第127話(番外編) 壁に耳あり障子に目あり、天井にシティーミティー
【召喚士】冴島渉は、帰って行った。
好戦的で実力もある【魔族】の女冒険者、油留木和花を倒して帰って行った。
まぁ、決闘で精神が大幅に削り取られてしまったんだろうし、今日は一旦、帰っておこう。
【ダンジョン研修】はまだまだ期限があるし、今日は帰って、明日以降にしよう。
----まぁ、そういう判断なのでしょう。
「まぁ、私も策を練る時間が出来て、嬉しいですね」
よっ、その戦いをこっそり観戦していた日野シティーミティーは、冴島渉が帰ったのを見計らって、ゆっくりと姿を現した。
彼女がどこに隠れていたかと言うと、彼らが戦っていた場所、その"
そこに青いデータで出来た髪を器用に操作して、髪をまるでハンモックのようにして天井で揺られながら、じっくりと戦いを観戦していたのである。
もし仮に、彼らが天井を見ても、彼女の姿は見えなかっただろう。
なにせ、日野シティーミティーは髪に
----光学迷彩。
彼女の髪はただ青い髪ではなく、小さな画像データの集合体である。
その画像データは彼女の意のままに色を変える事ができ、その機能を用いれば髪の色を周囲の環境と全く同じ色の保護色に変える事など、容易い事である。
「髪の色も、そして髪型も自由自在。ポニーテールから一瞬にしてツインテールや三つ編み、お団子など髪型変更を意のままに。髪の色も鮮やかにささっと変えられる----"マスター"を楽しませたこの髪、やはり便利ですね。こんな風に光学迷彩としての役割も果たせますので」
普通、髪に光学迷彩の役割を持たせるのはいかがなものかと思うのだが。
彼女は必要そうに頷いているので、必要なのだろう。
「……最も、"マスター"は事ある毎に、私の髪を直接触って髪型を変えるなどと、非効率なことをしてましたが」
今となっては、その話はどうだって良い。
大切なのは、光学迷彩によって、気付かれないうちに色々と見られたこと。
見ておきたかった3人の冒険者のうちの2人、冴島渉と油留木和花の2人の力を、隠れて見る事が出来たのは
「(まぁ、1人----気付いてはいたみたいですが)」
光学迷彩で消えた日野シティーミティーを、あの場でただ1人、しっかり捉えていたファイント。
彼女の視線は、天井に隠れている日野シティーミティーに向けられていた。
最も、【召喚士】冴島渉に近くで守護に徹しながらも、そのことを指摘しそうにはなかったので、今後も伝える気はないのだと思うが。
そんなファイントの話は、ともかくとして。
彼女は床を、正確には雪ん子が消えた床をそっと撫でる。
「----うん、間違いない。これは私と同じ、【オーバーロード】の痕跡。
恐らく彼女も、私が持つスキル【もうっ☆ そんな事を言ってるなら、家出しちゃうんだからね♪】と似たようなスキルで、【オーバーロード】の四大力を覚醒させたと見るべきでしょう」
それを、【オーバーロード】を発現させた者がいる事を、日野シティーミティーは嬉しく思った。
【三大堕落】の担当としての作戦とは本当に関係ないのだが、【オーバーロード】を見出した者がいるのは、
身体能力強化の【オーラ】、魔法を用いる【マナ】、性質変化の【スピリット】、そして回復の【プラーナ】。
この4つが四大力だと言われているのだが、【オーバーロード】はその4つの全てを内包した四大力。
四大力4つを超越する道の力----だからこその【
【オーバーロード】の取得条件は、神を呪うほど想うこと。
世の理不尽を呪い、神の加護や力を拒絶するほどの情念を持つ者のみが辿り着いて、使える力、それが【オーバーロード】なのだから。
「ただ、まだ彼女は【オーバーロード】の力を使いこなしてはいないみたいですね」
彼女の身体に宿っていた、青い炎。
あれは炎ではなく、日野シティーミティーの髪と同じ、データ画像の集合体である。
まだ【オーバーロード】を使いこなせていないから、蒼炎のような形になってしまっていただけで、きちんと使いこなせれば私と同じようなデータ画像で出来た物になっていたはずなのだ。
「(惜しい、本当に実に惜しい)」
自分と同じ、四大力を扱えるのに、今の彼女----雪ん子は【オーバーロード】の強力な力に、身体が耐えられないみたいである。
「……でも、前に"マスター"も言ってたよね?
『未熟なライバルを育てるために一緒に特訓する、"無駄な時間潰し"。それもまた、日野シティーミティーに望むことだよ』って」
それだったら、"マスター"の言葉に従うべきである、と日野シティーミティーは考えた。
----だからこそ、日野シティーミティーは行動に移る。
未熟なライバル、雪ん子を育てよう、と。
(※)【オーバーロード】
四大力の1つで、【オーラ】【マナ】【スピリット】【プラーナ】の4つの力を全て内包する力。神を通してではなく、自らの力によって四大力を引き出しているため、自分の感情や情念次第で使えるため、他の四大力よりも遥かに強く、なおかつ遥かに高次元の能力を使うことが出来る
使用条件は、世を怨み、神の加護や力を拒絶するほどの情念を得て、それをスキルとして取得すること
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