第29話ザコキャラでも近くで見ると恐ろしい

「私をお主らの仲間にして欲しい」


「えっ?」


「無理を承知のお願いじゃ。どうか聞き入れて欲しい」


「いやいやちょっと待て!全然無理じゃないけど…でも、なんで?」


聞くと。


「一人旅は疲れるからじゃ」

と、キッパリ言われた。


「随分と勝手な理由だな…」


俺が呆れたように言うと、「頼む!」と言ってミトがベットの上で全身全霊の土下座をする。

俺はミトの全身全霊の土下座を見て、それはもう土下座じゃないだろ!と思いながら、突然土下座するミトを、「お、おい…!」と言いながら止める。


「分かったから頭上げろって。実は俺達もミトと仲間になりたいと思ってたんだ」


「本当か?!」


「あぁ。な?ネル」


「うん!ミトちゃんは命の恩人だもん!」


と、満面の笑みでネルが言った。

すると。


「うぅ…そんなにお主らは私の事を思ってくれていたのかーー!!私は嬉しいぞい…」


そう言って泣き叫びながら、ミトが俺の胸に飛び込んでくる。

俺は。


「え、ちょっ」


と言いながら、へばりついてくるミトと鼻水を引き剥がそうとする。


「分かった!分かったからその伸びる液体を俺に付けるな!」


そんな俺とミトとのやり取りに、ネルはクスクスと笑っていた。


ーー「これからはちゃんと名前で呼んでくれよ」


俺は横を歩くミトに言う。


「分かった。これからはお主らでは無くタクヤとネルと呼ばせてもらおうかのぅ」


俺が提案すると、相変わらずの年寄り口調で、ミトは俺の提案を受け入れた。

俺達は今、クエストを達成する為に、近くのよくゴブリンが出ると言われている林道を歩いていた。

よく見るとこの道は、最初に町に来た時にゴブリンに絡まれていた馬車が、走っていた道だった。

ザザッ

ふと、道の両側にある草むらが動く。


「!タクヤ」


「あぁ」


どうやらお出ましの様だ。


「囲まれておるな」


ミトがそういいながら、宝玉を腰の周りに出現させる。

そういえばあの宝玉、どうやって出してるんだろうか?

後で聞いて見るか…。

俺がそんな事を思っていると、

キィィィィィィィィィィ

という耳障りな声が、そこらじゅうから聞こえて来た。


「気をつけて!あいつら鳴き声で相手をパニックにさせるつもりだよ!」


そう言って、ネルがアームを構えながら、ザッと一歩前に出る。

なるほど。

こんな声がそこらじゅうからすればパニックになるかもな。

ネルの忠告に納得して、俺も武器を構える。


「来い」


俺が願うと右手に、日本刀の様な俺の愛刀ーー魔剣グランデュエルが現れた。


「ミト後方支援を頼む」


「わかった」


俺はミトに言ってから、刀を目線の前に構える。

どこからくる……?

俺はゴブリン共の声に惑わされながら、茂みからゴブリンが出てくるのを待つ。


「ふー」


落ち着け、俺。

緊張で冷や汗が出てくる。

ザコキャラとして知られているゴブリンでも、この耳障りな鳴き声を聞くと、結構な迫力である。

するとネルが。


「大丈夫だよ」


と言って励ましてくれた。

なんて優しいんだ。

ネルのかわいい行動に俺が感動していると、ふとゴブリン達の鳴き声が消えた。


「…なんだ?逃げたのか?」


「いや、来る…つ!」


俺が油断したその瞬間、

グアウッガァーーー!!

茂みに隠れていたと思われる、ゴブリン数十匹が、一斉に俺達に襲いかかってきた。

ネルが素早く動き、ゴブリン達をあっとうする。

いや…!近くで見ると結構怖いぞ!

俺は鬼の様な顔で悪魔の様な声を上げているゴブリンにうろたえてしまう。

すると。

グゴォーー!!

1匹のゴブリンが、中々動けないで居た俺に襲い掛かってきた。

まずい…っ!

そう思った瞬間、ボッ!俺に向かってきていたゴブリンが燃えた。


「えっ…」


俺がマヌケな声を上げていると。


「立つんじゃタクヤ!奴らは弱い奴を標的にするぞ!」


ミトがそんな事を言ってくる。


「タクヤ!大丈夫…?!」


ネルが心配してくる。

思ったよりもゴブリンの数が多く、ネルも苦戦している様だ。


「クソ!」


ここで2人の手を煩わせちゃいけねぇな…。

俺はそう思うと、武器を持って立ち上がる。


「殺ってやるぜ」


俺は今度こそ怯まずに、目の前に居たゴブリンに切りかかる。


「オラァ!」


ズズズズ

スパンッ!

俺は首から脇腹にかけて斜めに切った。

分厚い皮と、首と背骨が切れる感触が伝わる。

そして緑色の血液が噴水のように吹き出した後、ドサッと倒れた。

よし!殺ってやったぜ…!

次だ!


「オラァ!ミト!バックアップは任せたぞ!」


「分かった!」


「行くぞネル!ゴブリン共を根絶やしにするぞ!!」


「うん!」


『はっっ!!』


ズサッ

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