第44話惚れてまうやろ〜!!

ミトはその後冒険者登録を済ませ、ネルと一緒に、ギルドの依頼掲示板に貼ってある依頼書を、目を輝かせながら見ていた。

ネルはまた、掲示板の仕組みをミトに自慢するように話している。

そんな微笑ましい様子を横目に、俺は追加報酬を貰う為、ギルドの受付で例の石に触れていた。

「はい。偽りじゃありませんね。コレなら予定通り追加報酬が出ますよ。」

「ありがとうございます」

追加報酬を貰い、立ち去ろうとする俺に。

「あ、っとステータスの更新状況も確認できますが…いかが致しますか?」

俺は受付を後にしようとした足を止め、「更新状況?」と語尾を疑問符にして応えた。

「はい。スキルは努力を裏切らないので」

ん?

あぁそういう事ね。

俺は自分の、痛くて動かしずらい足を見ながら思う。

「さすがに疑問に思いますよね…」

苦笑しながら言うと。

「そうですね…でも努力している人は私、応援したいんです。なんだか貴方がたは、他の冒険者と違う気がするんです…。」

そこまで言うと、ハッと気が付いたように顔を上げる受付の人。

「あっ!いや、職業とかは関係無くて…!」

「…」

受付の人は言葉を続ける。

「その…他の冒険者の方々は、大体がお金目当てなんです…。別に悪いことではありません。人間である以上、お金が無いと暮らしていけませんから…。でも…、貴方は【そういう人】じゃない。何か大切なものを守ろうとしている。必死で…自分の命も惜しまずに…。そうじゃないと歩けなくなるまで特訓なんてできませんよ!…。……だから…応援しています。これからも頑張ってくださいねタクヤさん」

そう言って受付の人は、満面の笑みで笑った。

…。

惚れてまうやろ〜!!!!

俺は心の中で、音楽の先生並の声量で叫ぶ。

「はい。ありがとうございます」

そう答えた俺は、らしくない事を言ってしまったと、照れながら受付の台の上に緑の石を出す受付の人を見て、微笑んでいた。

ん?

ふと、疑問が生まれる。

さっきの石とは違うのか?

俺は冷静になって見てみると、受付の台の上に2つの緑色をした石が置いてあった。

はっきり言って違いは分からない。

強いて言うとすれば、手を置くところに模様があるか無いかぐらいだろうか。

俺がそんな事を思っていると、クイクイと、服の袖が引っ張られる。

そして俺が引っ張られた方向を見ると、そこにはミトと、ネルが居た。

「何をにやけておる。気持ち悪いでは無いか」

「う、うるせぇーよ!」

俺はにやけていた所を見られた恥ずかしさを誤魔化す様に応える。

「タクヤ、私トイレ行きたい!一緒に行こ?」

行きます!行きます!

なんなら俺も…!

いや、それはさすがにダメか。

俺は、いつもの通り酷い考えを頭で巡らせ、自分で踏みとどまる。

というか、やばい所まで行く勇気が俺には無い。

「いやいや流石に俺はな…」

俺は、「あはは…」と苦笑いしながら、やんわりと断る。

「ミトについて行って貰えよ」

「そっか…残念…」と、なぜか肩を落とし、落ち込んでいるネルにそう伝えると。

「…!うん!分かった!」

そしてミトは。

「なんじゃ…私は行っても出ないのじゃがの」

と言いながらも、ネルに付き添う。

やっぱミトは優しい。

そして。

「ネルよ、あまり男に自分の居場所を伝えるでないぞ?男は別名性欲の悪魔と言われておるからの」

と、ミトがネルにヒソヒソ声で吹き込んでいるのが聞こえてきた。

前言撤回、あいつは優しくない。


ーー「それではこちらの石に手を」

「はい」

俺が受付の人の指示のまま、新しく置かれた模様の無い石に、手を乗せる。

すると目の前に、ステータスが表示された。


氏名:タクヤ

職業:クリエイター

ランク:D

スキル:忍耐

瞬足

スキル報告


「おぉーー!」

凄い。

死ぬ程走っただけでスキルが3つも増えてる!

しかもランクも1つ上がってDに!

俺は歓喜のあまり声を出す。

うわぉ!

本当にスキルを手に入れられるとは…!

俺、もう泣きそう…!

俺が感動のあまり、名も知らないギルドの前にある石像に向けて祈っていると、「タクヤーー!」と言う可愛い声が聞こえて来た。

おや?

バフッ!

俺が声の聞こえてきた方を向くと、ネルが俺に抱きついてきた。

俺は「おう…」と言いながらも、にやける。

すると。

「ま〜たにやけておる。やはり男は…」

こいつは男になんの恨みがあるんだ。

俺は抱きついてくるネルの後ろを追って来た、ミトの発言を聞いて思う。

そしてその言葉をネルも聞いたらしく。

「聞いてよタクヤ!ミトがね?(さっきのタクヤはネルと一緒にトイレに入るつもりだったぞ。あぁそうじゃ。間違いない)って言ってくるんだよ?酷いよね!タクヤはそんな人じゃないのに」

ネルはぷんすこと、頬を膨らませながら言う。

「あはは…そうだな」

そうだな………………………。

そんなネルに俺は、冷や汗たっぷりで答えた。












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