第109話 出でよ、妾だけの融合召喚獣(1)

『グォォォォォンッッ!!』


 シーヴィー自身が融合して生まれた、その巨大な海蛇龍が大きく口を開けると、そこから全てを融かす音波を放っていた。

 腕と足に取り付けられていたスピーカーからも同じように、全てを融かす音波が放たれていた。


 海蛇龍は俺達のことを見れていないのか、身体中から放たれた音波は俺達を狙った訳ではなく、ダンジョンのあちこちに放たれていた。

 ただ威力が半端じゃなく、このままではダンジョン自体を崩壊させて、外に出て行ってしまうかもしれない。


「そうなると、普通にヤバイよな……」


 既にダンジョンの天井を突き破り、なんか外の青空が見えているのだ。

 このまま外に出られると、未曽有の大災害になる事は間違いないだろう。

 そうなると、世界がどうなることやら……。


 俺は別に正義感が強い人間ではないが、流石に自分が怒らせた相手が世界を滅ぼすかもしれないとなると、若干罪悪感かなにかで胃が穴に開いちゃうタイプだ。

 とりあえず、この巨大龍をどうにかせねば……。


「(さっき、【融合召喚】する際に、シーヴィーはダンジョンの魔力も取り込んでいたよな?

 だったら、もしかしてダンジョンコアがあるかもしれない)」


 ファイントの能力で、俺はダンジョンコアを何度も破壊して、ダンジョンを崩壊させている。

 ダンジョンの魔力を取り込んだのならば、ダンジョンとしての性質----ダンジョンコアも発現させているかもしれない。


「よし、じゃあファイントを----」

「ちょっと、待つのじゃ! 主殿!」


 雪ん子と共に《死亡保険》赤鬼を倒しに行ったファイントを呼び戻そうかと思っていると、急にガシッとココアに頭を掴まれていた。

 そしてグルっと、頭を後ろへと回されたため、首の骨がゴキっと嫌な音がしていた。


「~~~っ!!」

「主殿、実は頼みたいことがあるのじゃよ!!」


 と、ココアは黒い龍の卵----エルダードラゴンエッグ・アルターを指差していた。


「あぁ、そいつか……ファイントの力によって生まれた、もう1匹のエルダードラゴンエッグだ。

 けっこう意思疎通らしき物もしっかり出来るんだけど、あまり体力はなさそうでな」


 と、俺はエルダードラゴンエッグ・アルターを指差していた。

 「大丈夫か?」と聞くと、エルダードラゴンエッグ・アルターは分かりやすく頷いていたが、同時に息をぜぇぜぇ切らすかのように揺れていた。

 明らかに、疲れているみたいだった----。


 卵なのに意思疎通できるのって、こういう感覚なんだな……。

 ココアに言われた時は分からなかったのだが、龍の卵であろうとも、意思ってちゃーんと疎通できるんだなぁ、っと。


「あぁ、こっちは意思疎通できる・・・タイプなのじゃな……」

「ん……? できる?」

「いっ、いや?! 別に関係ないのじゃが! ----そっ、それよりも、聞いて欲しい事があるんじゃよ」


 ココアはエルダードラゴンエッグ・アルターを、そして俺を見る。


「前回、【融合召喚】してもらった時に、妾は神様から直接、知恵を授かったのじゃよ。

 主殿、もう一度、【融合召喚】を行うのじゃ」

「【融合召喚】を?!」


 でも、あれは時間制限つきで、終わったら溶けてしまう欠陥品で……。

 それに、俺よりも、アレがトラウマになってるのは、ココアのはずで----。


「……今度は失敗せんと、確信しておる」


 しかしながら、ココアは真剣な眼差しで、こちらを見つめていた。


「リョクチャの敵討ちじゃ。ファイントと雪ん子が居た方が楽なのは確かじゃろうが、アイツは、シーヴィーは妾が倒したいのじゃよ。

 あの巨大龍を、妾とそこのエルダードラゴンエッグと共に、活躍させてくれんかのう? 主殿?」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ココアの必死の説得に応じて、俺は【融合召喚】を行う事にした。

 あいつがあれだけやりたいと懇願してるのだ、神様の知恵とやらにも期待してるぜ。


 まずは、両脇に召喚獣をセット。


「出でよ、【スレイブバット】」


 俺が召喚したのは、前回の【融合召喚】に使ったのとは違う、別の召喚獣----スレイブバット。

 ココアをドロップする事となった《風雲! ドラキュラブホ城!》で襲ってきた、催淫効果を持つレベルⅡの召喚獣である。



 ===== ===== =====

 【スレイブバット】 レベル;Ⅱ

 吸血鬼に従属の力を授かり、強大な力を与えられた蝙蝠型の魔物。口から超音波を放つことができ、超音波には主人に従わせる催淫効果を持っている

 ===== ===== =====



 そうやって召喚したスレイブバットを、《スピリット》の力で赤いスライムの形態へと変質させる。

 そして次は、エルダードラゴンエッグ・アルターの番である。



 ===== ===== =====

 【エルダードラゴンエッグ・アルター】 レベル;Ⅳ

 ドラゴンの中でも、長命種と呼ばれる超上位種の、ドラゴンの卵型の召喚獣。卵の中身はまだなんのドラゴンになるか定まっておらず、その身体は硬いドラゴンの卵の殻に覆われている

 条件を満たすまでは卵のままであり、長い時間を卵のまま生き残るために、別次元へと隠れ住む力と、普通のドラゴンと同等の力を手にしている

 ===== ===== =====



 ファイントの強制ドロップ効果によってドロップさせた、エルダードラゴンエッグの別次元の存在。

 黒い卵のエルダードラゴンエッグ・アルターを、《スピリット》の力によって、青いスライムの形態へと変質させていた。


「(ここまでは使っている召喚獣こそ違うが、やり方は全部一緒だ)」


 ココアからの指示は、もう1体の召喚獣をギルタブリル・ジンバーロックではなく、スレイブバットに変えるという事だけ。

 それ以外は、特に変更点はないのだ。


「(まさか、これが神様からの知恵、なのか? 別の召喚獣に変えたからって、あの副作用が消えるとはまるっきり思えないのだが----)」

「主殿、止まっておるぞ?」


 しかしながら、ココアは真剣な表情そのものだ。

 これで良い……のだろう。


「(えぇい、もうどうなっても知らないからなっ!)」


 そう言って、俺は2色のスライム状に変質させた召喚獣を合体させる。

 赤いスライムへと変質させた、スレイブバット。

 青いスライムへと変質させた、エルダードラゴンエッグ・アルター。


 2つのスライムが混ざり合い、紫色のスライム状の召喚獣が生まれるのであった----!!

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