第82話 『ベンチャーちゃん』大忙し!!
命題とは、冒険者に与えられた加護の総称だ。
神々は自らが楽しむように、長所と共に短所も冒険者に与えるのだ。
ある冒険者には、"大量の魔力"という長所と、"人間と共に冒険してはいけない"という短所を。
ある冒険者には、"二回攻撃"という長所と、"大剣しか装備できない"という短所を。
ある冒険者には、"召喚獣の戦力が上がる"という長所と、"魔力を暴走させる"という短所を。
過度に干渉すると、物語が途端につまらなくなる。
だからこそ自分達が楽しむために、長所と短所を与えた後は、そのまま放置するのが通例だ。
----しかし、そうはならない事態が起きた。
世界を、自分達を小さな球体に閉じ込めてしまう、冒険者の存在。
傍観者たる自分達を害する存在、ただ楽しむ観覧者を殺す存在。
だから、彼女を殺そう。
神々はそう思い、命題に一文を追加した。
『佐鳥愛理を殺せ』という一文を。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神様から命題という形で、『佐鳥愛理を殺せ』なる命題が出て、数日。
冒険者支援系MyTuberのマイマインは、他のMyTuber達と共に、同じような動画をあげた。
細部は違う所はあるが、動画内容はだいたい、同じことを語っていた。
----以下、冒険者支援系MyTuberのマイマインの動画『佐鳥愛理を殺すために必要な事』より。
「皆さん、おはこんばんにちは!! お待たせしました、冒険者支援系MyTuber、元勇者のマイマインですっ!!
動画をご覧の冒険者の皆様、あなたの命題の中に変な一文が出て来ませんでしたか?
具体的には、『佐鳥愛理を殺せ』なる物騒な命題が?
佐鳥愛理は、この私と同じくらい強い、主に召喚術で戦う冒険者です。
同じレベルなら【召喚士】は身体能力が高くないのでさほど強敵ではありませんが、多くの冒険者にとって、多種多様な召喚獣を用いて戦うかの悪女は、強敵です。
かの悪女は、ただいま、北海道を【世界球体=
本日は、そんな悪女と戦うためのアイテムとして、優れた効果を持つアイテムを紹介しましょう!!
それがこの、【ゴブリンのお守り】です。
これはゴブリン系統がボス魔物たるダンジョンで、1万を越えるゴブリンを率いる者を倒した時に、出てくる素材アイテム、【ゴブリンのリビングメタル】を加工することで出来る、特殊アイテムです。
ゴブリンは召喚獣、もしくは彼らに似たぬいぐるみや木彫りなんかでも、率いた判定が出ますので、最悪、【召喚士】、もしくは生産職の人達にアイテムを作ってもらう事で、例えFランクダンジョンからでも、取得することが出来るアイテムです。
この【ゴブリンのお守り】の効果は、即死防御。
お守り1つにつき、相手の即死攻撃、もしくは一撃で体力がゼロになってしまうような攻撃を、一度だけゼロにすることが出来ます。
残念ながら、効果を使用するのと同時にお守りは消滅しますが、重ねがけすることも可能なので、お守りを集めた分だけ、有利に戦えるのは間違いないでしょう。
そして----なんと、こちらはとある生産職企業にお願いした【ゴブリンのお守り】なんですが、なんと【ゴブリンのお守り・改】という物に進化!!
さらには、お守り1つにつき、なんと2回まで先程の効果を使うことが出来るようになっているのです!!
皆さんも是非、近くの人はこの【ゴブリンのお守り・改】を作られた企業に行くことを、お勧めいたします!!
企業名はこちら、『ユリウス錦織』なる雑居ビル2階にてお待ちしております、その名も"アイテム制作ベンチャー企業"さんです!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……いや、本当に迷惑なんですよ、『ボク』」
いつぞやのベンチャー企業さんに足を運ぶと、そこに居たのはぐったりした顔で、目に隈が出来るくらい疲れ果てている、花弁千夜葉。
そう、『ベンチャーちゃん』の姿であった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫、ではないですね。すっごい迷惑してます」
「はぁ~」と、溜め息交じりで『ベンチャーちゃん』はそう言う。
「知らない冒険者さんから素材なしでアポなしで来られるわ、国のお偉いさんなる方が国家的な事件として堅苦しい書類を持ってこられるわ。
……正直な所、『ボク』は参ってます。嬉しい悲鳴、ではありますが」
「……すまん」
と、俺が『ゴブリンのお守り』用のリビングメタルを見せると、一瞬嫌そうな顔を見せた。
しかしながら、すぐさま分かりやすいくらいの作り笑顔に戻すと、俺から素材を受け取るのであった。
「まぁ、あの動画、『ボク』に一切断りなしに作ってるんですよ。そういう人なのか、あるいはそれくらい切羽詰まっているのかまでは『ボク』には分かりませんが。
----国の垣根を越えて、手と手を取り合って、指名手配犯として冒険者を倒そうとしてるんですから、出来る限り、協力したいという気持ちはありますが」
そう、今、日本を始めとする30を越える国々が、手と手を取り合って、佐鳥愛理を殺そうとしているらしい。
かの冒険者の職業、同行しているパーティーメンバーの名前と職業、今まで攻略したダンジョンの情報。
北海道を拠点として、テロ行為をしているというのも、冒険者支援を主としている市役所からの情報である。
……まあ、神様からの直々のご命令だなんて、宗教界隈の関係者さんからして見れば、ヨダレたらたらな、恋い焦がれた越権行為ですからな。
そう思っちゃうのも、分からなくもないか。
「で、『冴島さん』。あなたも、その依頼に応えるつもりですか? "佐鳥愛理を殺す"などという、神様からの依頼に」
「えぇ……まぁ」
というか、この命題が出た人は、強制的に強行軍に入れられたと言うか。
「【召喚士】である俺は第三陣に入れられました」
今、佐鳥愛理は北海道を幽霊船に----いや、ほんと、なにを言ってるのかマジで分からんのだが、ともかく北海道を宙に浮かばせて、テロ行為を行っている。
今は、ハワイ上空辺りをゆっくり飛行中という事だが、部隊を5つに分けて、軍事ヘリに乗って、2週間後に特攻するという作戦でいるらしい。
第一陣がマイマインを始めとする主戦力部隊で、メインデッキから潜入。
その他大勢である第二陣から第五陣は、主戦力部隊が活躍するよう、手助けという構成だ。
「----まぁ、第一陣の皆様が、活躍できるお手伝い、という感じでしょうか」
「なるほどねぇ、しっかしソロで活躍する人も多いのに、軍は何を考えてんだか……」
ちなみに、第三陣は、そう言ったソロで活躍する冒険者を中心として、作戦名『現地までは送るから、後は適当に』作戦を決行する予定なのだが。
そうして俺は、『ベンチャーちゃん』と楽しく会話に花咲かせ(実を言うと、作業自体はスピーディーに終わるのだが、精神的に参っていて、話し相手が欲しかったらしい)。
無事、『ゴブリンのお守り・改』を手に入れる事が出来たのだった。
後は2週間後の作戦に備えて----っと、まだ解決しなければならない問題があった。
そう、俺の自宅前から現れ、今もなお、俺の後ろをついてくる、【エルダードラゴンエッグ】なる召喚獣の問題が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます