第173話 "マスター"は人たらし
~~前回までの あらすじ!!!~~
暴走した佐鳥愛理、それに対抗する千山鯉。
黒いオーラによる武装能力と、相手の防御を一切無視する佐鳥愛理に、苦戦を強いられる千山鯉。
そして、佐鳥愛理の必殺技が放たれる時、千山鯉の身体のライナーが光り輝く。
千山鯉が放つ古代龍魔法は、佐鳥愛理を倒すだけではなく、同時にマルガリータの心をも魅了するのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
都内にある、佐鳥愛理の自宅。
そこには3人の人間がいた。
元勇者の2人、空海大地と赤坂帆波。
そして、そんな赤坂帆波を"マスター"として慕う佐鳥愛理。
様々な想いを持つ3人は、六畳半の畳の部屋に集結していた。
「ていっ、と」
ぺちりっと、本当に赤坂帆波は優しく叩く。
「ウグワーッ!! やーらーれーたー(嬉)」
そして、叩かれた側である佐鳥愛理は、嬉しそうな表情を浮かべながらその場に倒れ伏すのであった。
佐鳥愛理は嬉しそうにバタバタッと、ばた足をして嬉しさを隠しきれてないようであった。
「……いやぁ~、ごめんなさいね。うちのパーティーの佐鳥愛理ちゃんは、
「ちょっと、がこれですか?」
赤坂帆波の言葉に、元勇者----空海大地は困惑していた。
彼はこの家に置いて一番の異質な人間。
家の持ち主である赤坂帆波が招き入れた客ではあるが、本来はこの家に入る事すら許されない大罪人である。
空海大地、彼はこの世界に戻って来る際に、自分の意図した行為ではないとは言え、赤坂帆波を殺してしまっている。
今は召喚獣として蘇り、なおかつ彼女自身は気にしていないようだが、不可抗力とは言え殺してしまった空海大地としては、居心地が悪い。
いくら、彼女が許してくれて、この家に入れてくれたとしても、居心地の悪さは変わらない。
「(それに、これも居心地が悪い原因だよな)」
空海大地の目の前には、佐鳥愛理が引いた白線が見えていた。
わざわざ畳の部屋に、【世界球体】を利用して生み出した白線を引いて、「ここから絶対に入るな」と念押ししている入れようである。
なんでも、この白線を相手の許可なく踏み越えようとすると、タライが振って来るらしい。
なんか嫌である。
その上、空海大地を物理的に遠ざけるための、機関銃や障壁などでバリケードまで設置している入れ込み具合である。
流石に、畳の部屋を仕切るように、白線を引いて、バリケードを設置するなんて、やりすぎじゃないだろうか。
ちょっと暴走、の次元では済まない話である。
「むぅ~! "マスター"が『ちょっと』と言うのならば、ちょっとなんですよ! 私個人としても、私の性格をちょっと暴走で片付けられないくらい、ねじ曲がってるとは思いますけれども!?」
「えっ、本人自覚してんの?」
「まぁ、自覚してるなら良いか」と、物凄い軽いノリで納得する赤坂帆波。
「----まぁ、私としても佐鳥愛理と言う人間の才能を見誤っていたね。なにせ、提案して3日で完成するとは」
赤坂帆波はそう言いつつ、佐鳥愛理が提出した道具の性能を確認していた。
===== ===== =====
【ストーカー対策ネックレス】 装備アイテム
ストーカーが出た時に重宝する、ネックレス型の装備アイテム。自身と、
そこで互いの尊厳を賭けて、勝負することになり、敗者は勝者に永遠に近付くことが出来なくなる
===== ===== =====
「それ……ただの防犯グッズじゃない?」
空海大地は、赤坂帆波が見ていたアイテムの性能を確認して、率直な感想を言った。
今、赤坂帆波が確認しているのは、ある2人の哀れな召喚獣達の問題を解決するための道具。
ダブルエムの力によって、絆を強制的に壊された2人の、絆を戻すための道具。
それなのに出されたのが、"ストーカー対策ネックレス"である。
「今、俺達が探しているのは、冴島渉の哀れな召喚獣達の問題を解決するアイテム、じゃなかったっけ?
それなのに、ストーカー対策はちょっと違うくないかな?」
「貴様ぁ! "マスター"に意見するなんて、ただ"マスター"に招かれただけの分際----くぅ! "マスター"ってば、なんでこんな奴を家にぃ……」
ぐすんぐすんと、泣き出す佐鳥愛理。
それに対して、佐鳥愛理は「分かって欲しい」とだけしか言わず、それ以上は言わなかった。
「恨むのは簡単なんだけどね。復讐に捕らわれるって、本当に簡単だし。
でも、許すことこそが、人間が一番すべき事なんじゃないかって、私は思ってるんですよね」
赤坂帆波はそう言いながら立ち上がると、自ら白線を越えて、空海大地の元へと歩み寄る。
途中、白線を越えてしまった事で、頭にタライが落ちてしまったのはご愛敬である。
「私は【勇者】。勿論ながら『元』という形容詞が付くが、それでも【勇者】として、何をして、何をすべきかは、最初から決まっている」
彼女はそう言って、優しく、空海大地へ手を伸ばす。
「----困っている人を救う。それが【勇者】という職業に選ばれた人の生き方だと、私はそう思ってるよ」
その言葉に、空海大地は感涙し、
「……"マスター"の、人たらし」
佐鳥愛理は不満気に、でも"マスター"らしいと褒めたたえるのであった。
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