第39話 "先輩"(2)

 【ランクⅠ 召喚士ダンジョン大会】の3回戦の相手として登場した"岡本・S・太郎"。

 ヤツの戦術は、素晴らしいの一言につきた。


 俺の戦い方は、はっきり言ってゴリ押しだ。

 【召喚 レベルアップ可能】というレアスキルを手に入れたからこそできる、レベルというものでゴリッゴリに強化しての、反則的チート戦術だ。


 一方で、岡本・S・太郎のは、自分が出来ることをきちんと考えたうえで作られた戦略。

 ばくだんいわをカモフラージュにした、蜃からの瘴気ミアズマによって体力を奪うという戦術。

 それが上手く行かない場合は、霧をばくだんいわに纏わせることで、【幻影の騎士ミラージュ・ナイト】として戦わせる。


 たった2種類の召喚獣だけで、あれだけ素晴らしい戦術を披露してくれたのだ。

 俺は彼を、岡本・S・太郎のことを尊敬していると言っても良い。

 

 だからこそ、俺は知りたいのだ。



「赤坂先輩は、レベルⅠの時、【赤魔導士】ではなく、【召喚士】だったんですか?

 その時、なんで"岡本・S・太郎"という名前を名乗ってたのか、聞かせて欲しいんです」



 そんな尊敬してる【召喚士】さんが、なんで今は【赤魔導士】となっているのかを。




「……まず質問に答える前に、あなたからの注文の方を渡しておきますね」


 赤坂先輩はそう言って、俺に1枚の紙を渡してきた。



 ===== ===== =====

 ・【折られた勇者の聖剣】

 ドロップ場所;Eランクダンジョン【聖戦跡地】

 激しい戦いで壊れてしまった、勇者の聖剣の破片。長い間、打ち捨てられていたが未だに微量の聖属性の波動を有している


 ・【燃え残った暗殺指南書】

 ドロップ場所;Fランクダンジョン【ゲッショクシティー】裏路地ショップ

 暗殺者が師匠から渡された、本来は塵一つ残してはいけないはずの指南書。暗殺者のノウハウが書かれており、焼け残った一部でも立派な指南書である


 ・【ありがたーい聖女の経典(偽)】

 ドロップ場所;Eランクダンジョン【語り継がれぬ幽霊船】

 本物の聖女が書き残したとされる経典を、別の人間が書き写しただけの偽物。偽物とは言え、内容自体は本物なので効果は本物


 ・【裏切り騎士の鎧】

 ドロップ場所;Dランクダンジョン【蛇毒騎士の巣穴】

 裏切り者と呼ばれた聖騎士の鎧。持ち主の聖騎士は常に清らかな心であったが、心無い噂や伝聞のせいで聖属性と邪属性が同居している

 ===== ===== =====



 どうやら先程頼んだ、欲しいアイテムの情報とやらを纏めてくれたらしい。

 実にありがたい、これは帰ったら精査して、次に挑むダンジョンを見極めないと。


「----でも、質問にも答えてもらえませんか?」


 明らかに話をそらされたので、俺は返答の催促を求めた。


「…………。」

「俺がなんで岡本・S・太郎が、赤坂先輩あなただと思っているのかと言えば、この間大会で岡本・S・太郎の幻影と戦ったからですよ」


 岡本・S・太郎との戦いは激しかった。

 特に蜃によって生み出された【幻影の騎士】はかなり強かったため、あの後俺は蜃から倒すように2人に頼んだのである。

 そして、蜃を倒すと、岡本・S・太郎の姿が、見覚えのある彼女の姿に変わったのである。


「蜃は、水蒸気によって瘴気を作る事。それから【幻影の騎士】なる超強力な戦力を生み出すこと。

 その2つとは別に、あなた自身の姿を偽る目的もあった。違いますか?」


 蜃の一番の特徴は、蜃気楼げんえいを生み出す貝の召喚獣であるという事。

 あの貝の召喚獣は、俺と戦っていたあの戦い中ずーっと、自分の上に乗る【召喚士】様の姿を、あの陽気に笑う彼の幻影を生み出し続けていたのだ。


「それに、この間、【女傑】のスキルを交換する際、あなたは俺にこう言っていた。

 『おすすめとしては、"私の経験上"、【召喚士】はマナ系統に分類されるので』って」


 あの時言っていた"私の経験"とやらは、冒険者部に【召喚士】がいて、それから知ったのだと思っていた。

 けれども本当は、文字通り、自分の経験則からの言葉だったのだ。


 "【召喚士】だった私の経験上、【召喚士】はマナ系統に分類されるので"、ってな。


「【召喚士】から、【赤魔導士】になった方法は別に良いんです」


 確かに、出来れば、どうやって職業を変えたのか。その方法は是非とも知りたい。

 けれども、それ以上に、どうして【召喚士】を辞めたのかは知りたいのだ。


 たった2種類の召喚獣で、あんなに凄い戦術が出来る。

 そんなカッコいい【召喚士】が辞めた理由を知りたいのだ。


 突然、アイドルが引退会見をしてファンを困惑させるみたいに。

 その引退の理由を知りたいのである。

 あの戦いに魅了された、ファンの1人として。



「……【召喚士】が、私には向いてないからだよ」



 と、俺がじーっと睨んでいたのに困惑したからか。

 あるいはただ単に根負けしたからなのかは分からない。


 だが、彼女は静々と、そう語り始めたのであった。


「【召喚士】をしていた頃の私の姿を見て、感動や尊敬の念を抱いてくれるのは嬉しい。

 けど、あの時の私は、私にとっては、思い出したくない過去なの……」

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