第128話 強すぎ、《消しゴム付き鉛筆》黒鬼

 油留木和花とのバトルから、4日後。

 俺は再び、【ダンジョン研修】の舞台となる《三日月の塔》へとやって来ていた。

 

 ここしばらく、俺は別のダンジョンで、色々と検証みたいなものをやっていた。

 そう、油留木和花の対戦で見せた、あの蒼炎の力である。


 【オーバーロード】……という力、だったか。

 油留木和花の戦闘中に発現した蒼い炎----あの蒼炎を発現させて以降、あからさまに雪ん子の力が倍増した。

 倍増と言うか、強さの次元が数段階くらい上がった、というべきか。


 速度を置き去りにしたとしか思えない、超高速の斬撃。

 斬る動作をするたびに、相手へと襲い掛かる衝撃波。

 油留木和花の持つレアスキル【鬼怒楽園きどらくえん】を、眼光一つで弾き飛ばす眼力。

 強力すぎる雷魔法球を簡単に飲み込んで消した、蒼炎。


 その全てが、別次元の強さの領域となっているのだ。


 あの強さを常に維持できたり、ファイントやココアといったレベルアップ召喚獣も同じように【オーバーロード】を使えるようになれば本当に敵なしになるだろうから。


 ----だがしかし、あの対戦の次の日、別のダンジョンで雪ん子を召喚したところ、【オーバーロード】のスキルは"消えていた・・・・・"。



 ===== ===== =====

 強力な殺意の 消失を 確認しました


 【神呪の目】を 元に戻します

 【神呪の目】を 削除し 【殺意の目】を 復活させます

 ===== ===== =====



 正確には、【オーバーロード】を発現させるためのスキル、【神呪の目】というスキルが消えていたのだ。

 あのスキルがなくなったため、【蒼炎】のスキルも、そして【オーバーロード】の力も使えなくなっていた。


 さらに、あんなに頑張ったのに、レベルは一切変わっておらず、代わりにマルガリータがちょっとしたスキルを入手していた。



 ===== ===== =====

 【ミステリアスドラゴン】

 自分の体内で作り出した、特殊な黒い霧を放つスキル。霧を纏っている間、防御力が極端に減少するが、相手から狙われなくなる。また、この状態の時の攻撃はいつもの3倍の威力となる


 【抑えられない……この輝き♪】 

 自分のカリスマ的アイドルオーラを輝かせて、相手に自身を狙わせるスキル。このスキルを使うと相手からの攻撃に狙われやすくなり、また【魅了】の状態異常にかけやすくする

 ===== ===== =====



 マルガリータだけスキルを手に入れてるのは、固有スキルである【アルビノ】の効果だろう。

 あのスキルはレアスキルを獲得できる確率が高くなるとあったが、この2つはその縁もあって手に入れたスキル達なのだろう。


 【抑えられない……この輝き♪】はスキル名こそふざけていると思うのだが、スキルの性能はかなり破格の性能だ。

 相手の攻撃を惹きつけるタンクの役割を担うと同時に、敵を味方にしたりする混乱状態の一種たる【魅了】にかけやすくするのは強いだろう。

 

 それ以上に強いのは、【ミステリアスドラゴン】のスキル。

 黒い霧を纏っている状態だと、相手は姿を見失ってしまい、さらに攻撃は3倍の威力……とんでもなく強力なスキルだろう。

 弱点としては防御力がダウンすることよりも、味方ですら姿を見失ってしまい、回復などの補助効果を受けられなかったり、連携が出来ない事だろうか。

 それを除けば、自分だけではなく、他の仲間にかけたりする、本当に強力すぎるスキルだ。


 雪ん子が【オーバーロード】の四大力を得られなかったのは残念な話ではあるが、マルガリータが優良なスキルを手に入れたのは嬉しいな。


 油留木和花はバトルに敗北したことによって、討伐ポイントを全部失っているから、しばらくは来ないと思う。

 またしても決闘を仕掛けられたくはないので、早急に隠し通路に急ごう。


「この【三日月の連鎖証】を使えば、隠し通路に行けるんだよな?」


 俺が取り出したのは、あのバトルの戦利品----【三日月の連鎖証】。

 これを使えば、《三日月の塔》の隠し通路に入れる。


「(いやぁー、残りの【三日月の証】をどうやって集めようかと思ってたんだけど、それを1つで兼ね備えているアイテムが手に入るのは嬉しい)」


 そうして、俺は【三日月の連鎖証】を使用して、隠し通路への道を開くのであった----。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ----と、そんな訳で、マルガリータも新しいスキルを手に入れて。

 隠し通路もさっさと抜けて、隠しボスの所へと行けるんだろうなと考えていた。


「我が居る限り、この先に行けると思わないで欲しいのだが」


 まさか、三本角の物凄く強い黒鬼に立ち塞がれるとは思ってなかった。


「むむっ、またしても攻撃か? 見えないが、とりあえず【消去】っと」


 その黒鬼が"消しゴム模様の盾"を掲げると、せっかく付けた傷が消えていた。

 黒い霧で隠れていた雪ん子、その3倍という超威力の攻撃でつけた傷だったのに、それが一瞬にして……。



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 【《消しゴム付き鉛筆》黒鬼】 ランク;?

 自由に世界を変革する聖剣"消しゴム付き鉛筆"と共に世界を救済する勇者が活躍する世界を閉じ込めた【世界球体=消しゴム付き鉛筆世界=】の力を得た、黒鬼の召喚獣。倒すと、オーラ系職業の1つ、【消しゴム付き鉛筆】を使用することが出来るようになる

 鉛筆の力によって自分の攻撃を『×999』まで高める事ができ、消しゴムの力でそれと同じだけのダメージを自分から消し去ることが出来る。さらに、力を溜めればもっと凄い事が出来るのだ

 ===== ===== =====



「いや、チートすぎでしょ」


 【ミステリアスドラゴン】の攻撃力3倍というのは普通に十分凄いと思っていたのだが、まさか攻撃力を『×999』できるとは……というか、それと同じだけのダメージを消し去れるって!!

 それ、普通に超威力の破壊力と、物凄い回復力って事なのでは?!


「強すぎじゃ! なんでこんな"もんすたあ"が居るんじゃよ、やばいのじゃ!」

「むむぅ、可愛いボクの魅力が活かせないですよ! 折角、スキル【ミステリアスドラゴン】でプリンセス雪ん子の力を強化したのにぃぃぃぃ! むきーっっ!!」


 魔術と文句を大量に放つ吸血鬼ココアと、こちらは文字通り文句を形にして放つマルガリータ。

 2人の攻撃も黒鬼には当たっているのだが、こちらは【消去】するまでもない威力という感じで、傷一つ付いてないみたいだ。


「(外見は、物凄いバカっぽいのに……)」


  黒くてゴツゴツした筋肉質な肌を持つ、三本角を持つ黒鬼。

 緑色の【HB】という文字が大きくプリントされた学生服を着ている特殊な黒鬼は、"鉛筆模様の剣"と"消しゴム模様の盾"----2つの武器を構えている。


 簡単に言えば、学生服のなんちゃってコスプレをした黒鬼。

 鉛筆を剣に、そして消しゴムを盾にしてるだなんて、学生の休み時間か何かかよ……って思ってるのに、なんでそんな強いんだよ?


「いやぁ~☆ 黒霧状態の雪ん子ちゃんの攻撃は効いてるみたいなんですけど、すぐさま全回復してますね~♪ ……これは、楽しくないですね」


 ファイントは悪精霊達を使役して、大量の光線を放って攻撃していた。

 黒鬼はそれを避ける事もせずに、全部身体で受け止めていた。


 多少、血を流させることは出来たが、それも本当に一瞬の出来事であった。

 すぐさま、【消去】の力で体力を全回復させて----


「(あぁ、もうクソ! 雪ん子が【オーバーロード】の力を発現させていれば、もっと違ったのかもしれないのに!!)」



 そう思っていた時である。



 ===== ===== =====

 依頼クエスト 『【オーバーロード】発現、および【召喚士】のスキルアップ!!』が 発動

 《クエスト》赤鬼の 力によって 依頼が 強制発行されました


 転移します

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 いきなり、目の前が真っ白の光に包まれて、俺達は別空間へとワープされるのであった。

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