後輩が俺にだけうざく絡んでくる
一本橋
後輩が俺にだけうざく絡んでくる
出会いは突然だった。
あれは、学校の廊下を歩いていた時の事。
曲がり角で走ってきた女子生徒の
シャツの上にクリーム色のカーディガンを着こなし、パッチリとした目。
見ない顔つきのため、先日、入学した新入生だと断定した。
走っていたとはいえ、あまりスピードが出てなかったので、軽くぶつかった程度で倒れることはなかった。
なので、須木は
「すまん」
と、だけ謝って済ませようとした。
すると、おかしいといった顔をしてまじまじと須木を見つめる峯川。
--おかしい。
私みたいな絶世の美少女とこんなドテンプレのシチュエーションあったっていうのに、どうしてそんなに無関心でいられるの?
少しくらい、頬を赤くしたってよくない!?
それを、当の本人は真面目に思っている。
事実、峯川は可愛い系の愛らしい容姿をしており、周りからはひときわ注目されていた。
そんな峯川にとって、須木の反応は面白くなかった。
なので、意地でも自分に振り向きさせようとアピールする。
上目遣いで、峯川は少し声を高くして
「こちらこそ、すみません」
と、言ってやった。
普通ならば男女問わず、尊いと思うはずだ。
峯川もそうなるだろうと確信していた。
だが、須木は違った。
見向きもせずに立ち去ろうとしたのだ。
想定外の事態に動揺する峯川。
このまま帰す訳にはいかないと、
「ちょ、ちょっと待ってください!」
勢い余って須木を呼び止める。
「何だ?」
足を止め、振り返る須木。
だが、何故か目を合わせようとはしない。
それもそのはず、須木は峯川をヤバイ奴だと認識し、関わってはいけないとばかりに目をそらしているのだ。
そうだとは知るよしもない峯川は、
--もしかして、私の可愛い顔を見ただけで照れちゃうからじゃね?
という勘違いの考えに至る。
「もぉ~、恥ずかしがらなくていいんですよ」
峯川は余裕が戻り、お得意の笑顔を見せる。
今度こそ須木は頬を赤くそめるだろうと、確信した。
だが、須木は顔色一つ変えずに拍子抜けする。
「は?」
「え?」
峯川は困惑して声を漏らした。
すかさず、須木が口を開く。
「何言ってんだ、お前」
頬を赤くそめるどころか、引かれてしまっている始末。
男子はみんな揃って自分に惚れるのが当たり前と、信じてやまなかった峯川には、これほどにもない衝撃だった。
「えっ、えぇ~!?」
峯川は廊下に響き渡る程、大きな声で叫んだ。
それから半月が経ち、その間、須木は峯川からしつこく絡まれていた。
須木がベットで横になっていると、ピンコンとメールの通知が来る。
開いてみると、峯川からだった。
『明日の予定ってありますか?』
須木が返信しようとボタンに振れる瞬間、即座に
『って、すみませーん。先輩がボッチだったこと忘れてました』
【( ´_ゝ`)ゞ】
と、メールと反省の欠片もないスタンプが来る。
その後に、須木は遅れて返信する。
『あるぞ』
『え?』
峯川もまた、ベットの上で横になりメールと同時に声に出して呟いた。
翌日、須木がデパートを歩いていると、私服姿の峯川が走ってくる。
「ボッチ先輩~。こんな所であうなんて、偶然ですね」
「いや、お前。俺がここに来ること知ってたろ」
昨日のメールで峯川が、須木の予定と出掛ける場所を執念深く聞き出したのだ。
だというのに、愛らしく笑って誤魔化す峯川。
「え~? そうでしたっけ?」
そこへ、タイミングよく須木の姉が缶ジュース片手に戻ってくる。
「おまたせ~、ケンちゃん。喉乾いたから次いでに飲み物も買ってきちゃった」
須木が姉と来ている事、ましてはいることさえ知らなかった峯川は顔に出さずとも、困惑する。
--何このめっちゃ美人な人。
しかも、先輩の事、名前で呼んでたし……。
もしかして、もしかすると彼女さん!?
須木姉は元モデルで、スラッとした背筋にボーイッシュな黒髪。
極め付きはクッキリとした二重とぷっくらとした涙袋。
峯川は居ても立ってもいられず、須木に確かめる。
「あの、先輩。この人は?」
「姉だ」
--姉?
姉……姉。なんだ、お姉さんか。
そうだよ。よく考えたらこんな可愛い人が彼女になる訳ないし、姉以外考えられないでしょ。
心なしか嬉しそうな峯川。
須木姉は峯川を神妙な顔付きで見る。
「あれ? どうしてこんな可愛い子がケンちゃんと一緒に!?」
峯川は須木姉に体を向け、軽く自己紹介をする。
「あっ、私。須木先輩の後輩で、
「そうだったんだ。私は
須木姉がそう言い掛けると、峯川は笑って遮る。
「違いますよ~。先輩がいつも一人で可哀想だから、私が構ってあげてるんです」
「俺にはお前がしつこく絡んでくるようにしか見えないんだがな」
須木は呆れた顔で峯川を見る。
そこから、普段から繰り広げられている痴話喧嘩のような言い争いが始まる。
それを見て、須木姉は二人の仲を目の当たりにし、気を遣う。
「あっ、そういえばまだ買わないといけないやつがあるんだった」
「それなら俺も」
付いてこようとする須木を止める須木姉。
「ケンちゃんはダーメ。男の子が来るような所じゃないよ。それとも、ケンちゃんが私の下着選んでくれるの?」
「ち、違」
頬を赤くし、慌てて言い訳する須木。
--私にはそんな可愛い顔しないのに。
少し嫉妬する峯川。
「じゃあ、私は買いにいってくるから、後は二人で楽しんできなよ。はい、あとこれ。炭酸だけど大丈夫かな?」
須木姉が持っていた缶ジュースを峯川に差し出し、
「ありがとうございます」
と、両手で受け取る。
立ち去ろうとする須木姉を呼び止める須木。
「姉さん」
「私は気が利くタイプの姉だからね」
そう言い残すと、須木姉は足早に立ち去っていった。
そんな姉の背中を、
--いや、勘違いしてるようだけど、俺とこいつはそんな関係じゃないから。
と、呆然として見つめる須木だった。
「すまんな、姉が迷惑かけて。俺の事は気にしないでくれ」
「……もぉ、仕方ないですね。私も丁度、暇でしたから、映画を見るくらいなら付き合ってあげてもいいですよ」
と言いつつ、ウキウキな様子の峯川。
「え? お前、人の話聞いて……」
「はいはい。そんなんだからボッチなんですよ。この絶世の美少女である私が付き合ってあげるんですから、ラッキーって思ってくださいね」
と、嫌がる須木の腕を、無理やり引っ張って連れ回す峯川。
選んだ先は映画館。
ジャンルは恋愛映画。
デートにはド定番のシチュエーションだ。
隣で楽しそうに映画を観賞している峯川を見て、須木は
--まあ、たまにはいいかもな。
と、ふっと笑みを浮かべたのだった。
後輩が俺にだけうざく絡んでくる 一本橋 @ipponmatu
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