第174話 空海大地はもう逃げない(1)



「----さて、ではもう1組の困っている人達の方はどうなってるのかな?」


 ストーカー対策ネックレスを手にした状態で、赤坂帆波は佐鳥愛理に尋ねた。


「このネックレスって、アイテムの効果から見るに、ストーカーを近寄らせなくするためのアイテムでしょう? 私が頼んだのは、居場所を奪われてしまった2人の召喚獣、その居場所を取り戻すアイテム作りだったはず。

 それなのに、ストーカーをなんとかするアイテムだなんて、ちょっと違うんじゃないかな?」


 赤坂帆波は、ネックレスの使い道を考えるも、どう考えたとしても2人の召喚獣の居場所を取り戻す方法には応用できそうになかった。


「いったいどういう風に使って、2人の召喚獣の居場所を取り戻させるつもりなんだい?」

「えぇ、是非とも! 説明させていただきたく思いますです! "マスター"!」


 実に嬉しそうに、佐鳥愛理は高らかと説明し始めていた。


「このストーカー対策ネックレスには、とある海賊達の世界の力の一部を利用して生み出しております。【海賊世界】、その名の通り海賊達の世界です。

 その【海賊世界】は海を自分達が気の向くまま、それこそ我が物のように、自由に航海する世界。皆が自由を愛する、自由と戦いを愛する世界です。この世界はそんな自由を愛する世界であるがゆえに、1つのルールが存在します。そのルールこそ、ストーカー対策ネックレスに組み込んだ【永久追放】なのです」


 自由を愛する世界において、唯一存在するルール。それが『暴力』。

 互いに互いの自由を優先させよと言うのだ、どちらか優れている方の主張が通るのは当然の事。

 そして、その優劣の決め方が『暴力』だって事も、一番分かりやすいから当然の事なのである。


「勝者には最高の自由を、そして敗者には最低の不自由を。『勝てば官軍、負ければ賊軍』という奴ですね。

 【海賊世界】はそういう世界であり、このストーカー対策ネックレスはその力を利用し、負けた方をストーカーとして、相手を追放するのです。その効果を利用して、彼女達には相手を追放させて、なおかつ居場所をも奪い返そう、そういう計画です」


 ペコリと、佐鳥愛理は「いかがでしょう?」と言いながら、頭を下げる。


「----あっ、そうでした。色々と改造しているうちに、【自身とストーカーを特製の戦闘会場にて隔離する】という機能に不具合が生じまして、隔離することが出来なくなっちゃいまして……。

 まぁ、勝者が相手から欲しい全てを手に入れるという部分は変わっていませんため、ご安心くださいませ。要するに、勝てば良い----それだけです」


 そういう補足説明と共に、佐鳥愛理は「説明は以上です」と締めくくる。


 つまり、佐鳥愛理が狙ったのは、居場所の奪取。

 奪われたのならば、奪い返せる場所とルールで、正々堂々と奪い返せば良い。

 このストーカー対策ネックレスを使い、相手から堂々と奪い返そうというのが、佐鳥愛理が出した答えなのである。


「なるほど、居場所を取り戻すという目的だけでなく、再発防止も担う訳か」

「……そうですが、あなたに納得されても、全く嬉しくないですね」


 納得した様子の空海大地を、佐鳥愛理はギロリと睨みつけていた。

 そして、赤坂帆波の方を向く時には、彼女は笑顔で「いかがでしょうか!」と声高らかに叫んでいた。 


「どうですか、"マスター"! これが私が出した答え、なのですが……」

「うんうん! 素晴らしい!」


 ガシッと、赤坂帆波は佐鳥愛理に抱き着いていた。


「ひゃうんっ?!」

「流石は【三大堕落】の【文明】担当! モノ作りが天才的! あなたに任せておけば、全てが解決! うちのエースは、やっぱり強かった! いやぁ、君が居てくれてよかった! 本当、苦労かけてすまないね!」

「"マスター"ってば、もぉ~! ほぉんとぅに、"マスター"はめちゃくちゃ褒め上手なんですから、もぉ~!」


 誉め言葉の嵐。

 いや、【三大堕落】風に言えば、甘言というべきか。


 赤坂帆波の甘言は、佐鳥愛理にクリティカルヒット。

 そのまま、メロメロ状態となって、座り込んでいた。


「うん。これでしばらくは、静かだろうね。……にしても、相変わらずチョロいわ、愛理ちゃんってば」

「……それ、言って良い奴なのか?」


 赤坂帆波は良く見る光景らしく、素通りして、空海大地にネックレス、それから地図を渡していた。

 地図には、とある地点に×マークが刻まれており、まるで宝の地図のようであった。


「さて、空海大地くん。君に仕事クエストを頼みたいんだけど、良いかな?

 このネックレスを、雪ん子達に渡してくれないかな? 地図の地点に居るはずだから」

「え? なんで俺様に?」


 空海大地は、素直に質問した。

 赤坂帆波自身で渡せば良いのに、そこで空海大地じぶんを通すというワンクッション置く理由が思いつかなかったのである。


「ん? 報酬がないと出来ないタイプなのかな?」

「いや、そうじゃなくて、理由が知りたいんです。もう何も知らないでいるのは、嫌だから」


 もう何も知らないでいるのは、嫌だった。

 何も知らず、ただ元の地球へと帰って来たいと自分が帰って来たせいで、1人の少女を殺した彼にとっては、『何も知らない』というのはもう嫌な事であったのだ。


「……うーん、そうか。知る事、それが君の望みなんだね」


 「なるほど」と、納得する赤坂帆波。

 別名、空海大地が何も知らずに帰って来たせいで死んでしまった少女。


「良いよ。どのみち、既に手遅れ・・・みたいだしね」

「手遅れ……それって、どういう?」



「奥義、【勇者武術・斬】!」



 次の瞬間、家は消し飛んでいた。

 床以外の、壁や天井、それから屋根に至るまで、全てが消滅していた。


「遂に見つけたぞ、空海大地ぃ!」


 そして、消し飛ばした犯人は、空海大地を親の仇のような眼で見つめていたのであった。

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