MeTuberしていただけなのに②




ゲーム実況をしていると誰もいない空間で一人喋ることになる。 とはいえ、外出先で独り言を喋る程の職業病にはなっていない。

もしかしたら簡単な発声はしていた可能性はあるが、それで自分のことをドラキだと分かる人間はいないはずだ。


―――つまり声で俺のことが分かったというわけじゃない?


自身の容姿をネットで晒したことはないし、晒されたこともない。 なのに、たまに通りすがる人がチラリと視線を向けてきたことが妙に気にかかった。

そのうち夕香里がやってきて、疑念はすっかり消えてしまう。


「竜希くん! 遅くなってごめんね」

「夕香里! いや、時間ぴったりじゃないか。 大丈夫だよ」

「ありがとう」

「じゃあ、早速歩こうか」 


そう言いながらスマートフォンをしまう。 今日は特に横浜で何かをしようと思っていたわけではない。 ただ一緒に歩いて自由な時間を過ごしたいと思っていた。


―――本当に我ながらよくできた彼女だと思う。

―――ネットに疎いのもまた魅力的だ。


夕香里はネット慣れしていなく、ネットを連絡するだけの手段としか見ていない。 そんな夕香里を否定する気はなかった。 


―――ネットによって心が汚れないのは凄く素敵なことだ。

―――夕香里には心が綺麗なままでいてもらいたい。

―――・・・と言っても、夕香里をネットの世界へ引きずり込んだのはこの俺なんだけどな。 


竜希は本気で夕香里のことを愛していた。 だから将来にも関わる大切なこと。 ミーチューバーであることを唯一勇気を出して打ち明けた。


―――夕香里もネットのことを否定せず素直に受け入れてくれた。

―――それが何よりも俺の救いだった。

―――ネットの世界へ引きずり込んだと言っても、俺の動画と配信をコメントもせずにただ見守ってくれるだけ。

―――それだけでも嬉しいことだ。

―――寧ろ夕香里が見てくれることに意味がある。

―――俺が頑張れる源にもなっているから。

―――それに何の約束もしていないけど、外でミーチューブの話を持ち出さないのも夕香里のよさだ。 


外でミーチューブの話をしたら、ネットとリアルが繋がってしまう可能性がある。 登録者30万人というのは、少なくともドラキを認知している人間がそれだけいるということだ。

日本の人口を考えれば少ないように思えるが都会に限定するとその数は膨れ上がる。 広がる人混みを考えればこの中に一人または数人が動画を見ていてもおかしくはないのだ。


―――夕香里はそれを暗黙の了解で分かっていて気を遣ってくれる。

―――いつか恩を返さないとな。 


そして二人で街を歩いていた時のことだった。


「あー、おっと! すいません!」


突然一人の青年が突進してきたのだ。 へらへらしながらスマートフォンを振っている。


―――偶然ぶつかったような言いようだけど、明らかに俺に向かって突進してきたよな?


青年は反省する様子もなく手に持っているスマートフォンの小型カメラを向けてきた。


「ちょッ!?」 


カメラに反応し咄嗟に夕香里を自分の背で隠した。


「何急に人を勝手に撮っているんですか!! そういうの普通に迷惑行為ですよ」


そう言ってみたものの、青年はまるで悪びれる様子もない。


「これも縁だと思うんで! 突撃インタビューしてもいいですか!?」

「はぁ?」

「今後ろに隠れているのは貴方の彼女さんですよね?」

「貴方には関係ないでしょう」

「いいじゃないですか! 俺にも紹介してくださいよ!」

「変なことを言わないでください。 というか、カメラで写すのを止めてください!!」

「あぁ、大丈夫です! これは生配信じゃないので!」

「生配信って・・・ッ!」 


明らかに動画投稿サイトを知っている人間の言葉だった。 ミーチューバーである竜希は強く反応してしまう。


「それよりも早くインタビューに答えてくださいよ! お二人は若そうですが、いつから付き合い始めたんですか?」


遠慮がなく人を思いやる気持ちがない相手に、普段あまり怒ることのない竜希もムッとしてしまった


「いい加減にしてください。 俺たちはただの一般人ですよ? 写して需要でもあるんですか?」

「あるからインタビューしているんです!」

「とにかく芸能人でも一般人でも合意なしにカメラで写しては駄目です。 犯罪になりますよ」

「厳しいですねぇ!」 


そう言いながらもカメラを止めようとしない。 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべているのが不気味で不快だ。


―――・・・何なんだこの人。

―――このままだと埒が明かないな。


この場に留まっても青年は引かないため意味がないような気がした。


「俺たちは失礼します」 


頭を下げ夕香里を連れて自らこの場を離れる。 そしてしばらく移動し念のためと思い後方をチラリと確認した。


―――なッ・・・!


青年はストーカーのように懲りずに付いてきていたのだ。



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