第30話俺は意外と、弱いのかもしれない。

ハァハァハァハァ…

最初のゴブリンを倒して約1時間。


「く…っ。なんか数が多くないか?!」


「うん…この数は流石に異常だね…」


ネルが息切れ混じりに言う。


「タクヤよ…ここは引いた方が良さそうじゃ…」


ミトも、身体強化魔法を使って、ギリギリゴブリン達の攻撃をかわしている状況だった。

何とかしないと…つ。

でも。


「俺もそうしたいけど!こんなに囲まれてちゃ…っ!!」


ゴブリンと戦い初めて約1時間。

俺達は今、ざっと見えるだけで、100匹以上のゴブリンに、完全包囲されていた。

ネルは次々にゴブリンを倒していっているが、ゴブリン達の数は減りそうにない。


「ネル!少しペースを落とすんだ!!」


俺は向かってくるゴブリンを、刀で止めながら、ゴブリンの群れに突っ込んでいくネルに向けて言う。


「だめ…っ!私が休んだら2人の負担が増えちゃう…っっ!!」


ネルはそう言ってから、またゴブリンの塊へと突っ込んでいく。

俺は、「ネル!」と言って止めようとするが、ネルは無視して突っ込んで行く。

くそ……っっ!

まずい…っ!


「ハァハァ」


俺がネルを無理にでも担いで逃げようかと考えている時、声が掛かった。


「タクヤよ!」


「どうした!ピンチか?!!」


「ピンチだ!!それよりタクヤ!私が全魔力を使ってここ一帯を吹き飛ばす!そのうちにネルと一緒に逃げるぞ!!」


「分かった…っ」


俺はミトの提案に、俺達に当てないでくれよ!と、付け加えてから、その作戦をネルに伝える。

ミトの作戦を聞いたネルは、「くっ…っ分かった」と悔しそうに言って、ミトの作戦を聞き入れた。

俺達の中では1番強いネルは、どうやら悔しいと言う感情が出る程には余裕があるらしい。


俺らには無いけど。


そんな事を思いながら、俺達はミトの近くに集まる。

そして…。


「風と炎の宝玉よ、我が願いを叶えよ!

フランドトルネード(炎の竜巻)!!」


ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

ミトがそう言って魔法を唱えた瞬間、地面から遥か彼方の上空に向けて、様々な種類の赤色で出来た炎の竜巻が現れた。

そしてその竜巻は、地上にいるゴブリン達を易々と飲み込んでいき、僅か数秒で消し灰にしてしまう。


…顔が焼けるように熱い。


「す、すげぇ…」


炎の竜巻の見事な蹂躙に俺が見とれていると、「何をしておる!!早く逃げるぞ!!」とミトが言って、走り出す。

俺もミトを追って、ネルと一緒にその場から離れた。


ーーハァハァハァハァハァハァハァハァ


「なんなんじゃあの数は!!」


「そんなのこっちが聞きたいわ!!」


俺はミトの当然の疑問に突っ込む。

俺とミトは息切れまじれに会話をしているが、ネルはもう息切れが治っている様だ。

これがハイファイターと言うやつか…。


「タクヤ!大丈夫?!」


「あぁ、なんとかな…」


ボーンの町の草原まで逃げてきた俺は、膝に手を付けながら荒く息をしていた。

その時。


「うっ…」


バタッ


「タクヤ?!タクヤ!!ミト!早く治して上げて!!」


「わ、分かった!」


ミトが気を失っている俺に手をかざし、回復魔法をかけようとしてくれているのが、僅かに機能している聴覚で聞き取れる。

が。


「くっ、ダメじゃっ魔力が足りん…っっ!」


「そんな…っ!!」


「それにコレは毒じゃ!私の魔法では直せん…っ!」


その時。


「ゴブッ」


タクヤが吐血する。


「うぅ…タクヤぁぁ!!死なないでよぉぉぉ!タクヤが死んだら私…私…っっ!誰を頼ればいいのよぉぉ…!私をひとりにしないでよ…っっっ。バカっ!バカタクヤぁぁぁ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ネルが俺の体を抱きしめている感覚を最後に、俺の体の感覚が完全になくなった。


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