8

 絡みつくソレ、が。






 どんどん増える。伸びて、枝分かれして、俺をぐるぐる巻きにしていく。






 どうしてか、意図的になのか、右手を、残して。






 そして絞め上げる。俺を。






「………くっ」






 苦しくて、苦しくなってきて、声が漏れた。






 このままやられたら、このままやられる。



 全身の骨が砕けるのと窒息するのと、どっちが先か。






 それぐらい、どんどんと力が入ってきてた。






 助かりたいなら、簡単だ。一言言えばいい。



 革手袋は力の抑止のためにつけてるけど、全く使えないわけじゃない。



 現状を打破できるぐらいにはだろう。






 でも何故?






 何故コイツは、俺の右手をその蔦で絡めない?



 他はどこがどうなってるのか分からないぐらいぐるぐるだ。






 ………苦しい。痛い。息ができない。骨が軋む。






 まさかこんなことができる陰がいるなんて。






「ねぇ。早く反撃しなよ」






 右目がとらえる暗視カメラ画像の陰。



 なのに左目が緑だと分かるのは、陽の力故なんだろう。






「………早く」






 ギリッ………。






 一層強くなる絞め上げ。



 もう足が床についていない。蔓によって持ち上げられてる。






 これなら大丈夫だ。






 この蔦は先が、根が、果てない。果てがない。



 1階にいるときに感じた巨大な陰の気配は、全部コイツから感じる。コイツひとりのデカさだ。あれは。






 俺がここでやられれば、他の誰もコイツをやることはできない。



 コイツが陽を憎む気持ちのままに、櫻井の一族をやれば。






 陽は全滅し、陰もまた。






「………死んじゃうよ?」






 親父。



 もういいんじゃね?






 ずっと俺は思ってた。



 何か楽しいのか?何が楽しいんだ?






 力を強くすること、陰を滅すること。



 ずっとそれだけで、それしかない日々で、それの何が?






 呼び名は陽なのに、内は、心の内はどうだ?



 陽って違うだろ。陽って。イメージだけど。イメージでしかないけど。陽ってもっとさ。






「何してるの?早く反撃してよ。死んじゃうよ?」






 陰が、何か言ってる。けど。






「………コロセ」






 それでくだらない陰と陽の因縁が、すべてが、終わるなら。






 何故かすごい笑えてきて、でも苦しくて痛くて笑えなくて。






 俺の意識は、そこから続くことを放棄した。

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