第150話 パンはパンでも、食べられないパンって、なーんだ?

「"マスター"!!!」


 召喚獣として再びこの世界へと帰ってきた赤坂帆波マスターに、日野シティーミティーは抱き着いた。

 ジャンプしての、飛び込み抱き着きである。

 狗が飼い主の姿を見て、喜び勇んでじゃれつきにかかる図をそばで見ていたダブルエムが思い浮かべるくらい、見事な飛びつきようであった。


「うわぁっと」

「"マスター"だ! 本物だ! 生きてるよ、この人!」


 子供のようにじゃれつく日野シティーミティーに飛びつかれ、赤坂帆波はその場に倒される。

 倒された状態のまま、離れようとしない日野シティーミティーを、赤坂帆波はゆっくり、丁寧に撫でていく。


「うにゃぁ~……ふにゃぁ~……」

「うわっ、#猫みたい ですね。初めて見ましたよ、こんな#癒された顔 のダブルエムは」

「はいはい、ダブルエムったら。あんたも撫でられたいなら、頭だしな。それとも、夕張萃香とか呼んだ方が良い?」

「"マスター"だにゃぁ~!」


 もう1匹ほど増えた大きな猫ちゃんを、同じように撫でていく赤坂帆波。


「"マスター"! 聞いて、聞いて! 実はね、ニチアサちゃんは【青春】が分かっちゃったんだよ!」

「え~? あの、ニチアサちゃんが? 本当に?」

「本当だよぉ~。めちゃくちゃ色々調べて、分かるようになったんですから!」


 ぷくぅ~と頬を膨らませて抗議する日野シティーミティーに、「本当かなぁ?」とニヤニヤした顔を浮かべる赤坂帆波。


「じゃあ、テストしようかね? "パンはパンでも、食べられないパンって、なーんだ?"」

「ふふっ……"マスター"のなぞなぞ、本当に懐かしいですね。でも、とびっきりの【青春】を学んだ私には、既にその答えも分かってますよ?」


 「ふふんっ!」と大きく胸を張る日野シティーミティー。



「そもそも、"マスター"は私が何を答えても、違うとおっしゃった。

 以前に"マスター"が正解だと言っていた正解を、いくつも言ってるのに、それらも否定されてましたし」


 既にこのなぞなぞで、赤坂帆波が正しい答えだと言った解答例は10を越えている。

 『フライパン』、『ピーターパン』、『絵に描いたパン』、『審判』、『直談判』。

 『「パン」と鳴る音』、『プロパン』、『怪盗ルパン』、『折半』、『ジーパン』。


 "マスター"の「不正解」の言葉と共に、言われた解答を日野シティーミティーは全部覚えており、それらを次に問いかけられた際には答えているのだが。

 それを全部、"マスター"は「不正解」と否定していた。



「つ・ま・り、解答自体よりも大切なものがある。そして、私は"マスター"の表情を思い返して、"マスター"が楽しそうにしていたのを思い出しました!

 という事は、あれはなぞなぞの解答を問うていたのではなく、なぞなぞという会話を私と楽しもうとしていた! ----すなわち、皆で楽しく会話するための会話手段!

 だから正解は、【青春】! 一緒に楽しくエンジョイする! それこそ、このなぞなぞで"マスター"が問いたかった答えですっ!!」



 どやぁ、と答える日野シティーミティー。

 その答えを聞いた赤坂帆波は、「成長したね、ニチアサちゃん」と涙目になっていた。


「まさか、人の気持ちや思い出なんて一切分からなかった、あのニチアサちゃんがこんな答えを出してくれるだなんて……あなた達のご主人様としては、すっごく嬉しいよ」

「"マスター"……」


「え? そのなぞなぞ、答えって『ナン』なんじゃ? #ですよね 確か?

 前に"マスター"言ってましたよね? 『パンはパンでも食べられないパンってのは、『ナン』だ』って」


 余計な事を言うダブルエムに、2人は冷めた目で見つめていた。


「ダブルエム……今は、そういう揚げ足取りは要らないと思います。青春的にも」

「【不老不死】じゃない物を担当した方が良かったかもね、萃香は」

「酷い?! #酷くない ですか、それは?!」


 「「「アハハハッ!!」」」と、3人の笑い声が、ダンジョン内にて響き渡るのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「すやぁ~」


 ぐっすりと、赤坂帆波は寝息を立ててぐっすり眠っていた。


「#副作用 みたいな物ですね、【フギンとムニンの液体瓶】の」


 赤坂帆波が眠った理由について、ダブルエムはそう日野シティーミティーに説明した。


「【フギンとムニンの液体瓶】は、対象に関する記憶を色々な場所から収集してきます。その量があまりにも膨大すぎて、脳が整理する時間を身体に要求した。だからこそ、"マスター"の身体が一時的に眠りに落ちた。

 ----安心してください、恐らくは数時間くらいすれば、記憶の処理も終わるでしょうし」

「では、その頃を見計らい、【召喚登録】をしましょうか」


 と、ダブルエムはそう結論付けた。


 今現在、召喚獣である赤坂帆波の所有権は、冴島渉の物となっている。

 他人のスキルを勝手に用いる【貪欲なる右腕ムナガラー】というスキルを用いて、【召喚 レベルアップ可能】というスキルを勝手に使用していた。

 その勝手に使用した【召喚 レベルアップ可能】は赤坂帆波に記憶と経験が出来るように調整していたのだが、その影響は大きく、召喚を行った日野シティーミティーの召喚獣ではなく、冴島渉の召喚獣として現在は登録状態になっているのだ。


 ダブルエムはそこまで調べ上げて、【フギンとムニンの液体瓶】が完全に身体に馴染む頃には、【召喚 レベルアップ可能】の効果も身体に馴染むと判断した。

 なので、ちゃんと馴染んだ頃を見計らって、【召喚登録】によって日野シティーミティーの召喚獣として登録しようという計画を立てたのである。


「ほんと、作戦が無事成功しそうで、青春的に嬉しいですね……」


 心安らぐ顔で、日野シティーミティーは安心していた。


「あぁ、"マスター"が無事に完璧な状態 #馴染んだ状態 になったら、#サトエリちゃん にも伝えないとなりませんね。サトエリちゃんも、ニチアサちゃんに負けず劣らずの、"マスター"大好き勢ですし」

「----えぇ、そうね」


 心安らぐ、安心しきった雰囲気を漂わせる2人。



 そして、ダブルエムは、こう言った----。


「では、私の方の#作戦 も、手伝ってくれますよね? ニチアサちゃん?」


 ダブルエムはそう言いながら、"ゴツゴツとした少し大きい"【世界球体】を日野シティーミティーに向けていた。

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