第35話 岡本・S・太郎(1)

「行くぜぇぇぇぇ!!! 大爆発エクスプロージョンだぜぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ----どっかぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんっっっ!!!


 いきなりの爆風に、俺は慌てて目を閉じていた。

 

 目を開けると、そこでは俺の召喚獣達と、岡本・S・太郎の戦いが繰り広げられていた。




 岡本・S・太郎がばくだんいわを放り投げると、彼の足元にある蜃がパカッと口を開けて、大量の水蒸気を吐き出す。

 大量の水蒸気は放り投げられていたばくだんいわを押し出し、そのまま雪ん子とファイントの前で爆発する。


「『無駄、デス!』」


 雪ん子は剣で床を切り上げ、それを自身の凍らせる能力で壁としていた。

 それによって、ばくだんいわの爆風から、爆破の衝撃から身を守っていた。


「そしてこちらは、お返しの【ハリケーン=ブレード】!」


 そして、爆破から身を守ってくれた壁の上へと立ったファイントは、そのまま青魔法を発動。

 プロペラを回して『竜巻を生み出す』スキルと、気絶効果を与えた武器で『相手を殴る』スキルを組み合わせて、『相手を殴る』『竜巻を生み出す』スキルとして、放った。


 それはまさに暴力の嵐であった。

 殴る拳の形のまま、竜巻はグルグルと回転しながら威力を上げつつ、岡本・S・太郎の方へと向かっていた。


「ばくだんいわ、Go!」


 彼は手元に残していた方のばくだんいわを爆破させると、その爆風で自分を吹き飛ばし、同時に暴力の嵐たるファイントの青魔法の威力も弱めていた。

 爆発をもろに食らっていると思うが、恐らくは蜃が大量に霧を吐き出す際の反作用で、ほとんどダメージにはなってないだろう。


「(2匹のばくだんいわを一方は攻撃用、もう一方は防御用にと振り分けているのか)」


 ばくだんいわは、爆発する岩の召喚獣。

 爆破は彼らにとっては呼吸のようなもので、【剣士】が剣を振って技を出すのと同じように、【魔法使い】が魔法を放つのと同じように。

 ばくだんいわにとって、爆発は、ただのスキルでしかなく、爆発では死なない。


 その爆発を攻撃と防御に分け、対戦しているのか。


「(上手い手だ、真似したくなるくらいの)」


 だが、それが通じるのは、相手が同じレベルの召喚獣しか使えない場合だろう。


「《まだマダぁ!》」

「え? 爆発しか能がないんですか? そーんなので、この私達の最強召喚獣タッグに、敵うとでも~?」


 俺の召喚獣は、ほとんどダメージを喰らってない様子だった。

 雪ん子はレベルⅡ、そしてファイントはレベルⅠとは言っても、聖霊型召喚獣なる特殊な召喚でしか出せないレア召喚獣。

 相手がただの召喚獣である限り、こちらの勝ちは目に見えていた。


「(----だが、こんなのがチャンピオンの戦術なのか?)」


 3回戦の相手として出てくるという事は、この戦術でランクⅠ召喚獣大会を突破しているという事。

 正直言って、この戦術で突破で来たとは思えない。

 俺のようにレベルが高い以外にも、例えば防御力だけが異常に高い召喚獣を1体置けば、コイツの戦術はまるで役に立たない。


 チャンピオンだから、なにか特別な構成で来るかと思えばただの爆発厨パーティーだし。

 蜃を出してきたときにはなにをするのかと思えば、やってる事は霧ではなく、水蒸気を出すホバーボードのように逃げ回るだけ。


 大人気のポ〇モンと同じく、レベルさえ十分上げとけば、ごり押しできるだけか。




「《ぐふっ……?》」


 しかしその油断は、雪ん子が吐血したことにより、崩れ去った。


「雪ん子?!」


「いやーぐふっ! 攻撃はぜんぜーんぐふぐふっ食らってないし、ド〇クエ風に言うなれば"こうげきが はずれた"か、もしくは"0 ぽいんとの だめーじを うけた"だと思うんですがぐぶっ!!!」


 と、雪ん子だけではなく、ファイントの方まで吐血しだした。

 しかもファイントの方が吐血量が多い、恐らくはレベル差的な問題だとは思うが。


「(こいつ、一体何をした?)」


 いや、何をしたかはもう分かってる。


 -----爆発だ。


 コイツがしているのは爆発するか、水蒸気の霧で逃げるかの2択くらいだ。

 それ以外にはアイテムを使っている様子もなく、蜃に幻の霧を出させたりと別の行動を起こしている様子もない。


 ただばくだんいわを爆発させまくり、蜃で逃げ惑っていると、俺の主戦力の2体の召喚獣がやられていた。

 それもダメージなんて喰らえないくらいの、レベル差という壁があるにも関わらず、だ。


「なるほど、この方法こそが岡本・S・太郎の戦い方って訳ね。確かに強力だわ」


 何をしているかはまだ見当も付かないが、それでも恐らくはこの戦術で岡本・S・太郎は優勝したのだろうと言うことは分かった。


「その戦術……俺も理論さえ分かれば、使いたいくらいだ。

 ----だから、見抜かせてもらおう」


「芸術は、大爆発! 大爆発こそ、芸術だぁぁぁぁぁ!!!

 【召喚士】とは、召喚で終わりじゃねぇ! 作戦こそ、戦術を生み出してこそ、対策が完了してこそ、召喚獣を輝かせてこそ、最高の芸術だぁぁぁぁ!!!」


 ……聞いちゃいねぇ。

 まぁ、相手は本人ではなく、ただダンジョンが作った幻影に過ぎない。

 戦い方や台詞は真似できても、本人じゃないからな。


 だが、"召喚で終わりじゃない"って言葉だけは、気に入った。


「【召喚士】は召喚したら終わりじゃないんだな。召喚獣がこういう状況の時、どうすれば良いかを考えるのが、もっとも重要な事だと理解したぜ」


 今まで俺は、そう思っていた。

 準備さえしっかりと出来ていれば、後は蓋を開けてどうなるかを確かめるだけ。

 召喚獣を強化魔法バフとかで強化できない、ただ召喚するだけの【召喚士】にはこれくらいしか出来ないと思っていた。


 だが違うようだ。


 本当は、【召喚士】とは、相手が意味不明な攻撃をした際に、どういう指示を出せば対処できるかを考えるのが、役割だ。

 俺はこの戦いで、岡本・S・太郎の意味不明な攻撃で、そう理解した。


「流石は、【召喚士】の先輩だ。勉強になるぜ」


 じゃあ、これからは俺のターンだ。


 岡本・S・太郎、お前がどうやって俺の召喚獣に攻撃したのか、解明させてもらおうじゃないか。

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