第52話ミトの本音

「よし、行くか」


俺は目の前の、新しくフィスばぁに貰った服を靡(なび)かせているネルとミト、やはり目立つ派手な、和服の裾を整える生駒に向けて言う。

「うん!」


「そうじゃの」


「おう!!」


と、やけに元気な生駒の返事が聞こえてきた。


「なんだ?やけに元気だな」


俺が疑問に思い、腰に生駒に見られないように昨日の内に作って置いた愛刀を帯剣しながら言うと。


「いや〜昨日のタクヤの戦いを見て感動したんだよ!これならランクAのエスキャナティとかいうどこぞの馬の骨とも知らない魔物も簡単に倒せると思ってな!」


おいおい昨日のビビりっぷりはどうしたんだよ。

俺がそんな事を思い、苦笑しながら生駒の言葉を聞いていると。

ふと。


「いや〜スキル思考加速も使わないでスキル瞬足を使えるなんて、まさかタクヤの職業はファイターか?!俺だって思考加速を使わないとジョブスキルを使えないってのにさ…」


ジョブスキル:職業によって必ず獲得できる固有スキルの事。

例、魔道士→魔法融合

ファイター→重力操作

クリエイター→想像神(タクヤの職業はクリエイターだが、指輪の力を借りているので、ジョブスキルは無い)


語尾を冗談めかし、残念そうに言ってきた。

思考加速?

なんだそれ。


「思考加速って?」


俺が疑問に思い、生駒に聞くと。


「えっ、知らないのか?スキル瞬足とか、神速とかを使う場合は脳が揺れて酔うから、思考加速っていうスキルを使うんだぞ?それをお前はーーはっはっはっ…」


思考加速を使わないで瞬足を使うタクヤが面白かったのか、言葉の途中で笑い出す生駒。

そんな生駒の言葉に俺は。


「は?」


当然、あぜんとしていた。

えっ、はっ?

待って待って。

確かスキルを覚える時フィスばぁは、「なんでも指輪に頼るな!自分の力でスキルくらい覚えるんだな。」とか言って瞬発力を鍛えさせて、ようやくスキルを覚えて、それで俺が、「なぁフィスばぁ、スキル瞬足を使う時、脳が揺れてスゲー酔うんだけど…酔わないようにするスキルとかないの?」って聞いたら、「酔わないようにするスキル?そんなのある訳ないだろ!ワハハハ!慣れだよ!慣れ!!ワハハハ!!」って言ってた気がするのだが…。


………………………。




騙されたーーーーーーーーーーーーー!!!!



くっそあのBBA騙しやがったなッッッッ!!!

おかしいと思ったんだよ!

どう頑張っても酔うし!

脳なんて鍛えられないし!

くっそあのBBAのせいで…!


ネルにめっちゃ恥ずかしい所見せちまったじゃんか!!

「ごめん…俺…役立たずで…」とかめっちゃ痛いこと言ってるぅーーー!!

クソゥ…クソゥ…

どう責任取ってくれるんだよぉぉ〜!!!


フゥーフゥーフゥー!

凄く怒ってる俺は鼻息荒く。

帰ったら絶対プーーーーーーーーをプーーーーしてプーーしてやるっっっ!!!!

そう固く誓った。


ーーあれから10分後。

俺達は今、いや、さっきからずっと山道を登っていた。

エスキャナティとかいう魔物がいる洞窟までは約2日くらいで到着するという話だったが、どうやら昨日ミトが気を使って早めに野宿にした為、少し遅れているようだ。

まぁ別に良いんだけど。

俺はそう思いながら、エスキャナティと戦う為、ネルとした約束の通り自分らしく強くなるため、生駒に喋りかけた。


「なぁ生駒、ちょっと思考加速スキルを使ってくれない?」


そう、スキルのコピーだ。

色々あって全然試せてなかったが、この気に試しておくのも良いだろう。

それに思考加速を獲得しないと俺、戦えないし。


何処かのクソBBAのせいでっっっ!


俺はまた湧き上がってくるフィスばぁへの怒りを、深呼吸して抑えながら。


「ん?なんで?まぁ良いけど…」


と言って、思考加速スキルを使う生駒の肩を、


「おぉ!凄いねーー良い思考加速だ!」


と、意味のわからない事を言いながらボンポンと触った。

すると指輪が光り…!

俺は指輪の光を隠すように、右手を身体の後ろに回す。

やがて光が収まると。


「なぁ生駒、そういえば俺も思考加速を使えるんだったわ!ちょっと見てくれよ、俺の思考加速スキル」


そう言って、【スキルーー思考加速】と、言った。

すると。

グニャン

突然目の前の視界が歪む。

な、なんだこれ…立ってられねえぞ…。

俺がそう思い、フラフラとしていると。

ホヮヮヮヮヮン

…視界が突然、良好に映った。

なんだ、これ…。

そう思いながら俺は、目の前のネルやミト、生駒達を見る。

すると…!


なんと全員の動きが…遅くなっていた。


す、凄い!これがスキル思考加速!

やっぱりこの指輪、スキルのコピーも出来るんだ!!

俺はその様子に驚く。

ネルやミト、生駒だけでなく、周りの草木や風の動きまで、更には遅くなった事でハッキリした筋肉や血液の動きまで、全ての物が遅くハッキリ見えた。

スゲー!

これなら酔わない気がする!

スゲー!

そんな光景に俺が感動していると、スキルの効果が切れたようだ。

パッ

著しく皆の動きが早くなり、さっきとは見違えるほどの光景に変わる。


…ただ動きが遅いだけなのにまるで世界が変わった様だな。


そんな感動も冷めやらぬままに、俺は平然と。


「どうだった?」


と、小首を傾げて生駒に聞いた。

すると生駒は、


「あまり使って無かったからなのか動きは悪かったけどスキル自体は問題無かったよ」


そう、笑顔で正直に答えた。

いや〜これはやばいね。

これならどんなに早い相手でも負ける気がしないよ。


うん、マジで。


そんな事を言ったら「油断するな」とまたフィスばぁに怒られそうだが、まぁ良いか。

俺はそんな事を思いながら、『凄い!』と言って褒めてくれるネルとミトの手を繋ぎ、


「じゃあ行こうか」


と言って、止まっていた足を動かした。


ーー『ルンルンルン!ルンルンルン!』

俺は今、ネルとミトと手を繋いで山道を昇っていた。

いや〜凄いね、スキルって。

なんか時間を支配してるみたいでかっこいいよーー!

そんな感じでやけに上機嫌で、ニヤつきながら山道を登る。

そんな俺にミトは…!


「…」


黙々と俺の横を歩いているだけだった。

いつもなら、「なんじゃ気持ち悪いのぅ…変な粉でも吸ったのか?」とか言って来るのだが、今日はずっと黙っている。

…まぁ昨日の俺の事を察しているのだろう。

もしかしたら今の俺が空元気で過ごしているとでも思っているのかも知れない。


ミトは子供の癖に、相手の感情を読み取るのが上手いからな…。


俺はそんな事を思いながらも、ネルとミトと手を繋いだまま、鼻を鳴らし、うそ偽りのない上機嫌で山道を登る。

そういう様子を見せてやるのが1番、ミトの心配を払拭する最善の方法だと思ったからだ。

俺はその後もネルとミトと手を繋ぎ、2日目は突然の魔物に生駒が叫び出すなどのめんどい事態も起こらず、野宿となった。


ーーパチパチパチ

焚き火にくべられた枯葉や小枝が燃える音が、静かな森の暗闇に響く。

俺の目の前には、薄い掛け布を身体に掛け、スゥ…スゥ…と可愛い寝息をこぼしながら寝ているネルが居た。

そしてその奥には、派手な和服の隙間からへそを出し、それはそれは恥ずかしい寝相で寝ている生駒もいた。

ちなみにミトは、見張りとして、俺達の周りを見ていてくれている…多分。

まぁ俺からミトの姿は見えないから分からないが、「魔物の殺気を感じたら寝ていても知らせられると思う」と、生駒が言っていたので、あまり心配はしないでおこう。

そんな感じて俺が、ひとしきり今の状態を確認し、ネルの頬を優しく撫で、眠りにつこうとした時。


サヮ…


「!…」


ミトが寝ている俺の背中に、抱きついてきた。


…俺はもうドキドキしない。

別に強がっている訳では無い。

俺にはネルが居るし、それにミトは俺に恋愛的に構ってきている訳では無い。

ただただ年相応に甘えたいだけなのだ。

断じて強がっている訳では無い。

(↑大事な事なので2回言いました)

そう思うと、俺は。


「…どうした…ミト」


と、優しい口調で言った。

するとミトは、サっ…と、俺の腰に手を回し、それを抱きしめる。


「…私が甘えるのは意外か…?」


ふと、ミトがそんな事を言ってきた。

そんならしくない事を言ってくるミトに、俺は。


「ははっ…全然意外じゃないよ…」


「むぅ…なぜ笑う」


と言って、俺の身体を抱きしめる力を強めるミト。

その言葉には、少しの照れと、何故か嬉しみが含まれていた。


「いや、あまりにもらしくなかったからさ、ははっ…」


ホヮン


「あー分かった分かった!分かったからその腰の周りにある物騒なものをしまおうか…!!」


ー数分後。


「それで、どうしたんだ?」


しばらくの沈黙が流れたあと、俺がそう聞くと。


「昨夜…ネルとは話せたか…?」


と、まるで昨日の岩の上での出来事を知っているかのように聞いてきた。

「!……あぁ…お陰様で」

俺は正直に答える。

「そうか…」

「…」

「…」

「…」


「タクヤには…感謝している。」


突然、ミトがそんな事を言ってきた。

なんだよ、ネルもミトも、夜になるとそんな雰囲気を纏うようになるのか?

ミトの口調からは、後に居て顔が見えなくとも、しっかりと大人の雰囲気が漂ってきていた。

やっぱりミトはしっかりしている。

俺は改めまくってそう思う。

そして。


「身元も知らない少女を、仲間にしてくれてありがとう。頼ってくれてありがとう。孤児だった私の事を考えてくれてありがとう。」


ミトは柄にもなく、そんな感謝の言葉を続ける。


「私に住むところを与えてくれてありがとう。毎日お小遣いを渡してくれてありがとう。」

そして最後に…


「私と…手を繋いでくれてありがとう…」


と、いつもの年寄り口調ではなく、年相応の口調で言った。


その言葉を聞いた俺の心臓は……バクバクだった。


「普段はこんな恥ずかしいことは言わんのじゃぞ?」


と、イタズラっぽく言うミト。

そして俺の身体を抱く手の位置をずらしながら、もう一度強く抱きしめてくる。


「…」


「…今日はそれが言いたかっただけじゃ」

そう言ってミトは、スっと俺を抱く手の力を抜き、俺の布団から出た。

そして。


「すまんの、起こしてしまった。今夜の見張りは私じゃから、安心して寝るが良い」

そう言ってミトは、近くの切り株に座った。


「…」


…ミトがこんな事を言うのはいつぶりだろうか。

いや、多分初めてだろう。

何だかんだ言って、ミトと2人きりになる機会は少なかった気がする。


もう少し…話しておけば良かった。


いや、今から話せばいいのだ。

ミトは俺達の仲間なのだから。

そう思うと、俺は視線の向きを変えるように体を反転させ、切り株を座って見張りをしているミトの方を見る。

ミトは真面目に森の方を見て警戒している。


「…ミト…」


俺は小声で、ミトを呼ぶ。

するとミトは、


「…ん?」


と、小さく幼い声で返事をする。

そんなミトに俺は、


サッ


掛け布団の端を開け、ミトの入るスペースを作る。

それを見たミトは、


「なんじゃ…ネルに内緒で浮気か?」


と、恥ずかしさを茶化したように言ってきた。

そんなミトに、俺は真顔で。


「そんなんじゃないよ。…これなら見張りも睡眠もとれるだろ?これはリーダーとしての情けだ」


と言った。

俺の言葉にミトは、幸せそうな顔でため息を着いて。


「……そう…所が…好…なん…よ」


「?」

そう、切り株を立ちながら、俺に聞こえない声で言った。

何を言ったかは分からないが、それは多分、ミトの【本音】だろう。

別に俺は、泣きの野〇村見たく聞き返す事はしない。

実は俺、空気読める男なので。

(↑う〜む否定は出来ん…)

そんな事を思いながら、俺は観念したように俺の布団に入ってくるミトに、掛け布団を優しく掛けた。





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