第七話 反省会



 ワイバーンの奇襲から五分ほど。残った魔物は幸いにもゴブリンとインプしかおらず、御月も俺もスキルを使うことなくそれらの魔物を片付けた。初陣にしては上出来だろう。



 俺が初めて魔物に遭遇した時とは違う。俺は戦う力を手に入れた。俺も、戦える。



 木々の間を吹き抜ける西風が、戦いの終わりを告げた。



 二刀をぐっと握りしめ、刃に目をやる。刃こぼれはなく、その輝きは魔物の血に濡れようとも失われずに、名刀たる所以を見せつけた。ああ。実にいい気分だ。



 納刀もしない俺の頭に、ドンッと衝撃が走る。痛い。


「まったく......この馬鹿者!」


 御月の手刀である。彼女は呆れと怒りを混ぜたような表情をしていた。


「警戒が足りなかった私のミスではあるが、なぜあそこで命を懸ける! あれで死んだら笑えないぞ!」


 どうやら彼女はお怒りのようだった。なにかミスを犯しただろうか。ワイバーンも撃破したし、完璧だったと思うのだが。


「君の特殊霊技能スキルを見て察するに、対空攻撃が可能な部類だな。何故真正面から迎え撃つ。君のスキルで牽制を入れながら体制を立て直し、私と共に対決するのが上策だろう」


 御月はそのまま次々に指摘をしてくる。しかし不快にはならなかった。彼女の表情や語り口が、こちらを思ってのものというのが伝わってきたからだろうか。


 しかし褒めてくれたっていいだろう。反論をする。


「御月。しかし俺は君に力を見せると言った。あれが最高の見せ場だったのは間違いない。それに、君みたいな美人の前ならば臆するわけにもいかないだろう」


 そう言った俺に対し、御月は変わった表情になって驚いている。


「にゃ゛っ......!? こほん。まあなんだ、君に他の手段があったということを知ってほしかっただけだ。勝つため命を懸けるべき場面が存在するのは間違いないが、毎回毎回懸けていたら死んでしまう。先ほど言った通りにな、懸けなくていい場面で懸けて死んでしまったら笑えん」


 急に早口になったと思ったら態度が軟化した。よくわからないが怒りが収まったのならいいだろう。


 息を吸って吐き、御月が聞いてくる。


「それで玄一。君の特殊霊能力スキルについて教えてくれないか。『五輪』と言っていたな」


 彼女は俺のスキルの詳細を知りたいようだ。解説する。


「俺の特殊霊技能ユニークスキルは『五輪』というものだ。その能力を簡潔に纏めるならば、能力で出した輪で囲んだ武器や、物体に特殊効果を付与するものだ。それぞれの輪にそれぞれの能力が付与できて、得意分野も違う。制限をあげるとすれば、今の俺じゃあ二個までしか出せない点と、霊力の消耗が他の技能に比べ少し多いところかな」


 それに対して御月が反応した。


「ほう。君が使ったのは火を生み出す『火輪』と、風を操る『風輪』ということか。だが、私が見たあの一瞬だけだとそれぐらいしかわからなかった。具体的にはどのような能力を付与できるんだ?」


「『火輪』は範囲攻撃に優れていて、『風輪』は射程距離が長い。他には『水輪』と『地輪』という輪があって、『水輪』は柔軟性。『地輪』は防御。といったところだ」


 御月は目を見開かせ驚いている。


「実に多彩だな。複数の能力を持っているものは知っているが、一つの能力でここまで多くのものを持っているのは初めて見る。しかし、能力名は『五輪』なのだろう? あと一つはどこへ行った」


 少し躊躇いながら口にする。


「それが......四つしか使えないんだ。この能力名をつけてくれたのは俺の師匠なのだが、師匠はもう一つあると言っている。どうやって知ったのはわからない。ただ、あるかもわからない五つ目よりも、今使えるこの四つの輪にもまだまだ可能性があると思うんだ。今はそれに集中している」


 そんな俺に対しうんうんと頷いている御月は手元から月華を消し、口を開いた。


「そうか。しかし、長居しすぎてしまったな。一度帰投して山名にこのことを報告しよう。普段ここにワイバーンなど現れない。何か魔物の群勢に動きがある可能性がある」


 その言葉に頷きを返し、戦場を後にして踵を返す。そのまま郷の方へ歩みを進めようとした時、御月が急に立ち止まった。


「あー......言い忘れていてしまったが、君の力。しかと見せて貰った。君は既にかなりの実力を持っているようだ。今日は......格好良かったぞ」


 頬を掻きながらこちらの方を向き、誰かを褒めることに慣れていないのか、照れ臭そうに言った。


 そんな御月に対して、腕を少し広げ、如何いたしましてと返す。


 命を懸けるのもやってみるものだな、と思った。





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