第157話 VS《電子レンジ》青鬼(2)

「それじゃあ、まずは後輩ちゃんのターンだねっ! いっけぇぇぇぇ、ニューイヤー・ハウンド!」


 正月のファイント----いや、ハジメは羽子板を右手にしっかりと握りしめると、左手にメラメラと真っ赤に燃える球体を握りしめていた。

 真っ赤に燃える球体は、中心で何度も爆発を繰り返しながら、どんどん威力を増しているようであった。


 真っ赤に燃え続ける球体を、ハジメは羽子板を用いて、敵である《電子レンジ》青鬼へと叩きつける。


「燃える攻撃ならば、分子振動を停止して凍結させるっぴ!」


 青鬼は、先程ココアとマルガリータの2人を凍結させた時のように、ハジメが放った燃える球体を氷漬けにしようとしていた。

 燃える球体は青鬼の力により、少しずつながら凍っていき----


「ぴっ、ぴぴぃぃんん?!」


 ----青鬼は球体に触れて炎が移り、真っ赤に燃え上がってしまっていた。


「その凍結の力、分子振動を制御コントロールする事によって、ゼロにして凍結させてるんでしょう? ただの炎ならば問題はないでしょうが、この後輩ちゃんの燃える球体にはダメだったようだねぇ~」


 ニタニタと、彼女は楽しそうに笑っていた。

 なにせ、彼女はファイント----存在そのものが敵対者というこの者達にとっては、「痛めつける」という行為に愉悦を感じているみたいであった。


 青鬼は必死になって、自身に冷却の煙をかけて、炎を消していく。

 空気中の水分子の振動をゼロにして、即席の冷却の煙としたようである。


 しかしながら、青鬼が受けた傷は酷く、火傷の跡が強く残ってしまっているようであった。


「なんで、後輩ちゃんの燃える球体は凍らせられないのか? どうして、後輩ちゃんはめちゃくちゃ可愛いのか? その答えを教えても良いけど、残念ながら懇切丁寧に説明しちゃう料理グルメ漫画ではないので、バトンタッチと行くよ!」


 ハジメはそう言うと、年酒おとそを出して、既に勝利を確信して祝杯をあげているようである。


「《むむっ、ハジメちゃんよ。慢心はいかんぎょ、慢心は。でもまぁ、我々の勝利はもはや確定事項だぎょがね》」


 千山鯉は剣と銃という、近距離と遠距離の両方に対処できる構えで、青鬼と睨み合っていた。


「既に勝利を確信しているみたいですが、そう簡単には倒させはしませんっぴ?

 こうなったら、【電子レンジ】のとっておきを見せてあげるっぴよ!」


 青鬼はそう言うと、かの鬼の電子レンジ頭に黄色い光が灯る。

 黄色い光が消えると共に、青鬼の身体全体がうっすらと黄色く光り始める。


「これこそ、【電子レンジ】の秘奥義、光速あたためモード!

 全身を分子振動によって光速へと到達させる、究極の形態っぴ! 今の我は光の速さを手に入れたっぴよ!」


 そして、光の速さを手に入れた青鬼は、まさしく光のように消えていた。

 光となった青鬼の姿を、誰も捕らえる事は出来ない。

 


「----なので、この攻撃にて決めるっぴ! 光の蹴りっ!」



 青鬼の姿が次に確認できた時には、かの鬼の脚は千山鯉の身体にめり込んでいた。

 

 ----光速の蹴り。

 遅い物よりも、速度が速い物の方が衝突した時の衝撃の大きさが大きいのと同じように、光の速さで放たれた蹴りは衝撃波だけでも相当の物であったことがうかがえていた。



「《ぎょっ? それで?》」

「なんでっ?!」



 しかしながら、そのような凄まじい蹴りを受けたはずの千山鯉は、キョトンとした様子で立っていた。


 まるで、蹴りのダメージを受けていない様子。

 蹴りが外れたという訳ではないことは、蹴りを放った青鬼が良く知っていた。


「(どうなってるっぴ?! 無傷だなんて、あり得ないっぴよ?!

 あの光の蹴りは、山をも砕く最強の蹴り! いくらなんでも、あの光の蹴りを受けて無傷だなんて事は、あり得ないっぴよ!)」


 そして、千山鯉は銃口を青鬼へと向ける。


「《今度はこちらから、行かせてもらうぎょ!》」


 千山鯉が銃の引き金を引くと共に、雷鳴がとどろく。

 彼女の銃から放たれたのは、雷であった。

 雷はそのまま青鬼へと向かうが、青鬼の速度の方が雷よりも速かった。


「ぴーぴぴぴっ! どんな手段であの蹴りを無力化したのは分からんっぴが、お前の攻撃はのろすぎるっぴ! 光の速さを手に入れたこの《電子レンジ》青鬼に敵う者など、居ないっぴ!」

「《そうぎょか……なら、武器を・・・変える・・・、っぎょ!》」


 武器を変えるの言葉通り、千山鯉が手にしていた剣と銃は消えていた。

 代わりに手にしていたのは、日本刀----忍者が持っているような、あの刀である。


「《----行くぎょ》」


 千山鯉は日本刀を手に、青鬼へと向かって行く。

 しかしながら、青鬼にとっては、日本刀を持って襲い掛かる千山鯉なんて、欠伸あくびが出るくらいに遅かった。


「(余裕で避けられるっぴ! 避けたところで相手の懐に、もう一度蹴りを叩きこんでやるっぴ!)」


 そして、千山鯉の日本刀が当たる直前に、青鬼は光の速さで避けると、そのまま千山鯉の、今度は頭に蹴りを叩きこむ。


「(これなら、どう……って、うん?)」


 青鬼は、キョトンとしていた。

 何故なら先程とは違い、今度はまるで蹴りが当たった感触がなかったからだ。

 まるで煙でも殴ったかのように、あまりにも手応えがなさすぎた。



「《----残念ぎょ、それは分身ぎょ》」



 と、そんな声と共に、千山鯉の身体は破裂・・する。

 破裂し、彼女の身体から大量の白い液体が噴き出して、青鬼の身体に降り注ぐ。


「ががっ……かっ、身体が?! 動かないっ?!」

「《忍法・金縛りの術! って、ところだぎょ!》」


 そう、千山鯉が日本刀を武器に持ち替えた理由は、この液体を相手へと浴びせるため。

 この日本刀を武器とする時、千山鯉は分身の術、つまりはもう1人の自分を生み出せる。

 その生み出した分身が破裂する際に、機械系統を麻痺ショートさせる液体をばら撒くように細工を施していたのである。


 あからさまなチャンスを作れば、この青鬼ならば自分を仕留めようと攻撃してくる。

 そう見込んでの、千山鯉の作戦勝ちであった。


 液体によって、頭の電子レンジが麻痺して、かの青鬼の身体から黄色い光が失っていくようであった。


 そして、千山鯉は日本刀から、今度は全てを両断する大太刀を手にしていた。


「《これで、止めだぎょ!!

 ----大太刀・一文字!》」


 そして、千山鯉の大太刀は青鬼の身体を真っ二つに両断するのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 無事、ボス魔物を倒した俺は、初回討伐特典をどれにするか悩んでいた。



 ===== ===== =====

 Cランクダンジョン《鬼壁城きへきじょう》のボス魔物を倒しました

 スピリット系統職業【電子レンジ】が 解放されます

 確定ドロップとして、鬼の涙石が 100個 ドロップします


 また、初回討伐特典として以下の物の中から、1つを選んで取得できます

 なお、2回目以降は討伐特典は発生いたしません


 1)【鬼神の嘆き石】……鬼の涙石の上位互換アイテム。携帯化とは別の機能として、偉人の才能をさらに引き出せるようになる素材

 効果;素材アイテム。このアイテムを用い、ゴーレムを作成する際に5人までの偉人や武人の才能を集結させることが出来るようになります。また錬成に使う事で、10cmほどの【超小型化】機能を付与できます


 2)【姉妹リボン】……姉妹仲を高めるために使われる、特殊な装備アイテム。装備すると強制的に女性になります

 効果;2人以上で付けると、お互いの身体能力がつけている人数×10%上昇する


 3)【祝言の盃】……鬼があまりの美味しさに結婚を急遽行うほど、美味しいお酒。飲む際には注意が必要

 効果;この酒を飲むと、【結婚酔い】という悪酔いが状態異常として発動して、周囲にいる他の【結婚酔い】の人達と結婚してしまう

 ===== ===== =====



「(う~ん、確か【鬼神の嘆き石】と【祝言の盃】はある一定数から欲しいと言われてる代物だ)」


 鬼神の嘆き石は、俺が集めようとしていた鬼の涙石の上位互換とも呼ぶべき素材アイテム。

 超小型化機能だけでなく、ゴーレムに偉人や武人の才能を与えて、引き出せるという効果まである。

 その市場価値は、鬼の涙石の数千倍から数万倍とも言われており、これを得るには危険なAランク以上のダンジョンに潜らないとダメなので、欲しいと言えば欲しい。


 そして、祝言の盃は、飲めば必ず結婚できるという、そういうジンクスというか効果が保証されているお酒だ。

 最も注意しないとならないのは相手にもこのお酒を飲ませて【結婚酔い】状態にしなければならない事と、同性や複数人であろうともこの効果は強制的に発動するということ。

 過去にはこのお酒のせいで、10人以上で同時に結婚した高校生冒険者の苦労談がテレビで度々語られている。

 しかも、厄介なことに強制結婚な上、離婚できないので、まぁ、本当に注意が必要な代物である。


「(まぁ、必ず結婚できるから、孫の顔が欲しいお爺さんやお婆さんなどが金に糸目を付けずに欲しがる代物なんだけど)」


 やっぱり金銭よりも、孫子供ってのは可愛さが段違いって所だろうか。


「単純にパーティーの戦力向上と考えれば、姉妹リボンを選ぶべきで……」


 特に、ココア辺りが喜びそうだし。


「うーん、こんな時、"初回討伐特典を・・・・・・・全部獲得・・・・できる・・・方法が・・・あれば・・・"、なぁ」


 ----って、何を考えてるんだ?

 そんな方法なんて、ある訳ないのに……。


 これもあれだな、ダンジョンでココアに余計な事を吹き込まれたからだな。


『妾、思うんじゃが……初回討伐特典を1つしか"ちょいす"できんのは、勿体ないのぉ。こう、全部獲得できる方法があれば良いんじゃが』


 ----なーんて、そんな方法、あるはずが……ない、よな?


「さて、そろそろどれにするか本当に選ばないと」




 俺がそうやって必死に選んでる姿を、ココアが裏で見ていた事なんて、その時の俺は思いもしなかった。


「雪ん子、ファイント。主殿はまだ思い出すのは、無理なようじゃ。

 ……妾はもう少し、マルガリータと共に、オマエラの座をいつの間にか奪い取ったあの2人を、監視させてもらう事にしようぞ」


 そう、ココアが裏で、雪ん子とファイントの2人と連絡を取り合っていただなんて。

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