第53話あれ?俺が遅いの?
「…なんか遠くね?」
俺が何となく言うと、
「ちょっとね…」
と、俺に賛同してくるネル。
「いや、大分じゃな」
そんなネルの言葉を、ミトは誇張する。
俺は今、いやずっと、山道を登っていた。
頂上に近いからなのか、それともだんだん濃くなっている魔素の影響なのか、地面には草1本も生えていなかった。
「そうか?」
俺らの言葉を否定するように、こちらを見ながら生駒が言う。
「いや、だって。これだけ歩いてもつかないなんておかしくないか?」
俺が、1人だけなんとも思ってない生駒に言うと。
「お!噂をしてたら着いたみたいだぞ」
と、生駒が前を向いて言ってきた。
俺も生駒と同じく、視線を前に移すとそこには、垂直の岩に空く、すっごいデカイ横穴があった。
おぉ…!
「なんか凄い迫力だな」
そのダンジョンからは、この世界に馴染めてきたからか最近分かるようになってきた魔素の感覚が、ムンムンときていた。
入らなくても分かる。
コイツはヤバい。
そんな俺の不安に滑車をかけるように生駒が。
「ヤバいな…索敵スキルが今までに無い程反応してる…」
と、言った。
そういう事言うのは止めろよ!!
オシッコチビっちゃうかもしれないだろ!!
俺が心の中で生駒を叱りつけていると、この中で1番冷静なミトが。
「これはヤバいのぅ。タクヤ、入る前に作戦を立てよう」
と言って来た。
やっぱ入るんですね。
そうですよね。
俺が受けた依頼ですもんね。
入りますよ、入りゃあ良いんでしょ。
はいはい………………ヤダ!やっぱりヤダ!無理だってこんなの!死ぬ!
死ぬぅ〜〜〜〜!
今度こそ全然に死ぬぅ〜。
そんな事を思いながら、必死に
「止めようぜ」
の視線をミトに送るが。
「ふん!」
と言って、そっぽを向くだけだった。
だよね!
俺が悪いんだもんね!
俺が生駒の話を聞いた時点で記憶石を、作っておいてればいい話だもんね!!
はぁ…こんな事なら素直に記憶石を作っとくんだった。
ここまで来たからにはもうネタバレできないし…!
なんか変に生駒から期待の眼差しが送られてくるし…!!
俺は「こんな恐ろしい敵をどう倒すのだろう?」と目を輝かせ、俺の横顔を見つめる生駒に、チラッと視線を送る。
その時。
グォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
「ひぃ?!」
中は真っ暗で見えないダンジョンから、思わず耳を抑えたくなるほど忌々しい咆哮が聞こえてきた。
生駒はその声を聞いて、ブルブルと震え初めている。
と、ネルが。
「タクヤ!一旦離れた方がいいよ!」
と、俺に言って来た。
ネルがそう言うのだ。
間違いなくヤバいのであろう。
「あ、あぁ!そうだな!…皆!一旦崖上に待避だ!」
俺はそう言って、皆を避難させようと思い、不気味な咆哮が聞こえるダンジョンから視線を外し、周りを見回す。
が。
なんとそこには、俺とネル以外だれも居なかった。
「あれ?!えっ?!ちょっ…え?!」
俺はマヌケな声を出しながら、あたりを見渡す。
が、そこには強大な魔素によって荒れた大地があるばかりであった。
おいおいマジか!
こりゃ真面目にヤバいぞ!
「おいネル!早くここから逃ーー」
「何やっとるんじゃネル!タクヤ!早く登ってこんか!!」
と、ネルの手を引いて逃げようとした時、頭上からミトと思しき声色の声が掛かった。
「え……?」
俺が疑問に思い上を見ると、そこには、ダンジョン(横穴)のある垂直の岩の頂上から、顔だけちょこんと出して手を振っているミト達が居た。
なっ…もうあんな所にまで登ったのか?!
早っ!
皆早すぎだろ!
いや俺が遅いのか?!
そんな感じてうろたえていると。
「タクヤ!喋っちゃダメだよ?舌噛むからね!」
と、背後からネルの声が聞こえて来た、次の瞬間。
ガクッ
うおっ?!
突然、視線が低くなり、自分の両膝が見えるようになった。
「え?」
俺が左側に見えるネルの顔を見ながら言うと。
「行くよ…?」
バンッ!
「わっ?!」
そう言って、俺をお姫様抱っこしたまま、ほぼ垂直な崖の僅かな出っ張りを利用し、頂上に駆け上がっていくネル。
おぉ!下からのアングルも可愛いですネルさん!
そんなネルに俺は……こんな緊急事態にも関わらず、ネルにお姫様抱っこされている事に対してマイエクスカリバーが違う意味で警告を鳴らしていた。
まぁ生理現象だからね、仕方ないよ、うん、仕方ない。
そう言って、空気の読めないこの体を心の中で肯定していると。
ガクッ
「おうっ…」
どうやら崖の頂上に着いた様だ。
そこは崖下と打って変わって、草木が生い茂り、様々な魔物の気配があった。
そんな事を思っていると、ネルが足から優しく、俺の体を地面に下ろしてくれる。
俺としてはもうちょっとこうしていたかったが、本当に今はそれどころでは無いので、俺はマイエクスカリバーとは違い、空気を読んでミトと生駒達の様に、ネルと一緒に崖下を覗く。
「おいタクヤ!もうちょっと視線を低くした方が良いぞ!」
と、立ったまま崖下を覗いていたら、生駒がそんな事を言ってきた。
俺は、
「う、うん…」
と、緊張気味に、ネルと、その指示に従い、寝転んだ状態で顔だけを、不気味な咆哮が聞こえてきたダンジョンの入口に向けた。
バクバクバクバク…
何故だろうか…。
ダンジョンの入口からは少なくとも100メートル以上は離れているのに、心臓がバクバクとうるさい。
それほど俺の体が本能的に危機感を覚えているのだろうか…。
こんなのは初めてだ。
俺はそう思い、一旦深呼吸して、ゴクリと唾を飲んだ。
そして、少し心臓の脈拍が収まってきた、
次の瞬間…!
グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
油断していた所に、またもやあのけたたましい咆哮が鳴り響いた。
そして、周りの草木は揺れ騒ぎ、先程まで微(かす)かにあった魔物気配すら一瞬にして無くなる。
「ぐっ…!」
なんだ…なんなんだこの重圧は…!!
俺は、先程少しだけ収まった脈拍が再び早まるのを鼓膜で感じる。
バクバクバクバク…!!
そしてそのまま、4人で極力息を潜めて、ダンジョンの入口を見る。
すると。
強大な魔素の暴風と共に、身体中を銀色の鱗で覆われ、顔と思われる部分には目は無く、大きく空いた口の様な物だけがあり、動く度にじゃらじゃらと不気味な音を立てる…まるでティラノサウルスの様な容姿の怪物…ーーエスキャナティが現れた。
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