第6話

 一方その頃、例の連続殺人犯は今日ここに来るであろうターゲットの事を考えながらおすすめされた喫茶店でカプチーノをすすっていた。


(今日、ターゲットの学校は午前まで、恐らく午後、ターゲットはここに来る可能性がかなり高い、しかし絶対ではないが、あいつがここをピックアップしているという事はあいつのラボの他のスキル持ちが恐らく、ここに来ることを予見したという事になる。それだけで信じるのは自分の中で納得はいかないが仕方あるまい)


 スキルとは頭ではいくら否定してもそういうものだと決めつけられる代物なのだ。さて問題はターゲットに姿を見せ、そして今回の狙いの人物が確かめる必要があるがこれもあいつの発明したこの機械を使えば分かることだろう。そう思い私はポケットに入っているその機械を指でなぞった。一見するとそれはただのコンパスの様な見た目をしているが、その実、非常に強力なスキル持ちが近くにいるとそれに反応する様に作られている。その際、使用者の私のスキルに反応しないのかとあいつに尋ねた事がある。するとあいつは待ってましたとばかりにニヤリと笑いながら高らかに説明してきた。


「よくぞ聞いてくれたね、そうこの機械は強力なスキルに反応するという優れものだが使用者も同じ強力なスキル持ちだと混乱してしまうという欠陥があった、だがしかし、私を褒めて欲しいね、その問題に関しては、既にこの組織に属しているスキル持ちには反応しない様、改造を施しておいたのだよ、どうだね?すごいだろう?」


 今思い出してもあの時の勝ち誇った顔はイラつくが、そのおかげでこうして私はこの機械で難なく問題のターゲットを簡単に見つけることができた。しかし、偶然とはいえターゲットとすれ違った際に反応したのを確認できて良かった、その後ターゲットを絞り前回で2人までに絞った、後は今日の件でどちらかを確認したら目的の方を連れて行くだけでいい。それにしても今回の任務は、この街でターゲットを見つけるという比較的簡単な任務だったが、なにぶんこの街は何か普通の街と違い違和感がある。そのせいか他の任務より非常に神経を磨耗した気がする。

この仕事が終わったらあの人にお願いして1週間ほど休暇をもらうとしよう。そう私は心に決めターゲットが来るまで時間を潰す事にした、その際に休暇を取ったらやりたい事を一つずつリストアップしながら……




 最後の授業の終了のチャイムが鳴り、俺の心は完全に朝聞いたオムライスで頭がいっぱいになっていた、そのまま終わりのホームルームを終わらせ栞と一緒に半ば駆け足で学校から出て目的の喫茶店へと向かった。


(今回のオムライスはどんなタイプなのか非常に興味深い、今の気分はデミグラスソースたっぷりのふわふわオムライスだが、どうなんだろう……)


 そう頭の中で考え込んでるとその思考を読み取ったのか隣で栞がニヤニヤしながらこちらを見つめていた。


「仁君よ、君の考えている事が顔に書いてある様にはっきりわかるよ、まぁ私もお腹が空いているから非常に楽しみだがね」


 すっかり見透かされた事すらどうでもよくなるくらいオムライスが楽しみになっていると、あっという間に目的の喫茶店に着いた。中に入るとちょうど入れ替わりで出て行く人がいたので道を譲る事にした。その時、すれ違った人の格好を見て嫌な予感がした、その人は学校での事件の際に学校前ですれ違った黒のロングコートの格好と同じだったからだ。ただの偶然だと思いたかったが、今朝の仮説で見せたい人物に窓を絞ってる可能性がある事と既に俺達は2回事件を目撃しているという事実が偶然だと思い込ませなかった。


「栞、先に入ってて、ちょっと用事を思い出したから、すぐに済むから」


「う、うむ、分かったよ」


 栞にそう言い残して俺は先程の人物を追いかけた。もし、奴が例の殺人犯ならこの行動は正直言ってかなり危険だ、でもこの可能性を確認しないといけない気がして気付いたら体が動いてた。奴は、近くの公園に向かって歩いていた。もしも次の現場を公園にするのならこのタイミングなら今から昼ご飯を食べに来る人食べ終わった子供とその親達、比較的多くの人が集まる、それに知ってか知らないでかは分からないが俺達の高校も今日は昼まで、栞の話ならあの喫茶店は人気が出てる、学生がかなりの数、この周辺に集まるだろう、つまり狙いは俺達の高校の誰か、もしくはこの周辺が生活圏内の人物という事になる。奴が公園に入ってしばらくして俺も公園の入り口まで来た、そして入り口の影から中を覗くと嫌な予感はやはり的中していた。奴がベンチにちょうど遺体を置いていた。そして遺体を置き終わった奴は、何食わぬ顔で公園から出てこようとしていた。慌ててその場を離れようとしたその時だった


「おい、そこの入り口の影に隠れてる奴出てこい」


 気づかれてないと思っていたがどうやらバレてしまっていたらしい。下手に抵抗しても無駄だと悟った俺は大人しく奴の前に姿を現した。その時初めて真正面から奴の姿を見たが、身長は俺より低く、予想以上に細い印象だった、顔はフードを目深に被っていてよく分からなかった。


「お前、名前は?」


 唐突に奴から聞かれた、声は想定していたより高い声だった、顔は分からないが今の時点では中性的な印象がする。


「おい、聞いてるのか?名前は?」


 奴はイラつきながら再度問いかけてきた。それに対し俺は、慌てて回答した。


「仁、砂月 仁です」


「そうか、仁とやら、今お前は見てはいけないものを見た、よってお前の口を封じなくてはいけない、だが今の私は非常に気分がいい、選択肢を与えよう、一つお前自身が死ぬ、二つお前の大事な人を代わりに殺す、さぁ好きな方を選べ」


 そう言って奴は俺に回答を迫ってきた、顔は分からないが笑っていることだけは伝わってきた。


「そんなの選べと言われても、結局誰か死ぬんじゃないか」


 そう反論してみたが、奴はそれに対して無反応だった、つまり先程の選択肢以外の答えは聞く気がないみたいだ。


「まぁ、いきなり選べってのは確かに容赦がなかったな、いつもの私ならここで即決させていたが先程の喫茶店のカプチーノが非常に美味だったのに免じて考える猶予をやろう、明後日、街外れの林の中に廃屋があるそこに一人で来い、その時に先程の質問の答えを聞こう」


 そう言い放ち、奴は公園から出て行った、程なくして、小さい子を連れた親が公園に入って来てベンチの遺体に気づき、悲鳴を上げた、そこからはよく覚えてないがあっという間に沢山の人が集まり俺はそうなってやっとその場を動く事が出来た。

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