第85話 旭川のボタン工場(1)

 釧路の謎の超巨大ビルに向かった3つの部隊が、無事にビルまで辿り着けたらしい。

 それを聞いたのは、もう1つの重要拠点らしき建物、旭川の超巨大ビル型工場に向かっているヘリの中であった。


 話によると、精鋭達が乗っている第一陣、【魔法使い】を始めとする魔法特化な第四陣、それから【回復術師】などの回復担当が集まった第五陣。

 その3つの部隊が、無事に釧路の超巨大ビルに辿り着けた、との事だそうだ。


 途中、ダブルエムなる敵の1人が、ヘリを飲み込むほどの巨大な絵画で攻撃しようとしたんだそうだが、第一陣のヘリに乗っていたマイマインによる攻撃で、無事に倒したんだそうだ。

 なんでも、相手の姿さえ見る事が出来るならば、あらゆる次元を超えて対象を斬る【次元斬・六式改】によって倒せたんだそうだ。


 なにそれ、どんなチート……?

 やっぱり、元勇者系MyTuberとして動画を撮るような人は、凄い能力を持ってるんだな……。



「で、ご主人はなんでヘリから下りて、旭川の巨大ビル工場に向かってるんです?」

「《ぴぴっ?》」


 そして俺は今、いつもの召喚獣の皆と共に、旭川の巨大ビル工場に向かっていた。

 ……歩いて。


 幸いなことに、目的地の巨大ビル工場とは、そんなに離れておらず。

 【世界球体=幽霊船世界=】によって変質されたおかげか、地面は雪まみれではなく、ちょっぴり古めの木造板になっている。

 寒さもそれほどきつい感じでもないし、これなら普通に活動できる。


「《ヘリは? ぴぴっ?》」

「それは、落とされてしまったからな。アレ・・のせいで」


 と、俺は奥の方で、大量の冒険者が相手している巨大蛇を指差す。


「グォォォォォ……!!」


 その巨大蛇は8つの首を器用に動かして、水のレーザービーム攻撃を放って攻撃していた。

 ゲームなどで良く見られ、そして動画でも小さな姿として見られたあのヤマタノオロチは、"ボタンの目玉・・・・・・"で俺と共にヘリに乗ってきていた冒険者達に攻撃していた。



 ===== ===== =====

 【《ボタン瞳の》ヤマタノオロチ】 レベル;Ⅳ

 8つの首と尾を持つ、巨大な蛇の召喚獣。人を喰らう伝承の中で酒に酔う伝承があるため、状態異常にかかりやすい欠点を持つ

 洪水の化身であり、8つの首から大量の水を浴びせ、人々を苦しめたとされる

 シーヴィーの能力のせいか、ボタンとなった目玉で攻撃している

 ===== ===== =====



 ----そう、俺達もヘリに乗った時に、襲撃を受けたのである。

 それも、目玉をボタンに変えられたヤマタノオロチが襲い掛かって来たのだ。


 マイマインのような超強力アタッカーがいない俺達の部隊は、ヤマタノオロチの水のレーザー攻撃によって、呆気なくヘリという足を失った。


 そしてレベルⅢで、しかも世間一般でははずれ職業として扱われてる【召喚士】である俺は、戦いに参加するのではなく、「目的地目指して進軍せよ」と言われて、旭川の工場に向かっているのだ。


「----まぁ、俺が止める間もなく、ココアが行ってたけどな」


 と、仲良く雪ん子とファイントと共に、工場へ向かう俺達とは対照的に。

 妹扱いしているエルダードラゴンエッグを背負って、ココアは敵を倒していた。


「喰らいなさい、《雷よ! 雷鳴と共に塵すら残すな! サンダーバニッシュ!》」


 と、ココアは遠く離れた俺達の場所からでも、轟音として聞こえるくらい大きな落雷攻撃を、相手へとぶつけていた。


「「「ングワーーーッ!!」」」


 攻撃を受けた、スランプバット達はそのまま静かに地面へと落ちて行った。



 ===== ===== =====

 【《ボタン瞳の》スランプバット】 レベル;Ⅱ

 闇の神に堕落の力を授かり、強大な力を与えられた蝙蝠型の魔物。口から超音波を放つことができ、超音波には肉体を腐らせ、アンデッドとして蘇らせる感染能力を持つ

 シーヴィーの能力のせいか、ボタンとなった目玉で攻撃している

 ===== ===== =====



 俺達の前に現れたのは、スランプバットという、簡単に言えば不死者ゾンビにしてくる攻撃をしてくる奴らだ。

 ゾンビになると敵味方つかずに襲い掛かり、噛みつき(スランプバット達は超音波だが)などによって、さらにゾンビとなる者を増やす力を持っている。

 清められた水、もしくは聖水の力によって、ゾンビ化は治るから、対処さえしっかりしていれば、そこまで怖くない能力なのは幸いである。


 ちなみに、"清められた水"という定義なため、上下水道によって管理された水道水でも、代用可能である。

 ファンタジーでおなじみの聖水と、蛇口を捻ったら出てくる水道水が同じ効果なのは、若干納得いかないが……。


「にしても、飛ばすな。ココア」

「《焦って、るぅ?》」

「だろうな。なにせ、ボタンの目玉に、シーヴィーと来たものだ」


 シーヴィーとは、この間のダンジョン----ファイントを助ける際に行った《サリエリのアジト》というダンジョンで、ココアが出会った冒険者のことである。

 そして、ココアをあの姿、黒いマントと禍々しい手袋を付けさせた、《悪の手先》という称号を付けさせた相手。


 ココアにとっては因縁の相手、だからな。

 まさか、俺達が向かう工場の方に、出てくるとは思っても見なかったが。


 ココアは焦っている、確実に。

 いつもだったら、俺達と共にダンジョンを攻略する彼女が、俺達を放って先へ先へ行くだなんて、いつもの彼女を知ってたら信じられない光景だ。

 

「(----まぁ、トラウマな相手だからな)」


 今回は雪ん子達ではなく、ココアを見ておく方が良いだろう。

 ココアの暴走を止める、それが【召喚士】である俺の役目だ。


「……で、ファイント。どうだ、コアは見つかったか?」

「うーん……ダメです☆ いつものように、ダンジョンコアを消滅させての、ダンジョン強制終了プレイは使えそうにありません♪」

「ダメだったか……」


 今、俺はファイントに頼んで、ダンジョンコアを探って貰っていた。

 ファイントには、ダンジョンコアを消滅させ、ダンジョン強制終了させるという能力がある。

 それを使えば、工場に行かずとも、また釧路の方に行った3つの部隊にも、楽させることが出来ると思ったのだが----そう簡単に話はつかないらしい。


「まぁ、出来るとしたら、ボス魔物のドロップアイテムを調整する事くらい、ですかね☆ ドロップアイテムを1つから2つにしたりぃ~、ご希望のドロップアイテムになるよう弄ったりとか♪」

「使い所があったら、ぜひ頼むよ」


 さて、そろそろココアとの距離もヤバイ。

 これ以上離れてしまうと、完全に見失ってしまうだろう。


 眼前にはさらに敵さんの追加がやって来ていた。

 アレは俺が以前召喚したコウテイスズメバチ……によく似た、アンデッド型の【シノクニスズメバチ】という奴じゃなかろうか。



 ===== ===== =====

 【《ボタン瞳の》シノクニスズメバチ】(軍団レギオン)  レベル;Ⅲ

 とある死の国の固有種である、巨大且つ狂暴なスズメバチの召喚獣。人間を乗せるほど大きな巨体を持ち、高度に組織された軍隊能力を持ち、その軍隊能力で亡霊の集団をも壊滅に貶める事が出来る。別名、シニガミバチとも呼ばれる

 「鋼のよう」と評される外骨格は他の生物どころか人間が作り出した武器すら生半可なものは受け付けず、騎士や侍の甲冑すら容易に貫く毒針からは「毒のカクテル」と評される、多種多様な毒物が混じった毒液を体内に注入して死に至らしめ、そのまま自らの子の餌として永遠に使われる

 シーヴィーの能力のせいか、ボタンとなった目玉で攻撃している

 ===== ===== =====



 ココアに向かってきているのは、ボタンの目玉の巨大蜂型召喚獣、その集団だ。

 俺が乗っていたコウテイスズメバチよりも戦闘力は低いが、その代わり、毒などの力はコウテイスズメバチ以上だ。


 ココアも善戦しているようだが、助けに行かなければならないほどの強さの巨大蜂型召喚獣達。

 俺達もすぐ参戦した方が、良いだろう。


「(それと、本体であるシーヴィーにも文句を言わなければな)」


 ココアは怒っているようだが、実は俺も、間接的にだがシーヴィーには言いたいことがある。


 良くもうちの、ココアを殺してくれたな、おい。

 前回は居なかったが、こっちには進化した雪ん子、それにレベルアップしたファイントと、俺達の主力メンバーが揃い踏みだ。


「なんだか知らんが、"最強の召喚士"とか言っているらしいじゃないか」


 別に、最強という称号が欲しい訳ではない。

 だが、この世界で、恐らくただ1人だけ、召喚獣をレベルアップさせることが出来る【召喚士】の俺こと冴島渉と勝負してから、その称号を名乗って欲しいモノだ。


「行くぞ、2人とも。シーヴィーを倒しに」


「《ぴぴっ!! 分かった~!!》」

「はいは~い♪ ご主人のため、ココアちゃんのため、わたくし頑張っちゃうよ~!!」



 俺達は急ぎ、先を進むココアに追いつこうと、足早に進むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る