第67話 敵(ファイント)と共に去りぬ

「----さぁ、どう出る? 牛鬼、やっちまえ」


 佐鳥愛理が命令すると、4体の牛鬼達が行動に移す。

 彼らは大口を開け、口の中に大きな氷柱を生み出していた。


「(牛鬼はあんな蜘蛛の身体と牛の頭っていう不気味な見た目ながら、水神の化身っていう伝承があるからね。水属性の一種である氷属性の氷柱を作るくらい、訳ないさ。

 それに"牛"は水神の化身であると同時に、力の象徴でもある。レベルⅡ程度の召喚士がどこまでやれるか、楽しみですね)」


 果たして、この4体の牛鬼に、どういう召喚獣にて対処するのか、佐鳥愛理は相手の、冴島渉の行動を待っていた。



「----来いっ、牛鬼!!」


 

 彼が召喚したのは、牛鬼。

 それも、佐鳥愛理が召喚したのとまったく同じ種類の、牛鬼であった。


 ただ、佐鳥愛理よりも8体と、数は多かったが。


「(レベルⅢの召喚獣を召喚することは出来るだろうが、制御できないだろうに、なんで牛鬼を?

 しかも、わたくしが召喚した倍の数を?)」



「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」

「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」


 冴島渉が召喚した牛鬼達は、実に苦しそうだった。

 そりゃあ、そもそもファミレスは、3mを越える大型化け物の出入りだなんてのは、想定していない。

 佐鳥愛理が4体召喚した時だって、かなり無理をしてようやくである。


 一気にその倍の数の8体を召喚されたことによって、ファミレスは牛鬼達によって、足の踏み場もないような状況であった。


「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」

「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」

「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」


 合計で、12体もの牛鬼は、互いを攻撃を始めた。

 なんというか、邪魔だから攻撃をするというような、そういう状況だろう。


「(なるほど、お互いがお互いを邪魔だと思わせるのが目的だから、制御する必要がない。

 そこで、牛鬼をあんなに無意味に召喚したと言う訳ですか)」


 冴島渉の戦法を、佐鳥愛理は感心していた。

 制御できない自分より高レベルの召喚獣を使って、同士討ちさせて----


「----逃げるために、全力を尽くすだなんてね」



 今、まさにファミレスの入り口----この仮想ダンジョンから逃げ出そうとしているのを見ていた。



「おやおや、あれは……?」


 佐鳥愛理は、逃げ出そうとしている彼の肩を支える召喚獣の姿を見ていた。

 黒い翼を持つ、燃えるような赤い髪を持つ少女の召喚獣だ。



 ===== ===== =====

 【ファイント】 レベル;Ⅰ(本来のレベルより低い状態で召喚されております)

 "敵"を意味するクラスの者で、真名は不明。攻撃対象への好感度が低ければ低いほど、戦闘能力が上昇する

 その者は悪を憎む立場でありながら、悪に美しさを感じていた。生まれ故郷や仲間を裏切り、自身の欲望のために行動している

 ===== ===== =====



 その召喚獣は、異世界帰りの佐鳥愛理でも初めて見る召喚獣だった。

 しかしながら、佐鳥愛理が驚いたのは、そこじゃなかった。


「【マルチアーム】! 逃げますよ、ご主人!」


 佐鳥愛理の【鑑定】は、その召喚獣が【青魔導士】である事も分かっていた。

 【青魔導士】は相手の魔法やスキルをコピーして、自身も使えるようにするという職業ジョブ

 正直に言えば、常に初期化フォーマットされてしまう召喚獣とは、もっとも縁遠い職業ジョブと言えよう。


「(しかしながら今、【マルチアーム】を使わなかったか?)」


 そのことが、佐鳥愛理は興味がわいた。


「もしや、彼こそが----」


「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」

「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」

「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」「ブォォォォン!」


「あぁ----もう、邪魔だな・・・・


 佐鳥愛理はそう呟くと、押し潰した。


 12体の牛鬼を、たった一撃で、一瞬で。

 佐鳥愛理は、手にした武器で殺していた。



 そして、そのまま、ファイントをかっさらっていた。


「うぇっ?!」


 ファイントを物凄い速度で走って奪い取った佐鳥愛理は、そのまま入り口を通って、仮想ダンジョンの外へと出て行った。



「ファイントっ!!」


 慌てて外へ出てきた彼に、佐鳥愛理はこう告げる。



ファイントは預からせてもらう事にするよ、わたくしは彼女に興味がある。

 返して欲しければ、わたくしの場所を見つけ出してみたまえ」

「ごっ、ご主人!! わたしなら、大丈夫だから!」


 ----ああ、こいつ、ちょっとうるさいですね。


 佐鳥愛理はそう言って、ファイントの首根っこになんらかのアイテムを取り付ける。

 すると、ファイントの声が聞こえなくなり、動けなくなっていた。


 どうやら、相手の声を聞こえなくして、行動させなくするアイテムみたいである。


「わたくしは仮想ダンジョンを作るだけでなく、ドロップアイテムもある程度は操れるんですよ?

 だから、あなたに依頼クエストを発行しましょう」


 そう言って、彼女は冴島渉に1枚の書類を投げつける。

 投げつけられた書類は、冴島渉の目の前で止まって、彼はその書類を手にする。



 ===== ===== =====

 ランク? 【???】からの 指名依頼


 ファイントを 取り返すために わたくしの 居場所まで 来てみろ

 わたくしの 秘密のアジトの場所は 特殊アイテム 【サリエリの秘密書類】にて 判明する


 【サリエリの秘密書類】は 【ランクⅡ 召喚士ダンジョン大会】の 決勝戦の ドロップアイテムである


 ランク? 【???】 佐鳥 愛理

 ===== ===== =====



「----さぁ、あなたはこのファイントを助け出せますかねぇ?」


 挑戦的な口調で、そう告げて。

 ファイントを連れ、佐鳥愛理はにやけ顔と共に姿を消すのであった。

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