第23話 さすらいの幽鬼(3)

「----さぁ、蹂躙の時間だ」


 俺の指示と共に、大量のスケルトン達が3体しかいない敵スケルトンめがけて突っ込んでいく。

 彼らは【優しい木こりの鞭】の力によって、全員が俺の能力の一部を加味されている。


 ガチガチの戦闘職ではない、【召喚士】の俺の身体能力は、さほど高くないだろう。

 だがしかし、スケルトンとは、元々、《骸骨がなんらかの力によって動き出すようになった》という体の召喚獣であり、その身体は硬くないし、動きもさほど速い訳じゃない。

 そんなスケルトン達が多少なりとも、攻撃力や防御力、さらには素早さなどが上がるとどうなるだろうか。


 今のスケルトン達は、劣化版の強化服パワードスーツを着こんだような状態だ。

 より力強く、より素早く、我がスケルトン陣営の行動は素晴らしかった。

 相手のサイドキック・スケルトン達はそれぞれの得物を構えて対応するも、明らかに劣勢であった。


 短刀持ちの敵スケルトンは1体程度ならば倒せてるが、その後ろから来る10数体のスケルトン達相手は防ぎきれないみたいだ。

 同じ理由で弓持ちの敵スケルトンも、それから大楯と大剣の2つ持ちの敵スケルトンの方も、明らかにこちらの方が上手くいってる。


「(やられてるのは10体もないし、あまりに戦力を過剰に用意しすぎたか? まぁ、本命はコイツラじゃないから、良いか)」


 続いて、本命の幽鬼退治に戦力を回そうかと考えていると、スケルトン達の一団が吹っ飛ぶ。

 幽鬼の攻撃かと思っていると、吹っ飛んだスケルトンの中には凍った状態で吹っ飛んだのもいる。


「どうやら、幽鬼と雪ん子の戦いの余波で吹っ飛んでるみたいだな」


 2人の戦いはスケルトン達が多すぎたからか、全然見えないのだが、かなり激しいみたいである。


「よしっ! 他のスケルトン達も、2人の戦いに行って来い!」


 【優しい木こりの鞭】で叩いてそう命令すると、俺の指示と補助効果を受けたスケルトン軍団はそのまま雪ん子達との戦いに参戦していった。


 大量のスケルトン達を突入した目的は、あくまでも攪乱だ。

 幽鬼が大量のスケルトン達に混乱しているところで、雪ん子が一撃を加えられるチャンスを増やすのが目的だ。

 雪ん子に誤って当ててしまう可能性もあるが、それくらいのフレンドリーファイア(※1)は勘弁してもらいたい。

 なにせ、雪ん子だって、うちのスケルトンの一群を凍らせているしな。


「まぁ、全員って訳じゃないが、なっ!」


 俺はくるりと、自分の背後に向かって【優しい木こりの鞭】を振るう。

 後ろへと振られた鞭は、そのままぺちんっと、何かに跳ね除けられて手元に戻ってくる。


《ギャアアー!》

「やっぱり生きてたか、サイドキック・スケルトン」


 俺はすぐさま周囲にいた味方スケルトンに鞭を与えて、サイドキック・スケルトンの討伐を指示する。


 スケルトンを初めとする屍鬼系の魔物や召喚獣は、体力が低いが、その分再生能力が高い。

 浄化能力などでない限り、スケルトンを完全に倒すことは不可能だ。

 倒したはずのサイドキック・スケルトンが復活したのはそういう理由だが、それはつまり俺のスケルトン達も同様って意味だ。


「サイドキック・スケルトンが何度復活しても構わない。俺のスケルトン軍団も、復活しても文句を言うなよ?」


 サイドキック・スケルトンを倒すには、恐らく浄化能力ではなく、あいつらの主たる幽鬼タケシ・ハザマを倒せば、彼らも消えるだろう。

 俺の役目は、サイドキック・スケルトンを足止めし、雪ん子が幽鬼を倒すまで時間を稼ぐ事だけだ。


 それからしばらく、俺のスケルトン軍団が華麗に吹っ飛ぶ姿を眺めていると、メッセージウインドウが俺の勝利を告げた。




 ===== ===== =====

 幽鬼タケシ・ハザマが 倒されました

 ダンジョン介入を 削除します

 限定的結界が解け ダンジョンから 出られるようになりました

 ===== ===== =====




「思ったよりも、呆気なかったな」


 なんというか、戦ったという実感がまるでない。

 大量の軍隊を指揮し、気付いたら標的を倒していたという感じである。


 きっと、世界中で戦争の火種がなかなか消えないのは、こういう事なのだろう。

 ボタンを1回押したら勝手に戦争が始まって、気付いたら作戦終了って言うね。

 ----あんまりのお手軽っぷりに、もう一度やりたいくらいだよ。


「さて、それじゃあこのスケルトン軍団はどうしようか」


 俺はそう言って、フロアを埋め尽くさんばかりに広がるスケルトン軍団の処遇を考える。

 ボス戦はこれで良いが、流石にこの大人数での行軍は無理だろう。

 ダンジョンで、パーティーメンバーが4人編成が多いのも、あまり大人数だと戦いだけじゃない、行軍に影響が出るからだし。


「送還……はメリットがないな。確実に何体かはやられているだろうし」


 軍団レギオン形式で召喚する事の最大の欠点は、これだ。

 1体でもやられてしまっている場合、送還できても魔力が回収できないのだ。

 送還は召喚獣を送り返すことで魔力を回収するスキルなのに、魔力が回収できないのなら意味がないからな。


「かと言って、スケルトンは倒されはするけれども、完全に倒すことが出来ないという厄介な性質があるしね。どうやって消そうかな?」


 まぁ、最終的な結論としては、魔力の回収を諦めての送還、ってな具合になるとは思うんだけれどもね。


「さて、それじゃあ早速----」


 送還を開始しようとしたのだが、俺は目の前がすっきりしていることに気付いた。

 目の前に映るのは、草木ばかり……つまりは、スケルトンが一切見えない、《木こりが暮らす水辺》の風景そのもの。


 フロアを埋め尽くしていた、あの白いスケルトン軍団の姿は1体も見えなかったのである。


 代わりに居たのは----骨の欠片を踏んづける、黒い着物の幼女。


 愛らしい顔ながら、その顔は愉悦といった悪どい表情を浮かべており。

 両手足は黒く禍々しい手袋をしており、背中にはひらひらとたなびかせる黒いマントをつけていた。



 ===== ===== =====

 警告!! 警告!!

 召喚獣が ルトナウムに 干渉を 受けています

 雪ん子は 強力な人の悪意を 持っております

 ルトナウムによる 変異が 開始されました


 雪ん子は 《悪の手先》雪ん子に 変異しました



 【《悪の手先》雪ん子】 レベル;Ⅱ+11 

 個体レベル;11

 装備職業;悪の剣士

 攻撃力;F+11

 属性攻撃力;E+2

 防御力;F+11

 素早さ;F+12

 賢さ;D+26


 固有スキル;【氷結の申し子】;全ての攻撃に対し、氷属性を付与する

      ;【悪の申し子】;全ての攻撃に対し、悪属性を付与する


 後天スキル;【剣技】;剣などの武器を持つ時、強力な技を発動する

      ;【嗜虐性】;相手を痛がらせるほど、ステータスが上昇する

      ;【殺意の目】;敵の弱点を瞬時に見抜くが、殺人衝動が起きるようになる



 なお、召喚士のレベルよりも 召喚獣のレベルが高いため 制限を解除します

 殺される可能性が あります

 注意して ください

 ===== ===== =====




「雪ん子……?」


 それは、俺が知ってる雪ん子と服が違っていた。

 それはまるで、課金ゲームをやっていた時に見た、期間限定衣装(※2)に身を包んで、能力が上昇、変化するのと良く似ていた。

 そして、一番の違いは----


「《アァ……主……。殺サセテ、モットいっぱい殺サセテっ!

 ソレガだめナラ、主を殺サセテよッ!》」


 雪ん子が俺に、殺意を向けているところである。






(※1)フレンドリーファイア

 戦闘時に誤って、味方に攻撃してしまう事。意図的、無意識的のどちらであろうと、味方に傷を与えてしまった場合、これに該当する

 武器やスキルのほとんどは最初からフレンドリーファイアが起きないように設定されてるが、これを解除した武器やスキルの方が威力が高いモノが多い


(※2)期間限定衣装

 アプリゲームなどで見られる、通常のキャラの衣装とは違う、特定の季節や行事などに合わせた特別な衣装のこと。衣装を変える事でレア度レアリティーや特殊能力などの上昇や変更などが見られる

 水着や浴衣、ハロウィンなどのコスプレなど、種類も色々ある

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