第43話 目当てのアイテムを求めて


「実は仲間の候補については、私の方から提案したいのがありまして! いささか準備はいるでしょうけれども、まぁ、知識の方は仕入れたんで、後はこのファイントにお任せくださいな!

 ご主人の期待に応える、私の快適なる召喚獣ライフのために、しっかりとやらせていただきますので!」


 「では、またダンジョンで」と、ファイントはそう言って召喚陣の中に消えていった。

 彼女が飲み干した牛乳パックだけが、この部屋に先程まで彼女が居たことを証明する、唯一の物として置かれていた。


「……なんだったんだよ、いったい」


 ファイントが消えて、俺はようやく一呼吸ついた。

 この間、ダンジョンの外であろうと、平気で殺してくるという幽鬼タケシ・ハザマを倒したくらいだ。

 それなのに、同じようなことを自分の召喚獣でやられるなんて、想いもしなかった。


「やばすぎるだろう、【青魔導を識る者】」


 服の召喚陣が書かれたところを切り抜いて、それをずたずたに引き裂き、ゴミ箱へ入れる。

 そこまでしてやっと、俺はもう大丈夫だと安心できた。


「(あの服だけが召喚陣だとは思わないけど)」


 実はあの服の召喚陣はフェイクで、俺がダンジョンに持っていた別の物に召喚陣を書いて、そこからこの家に入ったという可能性もある。

 他にも召喚陣が入ってる奴があるかもしれないが、今はどうだって良い。


 問題は、彼女が言っていた、"準備"。

 いったい、何を準備しようと言うのだろうか?

 というか、何が出来るんだろうか?


「これは一度、ファイントに聞いてみるしかないな」


 今度は勿論、ダンジョンで、だが。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ファイントが家にいきなり突撃訪問して来てから、早1週間。

 あれからファイントが家に出る事はなく、平和な時間を過ごせた。


 赤坂先輩に教えてもらえた素材アイテムを取りに、俺は2つのダンジョンを攻略した。


 1つ目は、Eランクダンジョン【聖戦跡地】。

 ここはほとんど墓地のようなダンジョンで、ボロボロの武装で攻撃してくるスケルトンと、中身を探して歩き回るリビングアーマーなどが出てくるダンジョンだった。

 目的の【折られた勇者の聖剣】は、ダンジョンのボス魔物ではなく、その前に現れる徘徊する強敵クラスのドロップ品だったため、4本くらいは集める事が出来ている。


 2つ目は、Fランクダンジョン【ゲッショクシティー】。

 常に月の光が差し込む夜闇が美しい江戸時代の街並みのダンジョンで、背後からこそこそ攻撃してくる忍者のような魔物と、世界観ぶち壊しの巡回警備ロボットが出てくる、ちょっぴり変わったダンジョンだった。

 目的の【燃え残った暗殺指南書】は、裏路地にあるショップで売られているとのことだったが、見つける前にボスへ直行してしまって、代わりに別のアイテムを入手した。



 ===== ===== =====

 【伝えれなかった裏武芸指南書】

 歴史の影に消えていった、武芸の指南書。読み込むことで、伝説の裏流派の武芸の技の1つをランダムに手に入れる事が出来る消費アイテム

 技が消えていったのには訳があり、この武芸の習得は多大な時間と、確かな才能が必要となる

 ===== ===== =====



 残念ながら、これを使っても手に入るのは、オーラ系統の武芸だったため、今の俺には必要なかった。

 そのため、冒険者部に「要るか?」みたいな体で渡したところ、代わりに【お地蔵様の剣】なる剣と交換してもらった。

 相手に攻撃が当たると、体力が1だけ回復する石の剣で、今は雪ん子の装備となっていた。


 ちなみにだが、【伝えれなかった裏武芸指南書】で手に入ったのは、《死んだふり・覚醒編》なるものだったそうだ。

 "仮死状態だと思わせるくらい真に入った死に方をして、絆を結んだ仲間が仲間の死によって覚醒し、全ての攻撃が10秒間クリティカルになる"みたいなスキルだそうだ。


 俺は残念ながら、仲間の死に関してそこまで熱くなれないというか、どことなく自分には無理そうなスキルなので、やはり交換に出して良かったのだろう。


 そして、ファイントの方は、未だに不気味に沈黙を守っている。

 時折話しかけたりして、どうしようか聞こうとしても、のらりくらりとはぐらかされる。

 たまに、雪ん子からヤンデレめいた視線のまま、剣を向けられたりと、困ったものだ。


「(雪ん子からは、嫌われてると思ってたのに)」


 悪意が積もりに積もって、ルトナウムによって変異した俺の召喚獣、雪ん子。

 彼女には手を斬られるということもされたが、【優しい木こりの鞭】によって調教して、レベルⅡになってからはすっかり従順になった。

 そんな斬られる経緯があったから、俺はてっきり従順に見えるだけで、嫌われてると、召喚獣相手に思ってしまったのだが、どうやら違うらしい。


 なんというか、嬉しそうと言うか、楽しそうと言うか。

 悪意に満ちた変異なのに、今ではルンルン気分でスキップ踏みながら、ダンジョン探索をしてくれる。

 ただ、テレビとかで良く見るヤンデレみたいな、めちゃくちゃ怖い感じの恍惚めいた表情を浮かばせてるところがあるから怖いんだよな。


 やはり【優しい木こりの鞭】が効いたのだろうか?

 それとも、召喚獣には【召喚士】を無条件で好きになる効果が働いているとか?


 もしくは、悪意に満ちて暴走していた所を、俺が【優しい木こりの鞭】で、悪意を抑えた。

 その時に感じたドキドキ感を好意と勘違いした、吊り橋効果的な話なのだろうか?


 まぁ、どうでも良い雑談だが。



 ともあれ、従順に接しながらも時折剣で刺そうとする、危ない雪ん子。

 そして、のらりくらりとしながら、冒険を楽しんでいるファイント。


 そんな2体の召喚獣と共に、俺は今----!!



 雪山に、来ています。



 何故、こんなところに居るのか。

 それは数日前、【伝えれなかった裏武芸指南書】を冒険者部に持って行ったところまで遡る。

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