第154話(番外編) 夏の縁日だよ! 全員集合!!
ダンジョンと言えば、ボスと戦うのが一般的である。
しかしながら、世の中には一般的なモノだけが全てではない。
ボスと戦わないタイプの特殊なダンジョン、Dランクダンジョン《ある夏の縁日》。
浴衣を着た人々達が、夜道の屋台を楽しみ練り歩く----危険度が一切ない、まさしく夏の縁日のような光景が広がる、そういう楽し気なダンジョン。
そこのドロップアイテムを得るための条件は、『楽しむ』こと。
パーティー1人1人に与えられた、縁日のみで使えるという、3千円分の縁日コインを使って、どれだけ全力で楽しめるのか。
夏の縁日を、全力で、一番楽しんだ者が、報酬として【縁日の赤金魚】(食べると3時間だけ、12歳の子供の姿になれる)というアイテムを手に入るのである。
そして今、俺達の中で、縁日勝負が幕を開けた!
誰が一番、この縁日を楽しむかという、縁日のお楽しみ勝負が!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「普通に美味いな、この焼きそば」
俺は焼きそば(450円と割かし高め)を味わいながら、夏の縁日を楽しんでいた。
ダンジョンの
まぁ、何をしたらいいか分からないから、焼きそばだとか綿あめを買って、それっぽい雰囲気を醸し出しているだけなのだが。
他の4人の召喚獣達も、個々人でそれぞれ満喫している頃だろう。
どういう感じで、楽しんでいるかは分からないが。
----と、そう思いながら歩いていると、
「《ぴぴっ! 美味しい、美味しい!》」
1人、大量のかき氷を食べている雪ん子の姿があった。
というか、あんなに大量のかき氷---予算内である3千円よりも明らかに多いんだが、恐らくは雪ん子がかき氷の材料である氷を提供して、食べているんだろう。
「《ぴぴ? 主も、食べる?》」
「いや、俺は良いよ」
なんて言うか、大量のかき氷を見ていると、食べてないのに身体が冷えているというか。
「《ぴぴっ……あっ、そう言えば主、知ってる? 知ってる?》」
と、俺が食べない事を少し残念そうにしていた雪ん子は、少しドヤ顔気味で語り掛ける。
「《ファイントちゃん、教えてくれたの! かき氷のシロップは、実は同じ味で----》」
「それを、かき氷の屋台前で言うなよ?!」
なんだよ、その豆知識的な雑談の披露は?!
絶対、それが正しいとしても、この場で披露すべき雑談ではないだろうが?!
ほら、なんか屋台の人ががっかりしたような顔で、こちらを見てるよ?!
「おぉ、主殿! ここに居ったのか、探したのじゃよ」
と、そんな事を考えていると、後ろからココアが現れる。
狐吸血鬼である彼女は、俺と同じように色々な縁日を回っていたらしく、金魚が入った袋だとか、射的で取った大量のぬいぐるみを持って話しかけて来ていた。
「ココア、どうかしたのか? 縁日、楽しめないのか?」
「……? いや、縁日という"ふぇすてぃばる"自体は大いに楽しませてもらっておるのじゃ。まぁ、それとは別として、じゃ」
ごほんっ、と咳き込むココア。
「妾、今から"ふらんす"の"るーぶる"美術館とやらに行こうと思っておっての」
「どういう事情で?!」
どういう事情があったら、縁日でわいわい楽しんでいたらルーブル美術館行きが決定する事態になるんだろうか?
「いや、なんじゃよ。主殿に言われた通り、精一杯"えんじょい"しようとのぉ、色々な屋台を回っておったのじゃ。そのうちの1つに、『創作型抜き』なる屋台を楽しんで居った結果、こう言うのが出来たんじゃよ」
と、彼女は1つのアイテムを、芸術的な型抜きを俺に見せていた。
===== ===== =====
【吸血鬼3姉妹の型抜き】
吸血鬼ココア・ガールハント・ヒアリング3世が生み出した、究極の芸術的アイテム。ココア、リョクチャ、マルガリータの3姉妹を型抜きで表現した作品
陰影で生み出した彫りや、型抜きで生み出したと思えないほどの奥深い絵姿は見る者を魅了する
===== ===== =====
ココアが俺に見せて来たのは、芸術的な型抜きである。
ココアだけでなく、万力龍リョクチャ・ガールハント・ヒアリング4世、さらには悪癖龍マルガリータを、
「いやぁ、頑張ったら傑作が出来てのぉ。それを見ていたダンジョン外の者が、傑作だからという理由で、これを美術館に寄贈させて欲しい、との事じゃ。
どうじゃ、主殿? これが縁日の、正しい楽しみ方と言う奴じゃろう?」
「絶対、違うと思う」
うん、そんな話、1回も聞いたことがないし。
「イッ、ェーイ!! 会場のみんなぁ!
今日はマルガリータちゃんの単独ライブに来てくれて、ありがとぉぉぉ!!」
「迷子のお知らせを、申し上げます。ダンジョン外からお越しの、冴島渉様。お連れの、超絶美少女にして、これが縁日の楽しみ方とおっしゃるファイントさんがお待ちです。至急、縁日特設会場にて----」
ココアの対応に頭を悩ませていると、残りの2人もおかしな楽しみ方をしているみたいである。
マルガリータはみんなで盆踊りを踊る会場を占拠して、1人でコンサートを始めて。
ファイントは「係員さんに呼ばれる事こそが、縁日の楽しみ方」とでも思ってるらしい。
「(……今度、4人に縁日の楽しみ方について、ちゃんと教えておこう)」
気晴らしに来たダンジョンなのに、なんだかドッと疲れた気がする俺なのであった。
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