して、魔力を消費する。
千山鯉の
その特性は、無限の魔力精製。
正確に言えば、千山鯉がときめいたり、ドキドキすると、体内で魔力が作られていくというものだ。
魔力は溜めすぎると、肉体にも影響を与える。
その1つが、先程のように体温が高温となって、血液が沸騰して煙が上がるという現象なのだ。
千山鯉はスキルの1つで【炎属性無効】を持っているので、熱くなること自体は無効化しているが、敬愛する主殿に危害を加えぬよう、魔法を使い続けて、魔力を消費していく。
----だったら、ときめかなければ良いのでは?
どこかでそんな事を思うかもしれない人がいるかも知れないが、それは難しい。
感情なんて限りはあると思うかもしれないけど、【魔法少女】になった者は感情が動きやすくなる。
だから、普通の人にとっては些細な事も、千山鯉にとってはときめきの連続であった。
「《……もっとも、主殿と一緒なら、そんな事なくてもドキドキし続けるぎょが》」
「----ん? 何か言ったか?」
「《いえ、別に気にしないで欲しいぎょ!》」
千山鯉は首をブルンブルンと振りながら、今回の目的を頭の中で確認していく。
「(今、主殿と歩いているのは、Cランクダンジョン《東神話大陸》。ここで、主殿がまだ倒していないボス魔物を倒す!)」
主殿である冴島渉は、正月のファイント----またの名をハジメの洗脳能力によって、千山鯉は雪ん子と差し替えられている。
雪ん子との記憶は、全て千山鯉に雑に差し替えられている。
剣で魔物を圧倒していたり。
試験と称して、過去の亡霊と戦ったり。
お好み焼きの敵と戦ったり。
千山鯉の戦い方から考えれば、明らかにおかしな記憶なのだが、ハジメはそれらをただ差し替えた。
おかげで、千山鯉は【雪の女神ポリアフ】に進化した後、また【千山鯉】に戻って【虹蛇アイダ・ウェド】に進化したという、謎のルートを通って進化したことになっている。
他にも細々とした記憶の差し替えによる違和感があり、時折、冴島渉は自身の記憶に違和感を持ってしまう。
「(もう、時間がない)」
一刻も早く、禁断の魔法【縁切鋏】によって、雪ん子達との絆を完全に断ち切らなければならない。
術式はある程度構築できた、後は細部を詰めるだけ。
「----あっ、そろそろボスの間だぞ。千山鯉。
「《ぎょぎょ! 了解だぎょ!》」
----でも、その前に。
今は、主殿とのダンジョンを楽しもう。
そう思う、千山鯉であった。
(※)【月神】
正月のファイントが、冴島渉の洗脳用に使っている力。十二支の兎の姿をしており、権能は【洗脳】
月のような幻想的に光る球体を呼び出し、それを見つめる相手の意識を
『太陽』は自ら光る星として、人々に真実を告げる。『月』は太陽の力を借りて光る星として、人々を惑わせて嘘を信じ込ませるのだ
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