第159話 ドリンクバーで長時間たむろするようなお話(2)

 そんな停滞しきった状況が変わったのは、ファイントが3回ほど消滅と再召喚を繰り返した頃の事だった。

 勿論、何故に消滅したかといえば、雪ん子の八つ当たりで殺されたからである。


 一度目は、ジュースを飲んでるときにジュースごと凍らされ。

 二度目は、フォークをいきなり喉元に突っ込まれ。

 三度目は、ファミリーレストラン要素皆無の炎攻撃で。


 何度殺されようとも、召喚獣であるが故に何度も復活できるファイントには、さほど問題ではなかった。

 スキル【独断専行】の効果で、ダンジョンの外であろうともスキルや魔術を行使できるファイントにとっては、殺されようともすぐさま召喚されるので、本当に問題などなかった。

 迷惑なのは、ドリンクバーだけで何時間も居座り続け、その挙句にグロテスクな殺戮ショーを見せつけられている店側の方であろう。


「いや、何してんねぇん! って!」


 バシッと、そんな光景にツッコミを、雪ん子の頭がスリッパで叩かれる。

 雪ん子がハッと、殺意を持って後ろを振り向くと、そんな彼女の首元に鋭利な刃物が押し付けられる。


「今、"マスター"を殺そうとしましたか、この雪娘?」 

 

 そう、文句を言いながら刃物を突き付けるのは、特徴のない顔を持つ少女。

 【三大堕落】の【文明】を担当する少女、佐鳥愛理である。

 佐鳥愛理は特徴のない顔を怒りと憎しみに歪ませながら、雪ん子の首元に日本刀の刃を押し付けていたのである。


「良いですか、もしも"マスター"に傷一つでもつけようものなら、お前を殺して、その上、召喚出来ないようにして差し上げますよ? 偉大なる【文明】の力によって、そりゃあもう----」


 その言葉の続きが言われることはなかった。

 何故なら、そんな佐鳥愛理の頭も、雪ん子と同じようにスリッパで叩かれていたからである。


「だから、やめーい、って言ってるでしょうに」


 そうやってスリッパで叩いている人物----それは、一度、この世界から消された人間であった。

 


 彼女の名前は、赤坂帆波。

 とある世界で勇者として活躍し、【三大堕落】の皆が慕うご主人様。


 そして、雪ん子とファイントの2人の協力者である。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「いやぁ~、調査に時間がかかっちゃってね。ごめんね、結構待たせちゃったでしょう?」

「大丈夫ですよ♪ むしろ、殺されて生きかえったりしてて、結構楽しかったですから♪」


 嬉しそうに、自分の殺害遍歴を語るファイントに、赤坂帆波は引いていた。

 むしろ、関わりたくないという気持ちが、顔から溢れ出ていた。


「ねぇ、"マスター"? ……なんでこんな異常者に協力するんです?」


 と、引き気味の赤坂帆波に対して、耳打ちし始める佐鳥愛理。


「説明したでしょ、佐鳥愛理? 2人が世界から隔離され、居場所を奪われる原因となったのはダブルエム、つまりは【三大堕落】のせいである、と」



 雪ん子とファイントの居場所を奪って、この世界をリセットしたのは、【三大堕落】の1人である、【不老不死】担当のダブルエム。

 正確に言えば、彼女の身体の中に居た魔王なのだが、赤坂帆波にとっては一緒の事である。


 この世界に召喚獣として蘇った赤坂帆波は、嬉しさ200%の佐鳥愛理に迎えられて。

 そして状況を整理するために色々と聞いたところ、ダブルエムが世界をリセットし、その影響下で2人の召喚獣が居場所を失ったことを聞き出した。

 そして、【三大堕落】の主として責任感を感じた赤坂帆波は、2人の居場所を取り戻そうと、雪ん子とファイントに協力を申し出たのである。



「かわいそうじゃない? 悲劇でしょう? ヤバいじゃない? 大好きなご主人様を見ず知らずの人達に、我が物顔で取られるだなんて、悲劇でしょう? そう言うのをなんとかしたいと思うのは、変ですかね?

 まぁ、あれだね? 子供が悪い事をしたから、保護者である私が出向いて謝罪と補償を行う的な事ですかな?」

「いや、確かにそうですけど……」

「分かったのなら、粛々と作業をしますよ? 佐鳥愛理?」


 渋々と言った様子ではあるが、敬愛する"マスター"の意思に従うと決めた佐鳥愛理はその後、何もいう事はなかった。

 佐鳥愛理が何も言わなくなったのを確認した赤坂帆波は、率直に話を進める。


「まず、最初に言っておくと、冴島渉の元に雪ん子達と千山鯉達が同時に冒険するって方法は、なしでお願いするよ」

「《当然っぴ! 許せないっぴ!》」

「そういう心理的な話じゃなくて、具体的に生命に関わるという意味で」


 赤坂帆波は、「存在の衝突さ」と答える。


「君達が互いに同じ空間に居続けると、摩擦ですり減っていく石のように、その存在はどんどん減っていく。1日2日、1週間や2週間程度ならまだしも、これから先ずっととなると、君達の存在が保たれるという保証はなくてね。

 だから、君達はこのまま居場所なしで彷徨うか、居場所を取り戻すかの、どちらかしかない」


 そして、肝心の居場所を取り戻す方法について、赤坂帆波はこう答えた。


「結論から言えば、君達を元の居場所へと戻す方法は、存在する。

 簡単に言えば、あの急に現れた千山鯉達を上手い所倒せれば、君達の居場所を取り戻せるかな?」



 それは、雪ん子とファイントが一番聞きたかった言葉であった。


「千山鯉と正月のファイント、あれは『冴島渉が君達以外を選んでいた場合』という、そういう"もしも"の可能性の具現化だと思って貰えれば良い。だから千山鯉は雪ん子ちゃんの顔に良く似ていて、聖霊型召喚獣は正月のファイントと、どちらも2人に良く似てるんだね」

「さしずめ私は……美少女のファイント、という所かしら♪」


 きららぁん、っとそんなエフェクトが見えそうな決めポーズを披露するファイント。

 赤坂帆波はその通りだと頷いていたけれども、雪ん子と佐鳥愛理は「何言ってるんだろう」みたいな目を向けていた。


「そういう訳で、あの千山鯉達は君達の居場所を奪ったのではなく、あくまでも補填という形さ。

 彼女達の存在が完全に消滅、もう二度と召喚できなくなるくらいにまで消し去れば、冴島渉は君達のことを完全に思い出し、彼の召喚獣という立場を取り戻せるという寸法だね」


 良い事を聞けた、と早速、あの2人の命を刈り取りに向かおうとする雪ん子。


「----無駄ですよ」


 そうやって命を刈り取りに向かおうとする雪ん子を、佐鳥愛理は止めていた。



「あなたに出来るんですか、雪娘?

 再召喚さえすれば完全な状態でまた存在できる、そういう召喚獣を完全になくすことが?」




(※)存在の衝突

 互いに同じ存在の物同士が衝突した場合、互いの存在はどんどん摩耗して、最後には消えてなくなってしまう

 【召喚士】である冴島渉を居場所として持つ千山鯉達は召喚して貰えれば存在は再び復活するも、居場所を持たない根無し草である雪ん子達は復活不可能な完全なる消滅の危険性がある

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